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何度も襲撃を受け、騎士たちの中には負傷する者も出ながらなんとか王宮まで帰り着いた。

ソラリスは3回目の夜の襲撃の時のことは何も覚えておらず、翌日から発熱したので移動中はずっと薬とジークフロイトの魔法で眠っていた。

ジークフロイトの操る魔法は浄化で毒を抜いたり、体力を回復させたり、傷を治すことはできるが病気を治すことは現時点ではできない。


ソラリスは王宮に到着してすぐに黒の賢者の離宮へと連れていかれてお抱え医師の診察を受けた。以前までアドニスが使っていた離宮だ。ジークフロイトが黒の賢者が見つかったと年齢・性別を報告した時点で改装が急ピッチで進められたため、壁紙や調度品が出発前とは変わっていた。

付いている侍女や護衛は以前とほとんど同じ顔触れだった。皆、賢者が本当に子供であることに一瞬表情を固まらせたが、そこは王宮で働く優秀な使用人達である。すぐに表情を繕ってシルフォリアに離宮を案内し始めた。

シルフォリアも襲撃のあった夜のことは何も覚えていなかった。1、2回目の襲撃は結局証拠が出ず、追及できていない。


「浅黒い肌で魔石持ちの襲撃者ねぇ」


座っているイスをくるくる回転させながら女性はロイドの報告した内容を反芻した。彼女の実年齢を知ったときは驚いたものだ。実年齢より15歳ほど若く見えるその女性は上司であり、王宮魔術師のナンバーワン、フランチェスカ・ジョーンズ。見事な赤銅色の髪が特徴で、高位貴族出身なのに気取ったり、見下したところがない。彼女は火魔法しか扱えないがその威力たるや大きな町1つを彼女1人で焼き払うことが可能だ。


「あなたの結界内に入り込んできたのよね?」


「はい。壊されたら気づきますから」


「そうねぇ、侵入を許すのもまだまだだけど」


「申し訳ありません」


フランチェスカは口にペンを当てて、落ち着きのない子供のように床を蹴ってまたイスをくるくる回す。


「ねぇ、何かあったの?」


単一魔法だけでナンバーワンまで上り詰めた上司は鋭かった。彼女は決して高位貴族だからと優遇されてその地位にいるわけではない。


「なんかロイドっぽくないじゃない? アドニス様の後釜が子供で動揺した? 疲れてる? 休暇でも取る?」


「いえ、今回同行したのは私の希望でしたので」


黒の賢者が王都で見つからず、賢者探しの一行に立候補したのはロイド自身だ。


「まぁ私も白と黒の賢者が両方八歳とは思わなかったけど。浅黒い肌ならバーラント国が怪しいわね。でも襲撃者を取り逃がしちゃったからキツイなぁ。使い捨ての駒かもしれないし」


「申し訳ありません」


「まぁいいわよ。賢者を攫いたいのか、石が欲しいのか分からないけどどうせまた襲撃がくるでしょ。王宮までよく一人も死なせずに持ちこたえたわね。叔父様を亡くして以来休んでいないんだから少しくらい休暇を取ってもいいのよ? あなたの休暇日数、けっこう余ってるし」


「いえ……新しい賢者2人が心配ですし。しばらく取るつもりはありません」


「それがあなたの希望ならもう休暇については何も言わないわ。あ、これがソラリス・ポートライトを調べた結果よ」


差し出されたソラリスの身上書には「孤児」という文字が見えた。


「平民の賢者も久しぶりだから風当たりが強いけど、彼女は元々孤児よ。既に議会の頭が一昔前のおっさんたちが賢者にふさわしくないって騒いでるわ。めんどくさい。禿げたらいいのに」


「うちのナンバーワンなら頭髪だけ焼くことは簡単でしょう?」


「頭が不毛になったら他に栄養が行ってマトモな議員になるのかしら。ま、いいわ。で、あなたは黒の賢者付きの魔術師でいいわけ? ジークフロイト殿下……あ、もう殿下って呼んだらいけないか……白の賢者付きでなくていいの?」


「叔父の後任を見守りたいので……許されるならば」


賢者の側に常時いる護衛には騎士の他に魔術師も入ることになっている。ロイドは以前も黒の賢者付きだった。


「そう。分かったわ。さっきも言ったように黒の賢者への風当たりは強いと思うから、力が安定するまでは特に気をつけてあげて。侍女や護衛達が舐めた真似するならシメていいわよ」


「彼らなら大丈夫だと思いますけどね」


ロイドは離宮の使用人達を思い浮かべながら言う。


「私が言ってるのは他の賢者付きの使用人や王宮の使用人を含むのよ。選民主義の輩はうようよいるの」


「……わかりました」


以前から黒の賢者付きの侍女や護衛は大丈夫だろう。アドニスはもともと没落寸前平民すれすれの男爵家出身、ロイドの父はほとんど平民と変わらない暮らしの一代限りの騎士爵だ。使用人たちははアドニスとロイドを差別することはなかった。元孤児でも商会の会頭に引き取られたソラリスの方が自分たちよりよほどいい暮らしをしてきただろう。それに孤児であると知ったことで兄ニコライと似ていないことも納得した。


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