第36話
決心したの。
これで何通目のメールだろう。
カヲル読んでくれてる?
私ね、決心したの。
あなたを愛している。
もうどうにもならなくなってるの私の気持ち。
私ね。
あなたがどんな人でもかまわないと思ってる。
容姿に問題があってもそんなこと気にしない。
あなたがいつも私にくれる言葉は
真実だってそう信じてる。
そうね。
たとえ嘘だったとしても
もう私の気持ちは固まってしまってるの。
とにかくあなたに逢って
そこから始めてみようと思う。
私はもう後ろは振りかえらない。
夫とは離婚するわ。
そして、あなたに逢う。
だから、お願いだから私と逢って。
私どんなことが待ってても驚かないから。
【しもらー】
****************
たとえ、どんなことになろうとも──
たとえ、カヲルが女だったとしても──
カヲルという存在を愛する気持ちに嘘偽りはない。
彼は、あるいは彼女は、私にとって何よりも「欲しいと思うもの」を与えてくれる人。
それが人にとって成長を妨げると、いったい誰が決めたというの。
相手が己の思う通りに動かない。
世の中は自分の思う通りにいくわけではない。
それはそうなんだけど。
普通の人ならどんな試練でも、それを精神の糧とすることはできるかもしれない。
だけど、儚くもろい心を持つ者にまで同じような試練を与えられたって、そんなの自滅するだけじゃない。そんなこともみんなわかんないの?
きっと頑張ってくれる。
きっと強くいられる。
きっと家庭を守ってくれる。
きっと子供を産み育ててくれる。
きっと立派に妻をこなしてくれる。
きっと───
きっと───
わかってる。
そんなこと誰も私に言ってる人なんていないって。
ただ自分が勝手に「みんな、そう思ってるんだ」と思いこんでるだけだって。
だけど、どうしても頭からその言葉が消えないの。
わあん、わあんと反響して、頭が割れそうになる。
どうして、そんな強迫観念にとらわれるんだろう。
ああ。
私の周りには誰もいないからだ。
私を強く抱きしめて、
「大丈夫だよ。誰も君のことを責めちゃいない。君は君でいればいいんだから。誰のためでもない、自分のためにね」
優しく頭をなでて、子供をあやすように低い声で囁いてくれる人が私にはいないからだ。
以前は、そうやって優しく抱きしめて、甘やかに耳元に囁いてくれる存在がいたはずなのに。
いつの頃からか、私の傍には誰もいない。
ああ。
声が聞こえる。
「あんた嫌い、死んだら」
女の声。
「僕がいるよ」
男の声。
「……………」
「……………」
「……………」
他にも聞き取れない声がたくさん。
このままでは私気が狂ってしまう。
ここからなんとしてでも這い出なければ。
そのためには───
私は夫と離婚する。
それしか私には残されていない。




