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ジークフロイトは肘をついてぼんやりと向かいの少女を見つめる。
この国では非常に珍しい黒髪が顔にかかって少女の表情は見えないが、規則正しい小さな寝息が聞こえてくる。
馬車内に先ほどまで流れていた緊迫した空気と、外から聞こえた怒号、剣を交える音、そしてロイドが風魔法で襲撃者たちを吹き飛ばした時の男たちの悲鳴は少女を起こすには十分でなかったらしい。
窓から外に視線を向けると、襲撃者4名は既にどこかへ片付けられ、ロイドと少女の連れてきた使用人のシルフォリアが話をしている。
ジークフロイトはもう一度向かいで眠る少女に目をやった。少女の白い指には黒い石のついた指輪がしっかり嵌まっている。
ジークフロイトが白の賢者に決まった時の周囲の反応は様々だった。
以前の戦争の被害を覚えている第1王子は腹違いの弟が将来戦争に駆り出される可能性があるということに思い至ると悲痛そうな顔をした。
第2王子はその場では何も言わなかったがソワソワしているように見えた。使用人の噂話によると自室で王位継承権に変動があるかどうかを気にしてブツブツ1人で呟いていたらしい。第2王子だけが王妃の子供なので、現在の継承権1位は第2王子なのだ。
ジークフロイトと同い年の第3王子はぼんやりとして特に反応を見せなかった。彼はほとんど他人に興味を示さず自分の世界にいるので、通常運転と言える。
父親である国王は前例のない事態に慌て、ジークフロイトに時折視線を投げながら宰相と厳しい顔でひそひそ話をしていた。
そういえば諸手を上げて喜んでくれたのは母上だけだった。
結局、白の賢者になって良かったのかまだ分からない。
石に選ばれてからは毎日のように食事に毒が入っていた。今では毒を光魔法で浄化できるようになったので関係ないが、賢者になる前よりも毒殺の危険性が増えていることに当初は辟易した。
母はジークフロイトが逃走や反逆しないための人質なので、護衛と侍女が数倍に増えた。母がただの側妃であったときは王妃の嫌がらせで必要最低限の護衛と侍女しかつけてもらえていなかったためだ。第1、3王子の母親である他の側妃たちは今でもそのような処遇を受けている。王宮に帰ったら改善するために根回しをしないといけない。
「ジーク王子?」
物思いにふけっているとロイドたちが処理を終えて馬車に戻ってきていた。ロイドは少し心配そうな顔をしている。
「お疲れですか?」
「いや。襲撃がこれから多くなるだろうなと考えていただけだ」
「なんとか早いうちに隣町まで到着できるようにしようと彼とも話しました。護衛騎士の1人は先に隣町に行って今日の宿を探してもらっています」
「ロイド1人なら風で飛んで帰れるのにな」
「さすがにこの人数と馬車は魔力消費が激しいので魔法は使えませんね。さぁここからは速度を上げますから掴まってバランスを崩さないようにしてください」




