1.目が覚めたらおっさん貴族に
たぶん遅投稿
「ん、ふわぁ。……ここ、どこだ?」
しがない大学生の俺が、ある日目を覚ますとそこは中世ヨーロッパのような趣の部屋の中。天蓋つきの豪奢なベッドの上に横たわっていた。
「うーんこんな夢ははじめてだなぁ」
鮮明すぎる夢に驚きつつも、せっかくなら楽しもうと身を起こして周囲を見わたす。
高そうな陶器や絵画が広い部屋の至る所に置かれていて、まさに金持ちの部屋って感じだ。
ベッドを下りて窓の外を見に行こうとしたとき、奇妙な違和感を覚える。
「ん?なんか変だな。なんというか、こう、立ったときの体のバランスが違うというか…」
そこで自らの体を見ようと視線を下げる。
「え?はぁ?!」
なんと驚き、俺の体は中年オヤジが如き肥満体になっていたのである。
鏡代わりに姿を写そうと、俺ははすぐさま窓に駆け寄る。
「馬鹿、な。夢にしては冗談きついぞ」
窓にうつる俺の顔は、ちょうどその体にピッタリの中年男性のものであった。
具体的には、金髪碧眼に西欧系の男性の顔である。そこまではよかったのだが、肥満からか間延びした顔は酷く醜く、ひとことで言うと。
「キモい……」
呆然と窓前に立ち尽くしていると窓の外の様子が目にはいってくる。
やはりどうやらここは豪華な館のようであり、噴水付きの広い庭と、そこを通り過ぎる、恐
らく使用人とおぼしき質素な恰好の人々が見えた。
「これってもしかして……違う世界にきてしまった、或いはタイムスリップした、とか?まさか、ね」
目覚めてしばらくたってきて、現状を冷静に考え始める。夢にしてはどうもリアルすぎるのだ。
コンコン。
「は、はいっ」
突然ドアがノックされ、驚いて返事をする。
「ズウェズダ様、朝食のご用意ができました」
ズウェズダというのがこの顔の男の名前なのだろうと思いつつ、再び返事をする。
「は、はい」
声をかけてきた者の足音が遠ざかっていく。
「ふぅ、驚いた。しかしズウェズダ“様”か」
よく見てみれば俺が着ている服は先ほど窓から見えた人々のものよりも質の良さそうなものであり、ご丁寧に指には宝石らしきものの指輪まではめてある。おそらくこの場でそれなりに地位の高い人物なのだろう。
「この顔と体さえなければなぁ。とはいえ朝食に呼ばれてしまったし、状況を理解するためにも部屋を出るしかないか」
ガチャ。大きなドアを開けてから気が付くが、俺はこの広い館の構造を知らないのである。
「朝食ってどこに行けば食べられるんだ?うーむ、誰かに聞いてみるしかないか」
しかし「朝食ってどこで食べるの?」なんて聞いたら怪しまれること間違いなしだ。ないとは思うが、万一にも“入れ替わり”がバレることは避けたい。それとなく聞き出さなくてはならないな。
部屋を出てしばらく廊下を歩くと正面に大階段、左右には廊下が続いている。周囲に人はいない。さてどうしたものかと立ち止まっていると、右側の廊下の奥から質素な恰好の10代後半くらいに見える女が歩いてくる。ズウェズダと同じく長い金髪に碧眼だが、彼とはうってかわってとても美しい顔立ちをしていた。
「おはよう」
「お、おはようございます、ズウェズダ様」
俺が声をかけると、彼女は羞恥と畏怖が混じったような顔で見つめてくる。
「と、ところで私はこれから朝食なのだが、君も朝食へ行くのかね?」
「いえ、私は……いえ、ズウェズダ様が来いとおっしゃるならお供致します」
顔にふさわしそうな言い回しで尋ねてみるが、彼女は困惑したようにそう答えた。
「よ、よし、では……行こうか」
しかし当然俺は食事をする部屋の場所など知らないので二人廊下に立ち尽くす。
