◯ 今後の方針
(やっって、しまった…。)
顔を赤くしながらも礼儀正しく扉を閉めたヴィンセントをみて後悔する。
(あの子、ヒロインの執事になる…あのヴィンセントだよね。)
これは、ダメだ。非常にまずい。
この世界が純粋に乙女ゲーの世界ならば、理想的なヒロイン像になるだろうけど、残念ながらこの世界は乙女ゲーの世界じゃない。乙女ゲーにモブとして転生してしまった女の子が主人公の恋愛小説だ。
…そしてその恋愛小説の中で、私ーー乙女ゲーのヒロインは悪役。
私はヒロインなの!それなのになんでモブのあんたが愛されて私が愛されないのよ!?って喚き散らすタイプのぶりっこ女だ。
もちろん、なんじゃこのクソ女、ってな感じで私はこいつが嫌いだった。
でも正直言って、主人公も大して好きじゃなかった。「目立ちたくない」って言いながらメインキャラに堂々と会いに行き、キャラたちが暴走しても、口だけで「ダメだよ、こんなの…なんで分かってくれないの?」って泣き崩れておしまい。矛盾した言動と意味の分からん行動力の無さにむしろ若干イラッとした。
て言ってもまあ、そこそこ好きなキャラはいたし、その子たちの幸せライフを少しでも陰ながら手伝ってあげれたらいいのにって、基本眺めるだけのオタクライフを送るつもりだった。
つもり、だったのにーー
(ぐぅぅぅぅ!早速キーキャラと接触してしまったぁぁぁぁぁ!だってさ!?目の前でボロボロになって倒れてる子ほっとけないっしょ!?しかも目覚めてみたら超かわいいショタだしさ!?優しくしちゃうでしょ!)
心の中で荒ぶりながら、着替えを済ませて部屋を出る。横を見ると、背筋を伸ばして相変わらず緊張した面持ちのヴィンセントが立っていた。
「お待たせ、ヴィンセント。」
「は、はい。あっいえ…!?」
「え?」
「な、ナンデモナイデス…。」
少し気まずそうに目を逸らすヴィンセント。その綺麗な顔を見ながら、心の中で呟く。
(ああ…かわいい…。)
流石物語のキーとなる子なだけあってものすごく顔がいい。
…決めた。私はもう物語云々は気にせずにオタクライフを楽しむことにする。もしも…というか元々メインのキャラである私は、そのほかのキャラたちと接触は避けられない。なら、いっそキモオタになって仕舞えばいい。
物語の世界、そもそもの平均顔面偏差値が前世と比べものにならんくらい高い。物語のキャラ以外の推しを見つけて私は幸せになる。
そんでもってすでに推すことを決めてるヴィンセントを私は責任持って幸せにする。推し養えるとか本望すぎて幸せだわ、まじで。
待ってろ、私の充実オタクライフ!誰がでてこようと私は推しを幸せにしてやる!
ちなみにこれはフラグでもなんでもない!決して!