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「さすがは‘風の魔術師‘様ですね。鮮やかなお手並みです」


意識を失って草むらに転がっているガタイの良い男4人を眺めてシルフォリアは感心したようにロイドの二つ名を呟く。ジークフロイトとソラリスは馬車の中だ。ソラリスにいたっては襲撃の間も目を覚ますことはなかった。今も眠っている。


「雑魚でしたからこの位は当然です。問題は誰が雇い主か、ですが……この男たちに見覚えはありませんか?」


後ろから来た4人は襲撃者だったが、完全に素人だった。


「ふーむ。商会周辺で見たことがあるかもしれません。倉庫番からの報告にも似たような男たちの記述が不審者情報としてあがっていた気もしますね。この辺り一帯のゴロツキといったところでしょう」


シルフォリアは男たちに近づき、まじまじと眺めて答える。


「隣町まで行って警備隊に引き渡しますか? 今から引き返すと今日中に隣町に到着するのは難しいですね。今から急げば夜には到着しますよ」


「……そうしましょう。軽量化の魔法をかければこのくらいは運べます」


淡々と述べるシルフォリアにロイドは同意する。舗装が悪く、こういった襲撃が日を追うごとに増える可能性が高い今、少しでも早く先に進むのが得策だろう。

ロイドは4人の男たちをまとめて縛り上げ、軽量化の魔法をかける。

4人の男たちを軽々持ち上げて荷台に乱暴に突っ込む騎士を見て、シルフォリアはまた感心したようなため息をもらした。


「このように魔法を間近で立て続けにみるのは初めてです。それにしてもあの馬車の荷台に人間4名が入る空間はなかったはずですが、あれも魔法ですか?」


「はい。空間を拡張する魔法を使っていますので荷物は相当な量が入ります」


「素晴らしいですね。お嬢様も訓練してこういった魔法をお使いになるのでしょうか?」


「個人差もありますが、賢者の扱うことができる魔法はもっと強大なものが多いです。賢者の魔法に比べたらこのような魔法はかなり地味で弱いですよ」


「そうなのですか……お嬢様は将来…………いえ……そういえば、前任の黒の賢者様はどういった魔法がお得意だったのですか?」


シルフォリアは何を思ったのか少し言い淀んだ。


「それは……」


ロイドの思考はそこで沈む。


思い出すのは以前の戦争のことだ。

ロイドの脳裏に風に翻る黒いローブの裾が蘇る。

帯剣もせず、黒いローブだけを羽織ったアドニスの前には呻き声を上げながら地面にぬいつけられた1000騎あまりの敵兵。人だけでなく、馬でさえ苦しそうに嘶きながら誰も身動きは敵わない。

1000騎あまりの進軍がとまったことで先ほどまで起こっていた土埃がやむ。後方の敵兵たちは何が起こったか分からず困惑の声を上げながら歩みを止めた。

そこへウィステリア王国軍の弓隊の矢が降り注ぐ。それまで押され気味だった戦況は一気に逆転し、黒の賢者が参戦した戦場は一方的な殺戮の場と化した。


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