「ど、どうされましたか?」
「いや、なんでもない。君が先に行きたまえ」
「し、承知しました。では……」
計画通り。多少雑なやり方だったが、なんとか案内してもらえそうだ。歩き出した彼女の3歩後ろを大和撫子の如くついていく。
「して、君名前はなんと言うのだったかな?」
「ライリーといいます」
「ふ、ふーん。それで君はこの屋敷で何をして働いているんだ?わ、私はさして興味がないので使用人事情には疎くてな」
俺が彼女に問いかけると、彼女は驚いたような表情を浮かべた後、恥ずかしげに顔を伏せ、小さな声で答える。
「……れいです」
「え?」
「あ、あなた様の奴隷です」
「…………は?」
な、なにを言っているのだこの女は!?い、いや待てよここは貴族などという身分が存在そる中世ヨーロッパ風の世界。奴隷という身分が存在してもおかしくはないか。しかしこのキモ貴族(俺)こんな美人を奴隷として傅かせるとは。けしからん、実にけしからんぞ。さながら異世界モノによくいる変態悪役貴族といったところか。
「あー、そうであったな。してお前はどのようにして奴隷になったのだったかな?」
「はい、先月税を払えなかった私達の村にズウェズダ様がいらっしゃり、税の代わりに私を
奴隷として差し出すことでご慈悲を頂きました。」
うわー完全に悪代官じゃん。しかし先月ということは屋敷に来たのはごく最近か。
「まぁ、なんだ今後ともよろしくな」
「ひぃっ、は、はい」
あー、今のセリフはまずかったか。なんせ今の俺は変態貴族だもんなぁ。とはいえ可愛い女の子に嫌悪や恐怖の表情を向けられるのはちょっとキツい。喫緊の課題としてダイエットをすることにしよう。そんな決意をしているうちに俺たち二人は食堂とおぼしき部屋の扉の前についた。扉を開けると、中央に長い長方形のテーブルが据えられた豪華な部屋が見えた。テーブルには十何人と座れそうな程椅子があったが食器が並べてあるのは上座の一席のみであった。おそらくそこが俺の席なのだろう。テーブルの横にはメイドが4人と老年の執事が一人並んでいる。
「「おはようございます、お主人様」」
「お食事の用意はできております」
「うむ」
「失礼ですが、その奴隷は?」
「ああ、ライリーか。せっかくなので一緒に食事をと思ってな」
「さ、さようでしたか。それでは使用人用の食事を持ってこさせましょう」
そこで俺はテーブルの料理に目をやる。見ているだけでよだれが出そうな素晴らしい食べものばかりなのだが、何というかその、朝から量が多い。こんなに食っていればそりゃズウェズダ様は太るわけだ。ここはライリーに俺のダイエット計画に協力して貰おう。
「ふむ、私の分をいくらか分けてやれば良いだろう」
「しかし奴隷にこのような豪華なものを、よろしいのですか?」
「私がよいと言っているのだ、問題なかろう。なんならお前達にも少し分けてやろうか?」
「い、いえお言葉だけありがたく」
「ふむ、では食事としよう」
「あ、ありがとうございますズウェズダ様。私などにこのように豪華な食事を」
「一人で食べるのも味気ないのでな、さあ早く座りなさい」
ライリーを隣の席に座らせると料理を何皿か分けてやる。少し離れたところでメイドたちが「ズウェズダ様はどうなさったのでしょう、まるでお人が変わったようです」などと囁きあっていたが気にしない。今までこのズウェズダという男がどれほどの悪貴族だったのかは知らないが、俺にそんなシュミはない。この先俺がこの男の身でこの世界を生きていく以上人が変わったように見えてしまうのはやむを得ないことだ。まあ余り急激に変わりすぎると問題になりそうではあるが。
初投稿、頑張りま。