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10話:水無月楓の心境


◆視点変更:水無月楓◆


 昨晩廊下ですれ違った後、亜礼さんは京介さんと一緒に街へ出掛けたらしい。

 歌音さんが不機嫌な顔で自分も誘ってほしかったと愚痴っていた。

 私も同意見。だけど、お酒はまだ飲んじゃいけないと言われているので、ちょっと諦めぎみだったりする。

 ……ずるい、と思ってしまうのは仕方ないんじゃないだろうか。


 亜礼さんは自分はよくお酒を飲むのに、未成年はお酒を飲むなって言う。

 ここは日本じゃないのに、と少しだけ不満が出てくる。

 でも亜礼さんの言うことなので、みんなも大人しく聞いている感じだ。

 後四年。ずいぶん先な気がするけど、二十歳の誕生日に一緒にお酒を飲む約束をしくれたので頑張ろうと思う。


 亜礼さんは、不思議な人だ。

 真面目なようで不真面目だし、女の人に甘い。

 いつもふらふらしてるように見えるし、なんとなくだらしないお兄ちゃんみたいな人。

 しっかりしてほしいと何度も思ったし、実際何度か直接言ったことがある。


 でもみんな、亜礼さんを信頼している。

 それだけは真実だ。


 少し前に未成年組(子ども達)だけで、私たちの中で誰が一番強いか話し合った事がある。


 一対一なら司君か蓮樹さん。

 敵がたくさんいたら隼人君か私。

 お城を守るなら歌音さん。

 いろんな条件でいろいろ話した。


 でも、何でもありなら、

 最後に立ってるのは亜礼さんだという結論が出た。

 みんなそう言ってたし、私もそう思う。


 敵がどれだけ強くても、敵がどれだけ多くても。

 亜礼さんは絶対に諦めない。

 どんな時でも一番前に立っていて、仕方がないと言いながら、どんな敵でも倒してきた。


 亜礼さんの神造鉄杭(アガートラーム)はあまり強くない。

 速く翔べると言っても小回りは効かないし、ロケット花火みたいに真っ直ぐにしか翔べない。

 必殺技は敵に触れる必要があるのに、剣とか槍に比べてリーチが短い。

 昔の私は、自分なら近づかれる前に倒せると思っていた。


 でも魔王軍との戦いでその認識は変わってしまった。

 私が撃てる最大量と同じくらいの数の魔法を撃たれても、亜礼さんには一つも当たらなかったのだ。

 大雑把にしか動けないのに、未来予知みたいな予測で動き回って敵の攻撃を全て避けていく。

 その様子はまるで、敵の攻撃が勝手に外れていくようだった。


 攻撃が当たらないから、亜礼さんは止まらない。

 一度決めたらどこまでも、最後までやり遂げる。

『意志を貫く力』

 どんなに硬い相手でも、どんなに速い相手でも。

 亜礼さんは全部、貫いてみせた。


 魔王軍や四天王と戦った時もそうだった。

 一番前で、たった一人で。

 誰よりも傷つきながら、それでも前に進んでいた。


 そして私たちは、その背中を見ながら旅をして来た。

 亜礼さんの後ろで、その生き方をずっと見てきた。

 それはたぶん、実の家族以上に。


 誰よりも弱くて、誰よりも死にかけていて。

 でも、誰よりも心が強い人だと、今ではそう思える。


 いきなり姿を消したのは凄く悲しかったけど、また私たちの前に戻ってきたくれたのは凄く嬉しい。

 ……また女の子を連れてきたのは、思うところがあるけど。


 今度、リリアさんと出会った時の話を聞いてみようと思う。

 どうせまた、困ってるリリアさんを助けた、とかなんだろうな。

 いつも誰かを助けてばかりいるし。

 

 いつか、私がもっと大人になった時でいいから。

 弱音を吐いているところを見てみたいと思う。

 その時は、胸を張って亜礼さんを支えられる人になっていたいと思う。


 けれど。今はまだ。

 子ども扱いでもいいかなって思ってしまう。

 きっとその方が、たくさん頭を撫でてもらえるから。


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