異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった俺は異世界で二度目の旅をする。仲間たちはチートだが俺は大して強くもないし、英雄なんて柄じゃない〜

19話:勇者との約束

　武術大会は二日間に渡って開催される。初日の今日は二回戦までだ。

　出場者の疲労が溜まってしまうからという理由の他に、闘技場の整備や治療班の休息といった理由があるらしい。

　詳しくは歌音(運営側)に聞けば分かるのだろうが、正直そこまで興味がない。

　それよりも今は、ニヤニヤしている京介と、キラキラしている歌音と、全く目を合わせてくれないリリアの対処の方が重要だと思う。

　京介に関しては予想通りだ。

　大会で全力を出す以上、こんな反応をされるだろうなとは思ってはいた。

　どうけ本気を出した理由も察しているのだろう。

　何となく腹が立つが、実害が無ければ良しとする。

　それに実害がある場合は楓に泣きついてやろうと思う。

　こいつ、素の楓(純粋な善意)には弱いからな。

　歌音もまあ、想定の範囲内だ。

　多分後で死ぬほど絡んでくるだろうが、いつものように適当に対処すれば問題なし。

　だが、リリアに関してはよく分からん。

　何を話してもどこか上の空。反応が薄いと言うか……かといって落ち込んでいる訳でもない。

　蓮樹曰く俺のせいらしいが、何も心当たりが無い。

　さて。どうしたものか。

「……あー。リリアさんや」

「ふぁっ⁉　はい、なんですか⁉」

　一事が万事この調子である。

「いや、なんて言うか……どうした？」

「……いえ、ちょっと。思うところがありまして」

「俺が何かしたなら言ってくれると助かるんだが」

「ええと。何かしたと言えばそうなんです、けど」

「けど？」

「その……言えません」

「お、おう。そうか」

　なんだろう。この、年頃の娘と何を話したらいいか分からない父親のような感覚。

　いやまあ、近いものがあるかもしれない。

　さすがにリリアくらい大きな娘がいる歳ではないが。

「ただその。ありがとうございました」

　しかし、こんなに嬉しそうな笑顔を見せられてしまっては、細かい事はどうでも良いかと思ってしまう。

　話したければいつか話すだろう。たぶん。

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　城に帰り着いた直後、先に帰っていた司に呼び止められた。

　試合内容に関して何か言われるのかと身構えたが、その口から発せられたのは意外な言葉だった。

「…亜礼さん。明日は蓮樹さんに勝ってほしい」

「はあ？　無理に決まってんだろうが」

「…明日は、直接やりたい」

　今、直接殺(や)りたいって聞こえたんだが。

　しかしこいつが頼み事をしてくるなんて珍しいな。

　出来る限り叶えてやりたいが……その内容がなあ。

「あー……まあ、努力はする」

「…うん。俺も久しぶりに本気出すから」

「マジでやめろ、相手が死ぬ」

　ついでに言うと俺も死ぬ。

　本気の司の相手なんて絶対にゴメンだ。

「…亜礼さんは、やっぱり凄い」

「試合の話か？　芍薬(あれ)は司の技だろ」

「…芍薬・改(あの技)は俺には使えない」

「司は魔力が自動で身体強化に回ってるからなあ」

　と言うか。呼吸法で丹田に生じた気を放つとかいう芍薬(元の技)より、魔力の流れを使用する芍薬・改(あの技)の方が一般人向けというだけだ。

　難易度が下がる分、威力も精度も元の技に劣るので、司が使う必要は全く無い。

「なんだ、魔法に興味が出てきたのか？」

「…いや、まったく」

「だろうなあ」

　火を着ける、空を飛ぶ、離れた敵を倒す、など。

　魔法で出来る事は、司の場合はその馬鹿げた身体能力で同じことが出来てしまうのだ。

　一部例外もあるが、その場合は他の奴も真似できないからな。

　司にとって魔力なんて有っても無くても大して変わり無いのだろう。

　かと言う俺も魔法は得意では無い。精々が体内で魔力を操ったり出来るだけだ。

　火を着けたり、なんて事は不可能である。

　一応、チート(アガートラーム)で空は飛べるが。

「まあ、明日も全力で頑張りはするさ。死にたくないからな」

「…決勝で戦えたらいいね」

「お、おう……本当に加減しろよ？」

「…努力してみる」

　珍しく、にこりと笑う。うむ、普段の無愛想な面より余程良いな。

　言ってることは中々恐ろしいが。

　とりあえずお前は柱の影からこちらをガン見してる詠歌の所に行ってやれ。

　俺の精神衛生上、大変宜しくない顔してるから。

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　そしてさらに。風呂上がりに自室に向かう途中て、えらくテンションの低い隼人に遭遇した。

　滅茶苦茶疲れた顔でふらふらしている。

「阿礼さーん……何かつーちゃん(司)がえらい気合い入っとるんやけどー。無理やり訓練付き合わされてなー」

「ああ……悪い。俺が原因かもしれん」

「知っとるー。もーめっちゃ疲れてんー」

　肩を垂らして頭も垂らし、ぐったりとした様子で語る隼人。

　そのくたびれた姿に、つい肩を叩いてしまった。

「そうか。お疲れさん」

「おー……あ、せや。亜礼さん、明日、気ぃつけてな」

「うん？　まあ、気をつけるが」

「ちゃうねん。なんか、詠歌が『おかしな色が視(み)える』とか言うとってな」

「……詠歌が？」

　早坂詠歌。

『空気を読めるようになりたい』と女神に願った少女。

　その加護は当たり前のように曲解され、『遠く離れた空間を把握する能力』となった。

　あの女神も大概だが、願った内容も大分凄い。

　ちなみに、楓命名は『闇を見透す第三の瞳(ヘイムダルバレット)』である。

　能力的には、千里眼というのが一番近いだろうか。

　遠く離れていたり、壁を隔てている場所を見通す事が出来る。

　また、生き物の感情というか、精神を色として視認できる、らしい。

　正直理屈はよくわからんが、今まで詠歌の忠告が外れた事がないのを知っている。

　つまり、何かしらのトラブルが起きる可能性が高い訳か。

「分かった。警戒しておく」

「おー。頼んだわー」

　まあ何にせよ、明日を生き延びることが目下の課題である事に変わりはないのだが。

　さて。面倒な事にならなければ良いんだがな。