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ロイドがそれを見たのは叔父に連れられて王宮前広場に行った時だった。
次の黒の賢者となる人物を探すため、王都に住む未婚者が広場には集められていた。大勢の人が集まって行列ができていたが、列の進みは意外にも早かった。
とにかく大勢の人、人、人。
そして途切れる箇所なく、どこが終わりかも見えない露店の数々。建国祭や国王陛下の誕生日のようなお祭り騒ぎではないが、広場にはむせ返るような熱気と奇妙な期待が渦巻いていた。
列の先頭で何をしているのか見えないし、ロイドは正直どうでも良かった。
両親はロイドを叔父に託し、家で待っている。途中からあまりの人の多さに行きたくないとごねてみたが、帰りに好きな物を買ってくれると叔父が言うので仕方なく列に並んだ。
漸く様子が見えるところまで近づくと、広場の真ん中には舞台が誂られ、何人もの騎士と金刺繍が施された黒いローブを着た王宮の魔術師、そして淡い金髪の貴族の男性がいた。
後から知ったことだが、あの時舞台にいた金髪の貴族は当時の第一王子、つまり現在の国王陛下だったらしい。
行列はどんどん短くなり、やっと赤いクッションにのせられた指輪が背伸びをすると見えた。
先頭にいた若い女性がその指輪に触ろうと手を伸ばしたがすぐに手を引っ込めた。騎士が舞台から降りて行くように指示する。次の人物も同じようにすぐに手を引っ込め残念そうに舞台から下りていく。
何が起きているのか分からず、思わずごくりと唾を飲みこんだ。
「ロイド、大丈夫だよ。私も白の石の時に経験したことがあるんだが、石に選ばれなかったら少しピリッとするだけだから。ちょっとだけ痛いんだけどね」
緊張する様子を見兼ねて叔父は微笑んだ。その穏やかな様子にほっとして頷く。確かに見ていると、人々は手を慌てて引っ込めるだけでそんなに痛がっている様子はない。いよいよ前に並ぶ叔父の番になった。
叔父はそっと指輪に向けて手を出したが、手を引っ込めることは無い。叔父は首をかしげている。
「指にはめてみてください」
最も近くに立っていた魔術師が指示した。声が少し震えている。叔父は言われた通りに右手で指輪をそっと持ち上げ、左手の中指にはめた。
その瞬間、無風だった広場に強い風が吹き抜けた。
風はすぐ止んでロイドは思わず瞑っていた目を開けると、カアカアとカラスが三羽、舞台の上を狂ったように飛んでいるのが目に入る。さっきまでカラスどころかハトも広場で見かけなかった。
その不気味な様子にシンと辺りが鎮まる中、魔術師だけは嬉しそうに笑っていた。
「新しい黒の賢者よ、あなたのお名前をお聞かせ願えるか?」
「アドニス・イザンバールと申します」
最上級の礼をとろうとした叔父は第一王子に手で制されて、困ったように微笑みながら名乗った。
叔父アドニスが黒の賢者になった日だった。そしてその後すぐ叔父は城に連れていかれた。残されたロイドは騎士2人によって家まで送り届けられた。
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