糸繰り屋の少女
読んだ方が楽しんで頂けるなら、それが物書きの幸せ。
※主に女性が、とても不快と感じる表現があるかもしれません。 もし耐えられないと感じましたら、回避をお願い致します。
とあるベッドタウンのベッドタウン。
そうとしか呼べない、田舎町。
その町には、不思議な少女が居ると聞く。
曰く、最強の縁切り屋。
曰く、最高の縁結び。
曰く、名探偵。
曰く、奇跡を呼び込む神子。
曰く、死神。
曰く、人生の転換点。
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今日もひとり、噂を信じてその少女を探す中年男がやって来た。
聞いていた目印は【糸繰り屋】と書かれた小さな看板を吊るした、小さな事務所兼住宅。
営業日は土・日の夕方。予告無く営業時間の変更や休業となる可能性がございます、大変申し訳有りませんがご了承をお願い致します。
そんな話だったが、目的地を探し当てた人生に疲れぎみな男性はホッと息をついた。
【営業中】
今回の彼は運が良かった。
過去最悪は、3週間粘って【休業中】の札が下がり続けると言ったものである。
実はこの店、入店する際に作法がある。
道路に面した事務所入り口から入るのではなく、入り口脇に貼られた案内に従って家屋を回り込み、裏口から入らねばならない。
店利用者のプライバシーを考慮してと聞いているが、正直な所は謎だ。
なお、正面事務所入り口から強引に入店しようとした者は警察を呼ばれ拘束され、再び訪れようにも糸繰り屋を発見できなかったそうな。
案内に従った男性は、妙齢の美しい女性に対応され、とある一室へと案内された。
そこはまるでオカルトとファンシーの巣窟。
あまりの事態に、彼は思考を停止させて口を半開きにさせながら、室内を見回す。
部屋自体は整頓されているものの、何に使うかよく分からない物に囲まれつつ、棚や部屋の主が使っている執務机としか呼べない机に、色とりどりのぬいぐるみが並べられている。
それとさりげなく猫カレンダー犬カレンダーが並んで壁に吊るされており、これは笑ってはいけないあの番組でもやっているのだろうかと疑いたくなる。
執務机の椅子には、明らかに幼い少女が悠然と座っており、男性を無遠慮に見ていた。
案内していた女性が少女の後ろに控えれば、ローティーン特有の甲高くもとても可愛らしい声が聞こえ、それをきっかけとして正気に戻った中年。
「糸繰り屋へようこそ。 この店での注意点は知っていますか?」
これにうなずく、お疲れ男。
簡単に言ってしまえば3つ。
1つ、店の利用は1度きり。 利用後の返品クレーム一切受け付けません。 当店ご利用後発生したトラブルへの責任は、一切負いません。
2つ、料金はおよそ、新入社員の手取り2ヶ月分。 ニコニコ一括現金前払いのみ。
3つ、依頼は糸に関する物だけ受け付ける。 赤い糸だの運命の糸だの以外にも、線や繋がりと言った糸を連想するものだけ。
知っていると証明するべく、銀行から下ろしたての諭吉様小銃1小隊分を少女が使っている机へ置いて証拠とする。
慣れた手つきでささっと数えた今まで無表情だった少女が、にっこり子供らしい笑顔を見せた。
「依頼を伺いましょう」
ちなみに依頼料を用意できていないと、虫を見る目で「依頼料を用意できるまでは、お客様として扱いません」等と言われて放り出される。
――妙齢の女性が持つ腕力は人外だと評判で、大の大人の首を片手でつまみ上げ、文字通り放り投げられる程だそう。
金を見せられてはじめて笑顔になる、現金な少女だと詰る者も居るだろうが、これは仕事。
無償や不当に安い料金で仕事をさせようなんて、甘い考えをする方がおかしい。
それでも依頼に応じろとしつこくやってくる輩は、正面突入の迷惑客と同じ道を辿る。
こんな幼い少女に何ができるのかと、心の中で毒づいた結果忘れてしまったセリフを捨て、率直に依頼を行う。
「愛人の腹に居る、まだ半年と経ってない胎児のへその緒を切れるか?」
「その程度なら造作もありません。 今すぐにでも行いましょう」
彼の者より繋がりし、縁の糸。
辿って、手繰って、くるくるり。
ハサミを模した、チョキの手で。
見つけた繋がり、命の運命、断ち切った。
男は覚悟を見せた。
男は運命を変えてほしいと、少女へ依頼した。
果たされた結果は、変わった運命の結果。
責任は全て変えてほしいと依頼した男のもの。
男にどんな結末が待っていようと、少女の知った事ではない。
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依頼は果たされ、中年が囲っている女性は流産となった。
これを機として関係を一方的に解消し、浮気を無かったこととし、絶望へ沈んだ愛人が壮絶な事件を起こすかも知れない。
解消するにしても妻と愛人へ色々打ち明けて、全力で謝罪してなんとか全方位に角が立たずおさめられるかも知れない。
子供を流してしまって悲しむ愛人への情が深まり、離婚騒動で妻から刺されるかも知れない。
妻、愛人。 双方との関係に疲れ、全てを捨てて逃げ出すかも知れない。
愛人関係を円満解決し、妻と子供がいる家庭へ立ち返るかも知れない。
全ては男次第。
糸繰り屋の少女はただ、人の願いを叶えるだけ。
一緒に住んでいる女性と共にこの世を楽しむべく、仕事を片手間にのんびり過ごす。
コンセプトは客がやってくる笑ゥせぇる○まん。
不思議な幼女への依頼をきっかけに、成功するもの・転落するもの・破滅するもの・波乱万丈な人生へ至るもの・特に変化が起きないもの・願っても店にたどり着けなかったもの・なにも知らずとばっちりを食らったもの。
様々な人間模様を垣間見る。
普段のほのぼの幼女生活を紹介する閑話もあるでよ! 臨時休業の理由は、通ってる学校の友達と遊ぶ約束をしたからだ! 等々。
以前連載してみようと考えていたネタ。
しかしあまりうまく話が膨らまず、キャラを書き分ける引き出しが足りず、断念した物でございます。