麒麟
人間は醜い
争いは絶えず 己のために他者を貶める
遥か昔から見てきたが全然変わらないな
何故なのだ 何故争いをせずに暮らせない?
争いをせねばいけないわけではあるまい
尊き命が散ることをなんとも思わないとか?
森の動物よりも長く生き、数も多いくせに何故そのような簡単なことがわからないのだ?
…………………………………………………
所詮人間
その程度 というわけか
なんだお前は
人間か 何故ここにいる
話すことができないのか
恐怖を感じる 人間に対する恐怖
なるほど
みなしごか 村の人間にいじめられているのだな?
そうか ひどい奴らよの まだ小さい女子をここまで………
帰りたくない? 駄目だ
お前は人間だ ここにいることは私が許さん
………どうしてもか?
泣くな
…………ふむ
ならば私の毛を持ちなさい
村の人間もこれを見れば私を恐れお前をいじめなくなるだろう
お前は人間なのだ
さあ帰りなさい
………………………………………
なんだ?
またお前か
傷は消えたな
あれから虐められなくなった?
それはよかった
何故ここに来た? ここはお前達人間がくる所ではない
何? 私に会いに来た?
何をいっている
あのときの礼?
礼はいらん 私は麒麟 命を尊ぶもの
あのときお前を助けたのは小さき命が散ることが嫌だったからだ
さあ
立ち去れ
汚らわしい人間と会いたくない
さあ出てけ
またお前か
ほう 美しくなったな
何しにきた
私の側にいたい?
何故だ
ほう 隣町の金持ちと結婚する
よかったではないか
金持ちといれば幸せだろう?
お前達人間は金が好きだからな
そのために殺すこともいとわない
嫌?
何故だ?
愛がない?
そうか 愛か
そんなもの 人間にはそもそもないであろう
野蛮で卑猥で残虐 それが人間だ
ほう だから私の側にいたい か
やめておけ
あいにく私も愛はない
生きるものを愛でるが人間を愛することなどできない
それに だ
だからいった
私は麒麟
お前は人間
ずっと一緒にいることなど
だから嫌なのだ
そうですか?
私は 幸せですよ
悲しむことなど ありませぬ
お前…………
これが愛 ですよ
私に優しくしてくれたのはあなただけなのです
あなた は 私を 受け入れてくれた
一緒に過ごした 時間
とても幸せでした
私を 人間を 受け入れてくれたではないですか
ずっと一緒にいれない
それはわかっています
ですが いれた時間 それが
もう話すな 限界だ
私は嫌なのだ
私はお前を失いたくない
生きるものが死ぬのは自然の摂理
私もいつか死ぬ
だが私は神獣人間よりはるかに寿命が長い
私のせいで
愛したものがいなくなることほど
辛いことはない
きっと、きっとこうなる、と私はわかっていたんだ
だから、あのとき・・・
私もわかっています
村の言い伝えで
あなたがずっと昔からこの森にいたことは知っていました
だけど、私に優しくしてくれた人はあなただけだったんです
あなたが人間嫌いなのは知ってる
だけど
あなたは私を受け入れてくれた
愛してくれた
それだけでいいんです
私はそれだけ、それだけで十分なのです
あなたと過ごした時間 楽しかった
ふふ
何がおかしい
生きるものを愛するのに
死ぬことがお嫌なのですね
私はあなたから自然への愛を知りました
私は、
あなたに
人間への愛を教えました
そんな、私は人間など嫌いだ 人間は汚れている あんなもの 私が愛するわけが……
いいえ、あなたは私を、私という人間を愛しました 私はあなたから沢山の愛をもらった
あなたは私と会う前と比べてだいぶ変わりました
ふふっ そんなふうに泣くことはなかった ただあなたは悲しそうな顔をするだけでした
人間臭くなりましたねえ ゴホッ
お前 血が
もう 時間ですね
お願いがあります
あの子を
私とあなたの子を
愛してください
私の分まで
私との約束ですよ
そして
人間を
愛して
・・・・・・・私は。
私は違った
人間など汚れている
そう思っていた
金を追い求め、残虐なこともためらいなくする
騙し、騙されて
愚かだと思っていた
だがお前と出会って
変わった
違う人間もいる
すべてが愚かではない
恥ずかしいな 何百年と生きてきてたった一人の人間に教わるとはな
私は間違っていたようだ
お前との約束だ
愚かなやつだ
神獣である私に教えるとはな
いいだろう
あの子を育てよう
これからは人間も 愛そう
愚かだが、私よりも賢かった、汚らわしい人間、との約束だからな
普段は下の異世界転生を書いています