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「あ、やっぱりロイドだ。おかえりー」


「緑の賢者様におかれましてはご機嫌うるわしく」


「いやいや、僕と君の仲なのにそんな堅苦しい挨拶しないでよ」


爽やかな見た目だが、どこか軽薄な雰囲気が漂う青年。

着衣が若干乱れているのはこの際、全力で無視する。先ほどまで庭でご婦人か不真面目な使用人とお楽しみ中だったのだろう。


「黒の賢者、決まったんだってね」


ロイドはこの緑の賢者に会うたびに嫌そうな態度を隠していないはずなのに、この見た目だけは好青年な賢者はなぜかいつも人懐っこく話しかけてくる。空気が読めないのだろうか。


「はい。決まりました。しかし、黒の賢者様は体調が安定しておりませんので」


「会いたいから今から会わせて」なんて言われる前に釘をさしておく。


「そうだよね。石が体に馴染むまできっついんだよね。僕もよく熱が出たなぁ。じゃあ後で果物を持って行かせるよ。僕が育てたやつだから美味しいよ。ちなみに賢者の子って可愛い?」


「ありがとうございます。緑の賢者様が育てた果物は万能薬ともいわれますから」


可愛いかどうかという最後の問いについてはさらっと無視する。


緑の賢者エドアルド・シーモア。


無類の女好きという点を除けば見た目通りの好青年だ。ロイドはどうもこの軽薄な雰囲気が好きになれない。

彼は土魔法に優れており、災害があった地域で植物の成長を促進させたり、戦争後の荒れ地を復興させたりと王命がなくても精力的に活動している。彼の離宮の周囲はすべて畑になっており、果物や野菜を彼自身が育てている。


「では、私はこれで」


「あ、ちょっと待ってよ」


心底面倒だと思いながらも振り返ると、エドアルドがまだ蕾さえつけていない薔薇に手をかざしていた。薔薇は急に蕾を付け始め、あっという間に花が開いた。


「ちょっと貰うね」


エドアルドは薔薇に愛おし気に話しかけると茎をシュパッと切った。道具を持っていたようには見えない。手刀で切ったように見えた。


「はい、これは新しい黒の賢者に。ソラリスちゃんだったよね」


エドアルドは急成長させた薔薇を一輪、ロイドに差し出してくる。見目がいいだけに嫌味なほどその姿が様になっている。エドアルドの金髪は陽に当たって輝き、緑の瞳は相手が喜ぶと信じて疑わない期待の光に満ちている。


「黒の賢者様にお渡ししておきます」


「ありがとう。体調が早く良くなることを祈っているよ」


エドアルドはウインクを飛ばす。こういうところが彼を憎みきれないところなのだろう。

薔薇を受け取ってまた離宮へ歩く。


アンジェリーナは赤の離宮と呼んでいたが、赤の賢者の離宮だと長いので赤の離宮と呼ぶだけだ。赤い色の建物が建っているわけではない。

黒の賢者用の離宮も黒の離宮と呼ぶが、色が黒というわけではない。離宮はすべて白色で統一されており、内装は賢者の好みによって自由に変えていいことになっている。


アドニスは派手なものを好まなかったので、内装はほとんどモノトーンだった。新たな賢者が8歳の子供と分かったため、殺風景なモノトーンからひとまず落ち着いたクリーム色の壁紙に変えたと報告を受けている。


黒の離宮に帰ると、顔なじみの侍女が走ってきた。


「青の賢者様がお越しです!」


アンジェリーナに青の賢者に呼ばれていると嘘をついたのだが、現実になってしまった。

薔薇とアンジェリーナに押し付けられた箱を侍女に渡して部屋に向かうと、青の賢者はソファで優雅に紅茶を飲んでいた。


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