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22話:次の旅の目的地


 死ぬかと思った。と言うか、死んだと思った。

 割と本気で何で生きてるのか不思議なレベルの衝突事故だったんだが。

 いやまあ、生き残れたのは咄嗟にガードが間に合ったのと、何より近くに京介が居たおかげだろうけど。

 性格は悪いが治療に関しては最高レベルだからな。性格は悪いが。


「……で、詠歌。何か分かったか?」


 クマの核を手のひらで弄ぶ詠歌に尋ねる。

 裏表を確認しているようだが、非常に面倒くさそうな顔だ。

 一刻も早く司の元に行きたいのだろう。そこは申し訳ないとは思うが、もう少しまじめにやって欲しいものだ。


「ひとまず、お疲れ様でした。おかげで司君の格好いいところが見れました」

「アイツ、雑魚相手に無双しすぎだろ」

「さすが司君です」


 うっとりとした表情でこちらの発言を無視する詠歌に苦笑する。

 こういった物を見せるなら楓でも良かったが、生憎と見当たらなかった。

 そこで司を応援に来ていた詠歌を捕まえ、解析らしきものを頼んでみた次第だ。

 魔力の流れに敏感だから、俺よりは何か分かる可能性がある。


 と言うか、司に応援なんて必要だったんだろうか。何せワンパンである。

 まあ実際のところ、(一般人)(勇者)の格差なんてそんなものだ。

 そもそも蓮樹に一矢報いたのだって、あの場にあの条件でしか出来ない裏技のようなものだし。

 通常なら手甲ごと斬られて即死だからな。


「いつだって司君は最強ですからね」

「まあ、違いないが……それで、どうなんだ?」

「はい。これ、魔族の使う魔方陣が刻まれてますね」

「やっぱり魔族謹製(きんせい)か」

「それも四天王の……誰さんでしたっけ。マイスターの」


 顎に人差し指を当てて小首を傾げると、さらりと長い黒髪が流れる。

 どうでも良いが、詠歌が長髪なのは幼い頃の司の好みが理由らしい。

 当の本人は全く覚えて無いと聞いて不憫に思ったものだ。

 さておき。


「マイスター……イグニスか」

「それです。イグニスレベルの職人芸です、この魔方陣。とても精密に刻まれていますね」


 あぁ……そう言えばアイツ、生きてたな。

 と言うか、本人と遭遇したこともないが。

 まあ四天王全体で見ても、実際には一人としか戦ってないからなぁ。


 しかし、何かやるとしても今更すぎる気もするんだが。

 一年前ならともかく、時期がおかしくないか。


「ふむ。魔族って言うなら、探りを入れるなら魔王国だろうが……場所が悪いよなあ」

「国交断絶してるので情報はあまりないですね」


 俺の言葉に涼しい顔、と言うかどうでも良さそうな顔で肯定する。

 うーん。そうなんだよなあ。

 魔王国ゲルニカとは未だに国交が行われていない。

 互いに戦後の復興すら終わっていないし、そもそもあちらの暁星がどのようになっているかすら不明だ。


「調べるとなると直接行ってみるしかないか」

「ですね。頑張ってください」

「……いや待て。俺が行くと決まった訳じゃないからな?」

「え、行くんでしょう?」


 何を不思議そうに首傾げてんだよ。行くわけないだろ。

 と、言いたいところなんだが。


 行きたくはないんだが……他に適任がいない気もする。

 他の奴らは何だかんだで忙しいからな。


 ゲルニカ王国。通称魔王国。

 ユークリア王国から見て北の大陸にある、魔族の国。

 ユークリアに比べ魔法学が発展している国で、かつて魔王が統治していた国。


 出来ればそんな所には行きたくない。

 あちらからすると俺達は王を殺した恨みがあるだろうし、こちらも仲間を殺されて思うところは多々あるからな。


 魔王討伐の旅。

 それは、絵本に描かれているような勧善懲悪(かんぜんちょうあく)の物語ではない。

 あんなものは、ただの戦争だ。

 聞こえが良いように救国の英雄だの勇者だの呼んでいるが、殺し殺される日常を終わらせる為に俺達を異世界から召喚し、そして相手の国の王を殺させた。

 実際は、ただそれだけの話だ。


 ユークリア王国の人間もかなりの数が死んでいる。

 俺達をいつも擁護してくれていた前騎士団長のオーエンさんだって、あの戦争で命を落とした一人だ。

 他にも、名前を知る者から知らない誰かまで、大勢の命が散っていった。


 結局は、お互い様なのだろう。

 俺がアイツらを赦せないように、アイツらも俺を憎んでいる。

 至極当たり前の話だ。


 さらに付け加えるなら、魔王国に行きたくない理由がもう一つ。

 魔王国にはアイツがいる。

 四天王の一人、アイシア。俺に消えないトラウマを植え付けた麗しい魔族の姫。

 あの紅い瞳と三日月のような嗤い方が、脳裏に焼き付いてしまっている。


 ーーくふふ。愛しい人、もっと遊びましょう?


 ああ、くそったれ。思い出しただけで体が強張(こわば)る。


「……とりあえず、歌音と話して決めるか。流石に単独行動は怖いしな」

「はい。旅の準備はしておきます」

「いや、お前らは学校行けよ。魔法学校に入学して一週間で逃げやがって」

「嫌ですよ、面倒くさい」

「お前な……まあ、気持ちは分かるが」


 異世界に来てまで学校に通えって言われても、俺なら断るしな。

 こいつらにとってもそれは同じことなんだろう。


 だが、それが無くても戦争していた国に子ども達を連れていくのは抵抗がある。

 怨嗟(えんさ)の声を聞かせたくないと言うのは俺の勝手なエゴなのは分かっている。

 だが、エゴだろうと構わない。

 悲惨な戦争は終わったのだ。子ども達には平和な日々を過ごしてほしい。

 裏方の汚い仕事は大人の役目だ。そんな事に子ども達を関わらせたくはない。


「まぁいい。引き留めて悪かったな。司の祝勝会、行ってこい」

「はい。また後で」

「ああ、またな」


 小走りに去って行く詠歌を見送る。

 うーん。ああしていると普通の女の子なんだがなあ。

 司が絡まないことには本気で興味無いからな、あいつ。


 しかし、どうしたものか。

 どうにも胡散臭いと言うか、罠の予感がするんだが。

 武術大会中に魔方陣が起動したのは偶然か、狙ってやったのか。

 どちらにせよ、蓮樹がいる王都を攻撃するには手が弱い。

 実際一人で完封していた訳だし。

 となれば、何も考えてないか、違う何かを考えていたか。

 餌を撒いているとして、その狙いは何なのか。

 何にしても、非常に面倒くさい事には変わりない。

 あーくそ。行きたくねぇな、ゲルニカ。


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