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12話:児玉蓮樹


 昨日の宴会に関して、思う事があるのは歌音だけじゃなかったらしい。


「宴会するならするでアタシに一言もないってどうなのかなーって思ってみたりするんだけどもっ⁉」

「あ。すまん、普通に忘れてたわ」


 そういやこいつもかなりの酒好きだったな。

 久しぶりすぎてすっかり忘れてたわ。


「ぃよぉぉぉぉしっ‼ その喧嘩買ったっ‼ 表にでろぃっ‼

 夕日の中で殴りあう青春ドラマみたいな感じを表現してやろうじゃんかっ‼」

「いや、遠慮しとく」


 俺が普通に死ぬわ。手加減とかできないだろお前。

 そもそもまだ昼間だし。


「にょあぁぁぁっ!‼ じゃあこの気持ちはどこに向ければっ⁉」

「その辺に捨てとけ」

「不法投棄は良くないんだよっ⁉」


 言いながらもぽいっと投げる仕草を取る。

 うん、相変わらずの適当さで安心したわ。

 何だかんだ言って仲間内で一番話しやすいからな、こいつ。


「……で? 文句言うために来たのか?」

「うんにゃっ‼ なんかこうアレなんだけどさっ‼」

「どれだよ」

「アレって言ったらアレでしょって言うかほらっ‼ 武術大会なんだけどもっ‼」

「ああ。お前も参加するんだってな」


 滅茶苦茶嫌だなあ。今からでも取りやめにならないだろうか。

 痛そうだし怖いしでろくな事無いんだが。


「にゃはははっ‼ アタシは強制参加シード枠らしいけどにゃっ‼」

「お、そうなのか。俺の死亡確率が減って何よりだ」

「そもそもアタシが参加するの自体がダメダメな気しかしないんだけどねっ‼ 歌音ちゃん(可愛い子)に頼まれたら仕方ないっ‼

 ……て言うか、まあ、怖いからね、うんっ!!」


 確かに。


 だがまあ、真面目な話。

 仲間達と一般人が戦うのは無謀にも程があると思うのだが。

 俺や非戦闘系の奴ならともかく、蓮樹や司といった主力は人間の枠を軽く越えている。

 最強(チート・オブ・チート)

 だからこそ、魔王を倒せたのだから。


「ふむ。しかし歌音の奴、何がしたいんだろうなぁ」

「世界最強決定戦じゃないかなっと思ってみるっ‼」

「司とお前で勝手にやってくれ。俺みたいな一般人を巻き込むな」

「アタシは興味ないから司っちに進呈いたしますっ‼」

「まあ、だろうな」


 こいつは元々、強さなんて求めていない。

『何者にも勝る速さ』

 それが蓮樹の求めた加護だった。

 女神の気まぐれ……と言うか天然ボケでたまたま最強の一人になっただけで、その結果自体に何も(こだわ)りは無いのだろう。

 基本的に適当だしな、こいつ。


「アタシは最速だったらそれで良いからねっ‼ あとは美味しいご飯と美味しいお酒と可愛い子がいれば満足かなっ‼」

「おう。オヤジくせぇな」

「乙女に向かってなんて口を聞くのさっ‼ 表にでろぃ!!」

「断る」

「にゃあああぁぁぁっ‼」


 吠える蓮樹。猫かお前は。

 こいつも黙ってれば凄い美少女なのになあ。残念な奴だ。

 いや、年齢的には美女と言うべきなんだろうが、体型と顔立ち的に少女にしか見えないんだよなあ。

 前に合法ロリとか言ったら切り殺されかけたのは良い思い出だ。


 しかし、最強決定戦、ねえ。

 そんな理由で歌音が蓮樹に頼み事をするとは思えないんだが。

 釈然(しゃくぜん)としないと言うか、違和感があると言うか。うーむ。

 歌音も暇じゃない。実質的に国営を任されている状態で、無駄なことに浪費する時間など無いと思うんだけどな。


 ………あ、いや。そうでもないのかもしれない。

 今日俺を迎えに来たくらいだし。

 うーん。どうにも読めないな、あいつは。


 ともあれ、最強決定戦か。心踊る言葉なのは確かだな。

 機会があれば是非見てみたい。

 蓮樹のやる気が出れば実現するかもしれんが……まあ難しいだろうな。

 こいつ、大体何でもできる癖に、興味がある事にしかやる気出さないし。


「……『神魔滅殺(ラグナロク)』 対 『韋駄天(セツナドライブ)』か。いつか見てみたいもんだな」

「ぎゃああっ⁉ その名は止めてぇっ‼」

(可愛い子)からの贈り名だろうが。喜べよ」


 悶絶する蓮樹に追い打ちをかけておく。

 ちなみに勇者一行は全員、(中二病)命名の二つ名がある。

 なかなかにロマン溢れるネーミングだと思うのだが。俺を除いて。


「にゅううっ‼ それさえ無ければにゃーっ‼ あの子も良い子なんだけどもにゃーっ‼ 壊滅的なんだよにゃーっ‼ にゃーにゃーっ‼」

「言いたいことは分かるが、猫か」


 喚き散らす蓮樹の頭に軽くチョップを落とすと、無駄に俊敏な動きで避けられた。

 どうでも良いが、地球の最速生物(あっち)のチーターは猫科だった気がする。

 いや、にゃあとは鳴かないんだろうけど。


「まあ、機会があれば歌音に聞いてみるか」

「まーよろしくっ‼」

「あとお前、俺と当たったら加減してくれよ。マジで死ぬから」

「考えとくねっ‼」

「本当に頼むぞ。手加減失敗で死ぬとか笑えなさすぎるからな」


 まあ、実際戦うことになったら即ギブアップするつもりだが。

 しかしそれが通らないルールを作られそうで怖い今日この頃である。


「て言うかっ‼ 次の宴会はいつなのかなっ⁉」

「あー、どうだろうな。しばらくはやらないと思うが……早くても武術大会後じゃないか?」

「遅い遅い遅いっ‼ 今日やろうっ‼」

「無理だろそれ。酒飲むだけなら付き合ってやるから我慢しとけ」

「むぅ。それはそれでっ‼」


 言っておいて何だが、いいのかよ。

 ただ騒ぎたいだけなのかもなコイツ。

 まあ俺としては別にそれでも構わんが。蓮樹と飲むのは楽しいしな。


「ああ、それなら歌音も誘ってみるか? 暇なら来ると思うが」

「うわっ‼ マジでっ⁉ この流れで他の女の子誘っちゃうっ⁉」


 いや、そんな事を言われてもな。

 俺とお前が男女としてどうにかなるのは有り得ないだろ。


「何だ、二人で飲みたいのか?」

「……微妙なところかなっ‼」

「そうか。じゃあ誘うだけ誘ってみるか。黙ってると後が怖ぇし」

「それもそうだねっ‼ じゃあ任せたっ‼」


 ビシッと両手を上げて飛び跳ねる。

 ほんと無駄に元気だよな、こいつ。出会ったとは大違いだ。

 あの頃はまさかこうなるとは誰も予想しなかっただろうなあ。

 ともあれ、そうと決まれば歌音を探しに行ってみようかね。

 多分自室か執務室だろうし、すぐに見つかるだろ。


 結局その日は歌音を見つけることが出来ず、蓮樹と二人で深夜まで飲み明かした。

 二日酔いした日にまた酒を飲む辺り、俺も相当だなとは思う。

 まあ、蓮樹が嬉しそうだったし良しとするか。


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