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戻ってきたのはソラリスと兄ニコライ、そして20歳くらいの灰色の髪の男性、3人だった。
羽振りが中々良い商会だと聞いていたので何人も使用人を引き連れてくるかと思ったロイドの予想は見事に外れた。
「彼は従者兼護衛のシルフォリアです。ソラ、困ったらすぐ彼に頼ること。母さん達にはすぐに手紙を出して王宮まで会いに行かせるから。あと体調が戻るまでは薬を飲むんだよ。水分と睡眠はしっかりとって、できれば果物をたくさん食べて。あとは……」
ニコライは護衛兼従者を紹介すると、ソラリスの肩を掴んで母親のようにあれこれ指示を出している。シルフォリアという従者は礼をして馬車に荷物を積み込むと、ソラリスの腰に手を回して抱えあげた。
「若旦那様、あとはお任せください。出発が遅れます」
「若旦那なんて変な呼び方はやめろ」
「荷物を運び込んでもよろしいでしょうか?」
従者は口の端を吊り上げると、ニコライを完全に無視してロイドに質問してきた。
灰色の髪、そして灰色の目。
彼もまた珍しい色彩の持ち主だ。それに嫌味なくらい足が長い。ロイドと同じ身長なのに、なぜこうも腰の位置が上にあるのだろうか。
ロイドがシルフォリアに向かって頷くと、彼はさっさと少ない荷物を荷台に押し込んだ。
「では、若旦那様。行ってまいります。お嬢様行きましょう」
ジークフロイトの待つ馬車の扉をロイドが開けると、従者は颯爽とソラリスを抱えて乗り込んだ。
「では、黒の賢者を王宮にお連れします。離宮が一つ与えられそこに住んでいただくようになります。足りない侍女や護衛はこちらで手配しますので。基本的にご家族は手順を踏んでいただければいつでも面会可能です。ただ賢者の行動は制限されますので、王宮から出る際は許可が必要になります」
「……それは監視のためですか?」
ニコライにまっすぐに見つめられてロイドはたじろいだ。暗殺者や襲撃者と目が合っても何ともないのに、その真っすぐな瞳を一瞬直視できなかった。
事実、その通りだ。強大な魔法を操ることができる賢者が裏切らないよう王宮に置き、侍女や護衛の騎士、魔術師に逐一動きを報告させる。もちろん賢者の暗殺を防ぐためでもあるし、いざという時に賢者に王族を守ってもらうためでもある。
「その意味合いもありますが、それだけではないです」
ニコライの目をしっかり見ながらロイドは答える。
それと同時にロイドは気づいた。ニコライとソラリスはあまりにも似ていない。
輪郭も髪も瞳の色も。意外に感じたが貴族にはよくある話なので裕福な商会でも妾がいたりするのかと納得する。
「……そうですか。では両親が戻り次第、すぐにソラに会いに行きます」
ロイドはニコライに対して礼をして馬車に乗り込んだ。背中にひしひしと睨む視線を感じながら。