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第48話

 普段のほわほわした女の子みたいな男の子ってイメージからは考えられないぐらい朋喜は真剣な顔をしてて、本当に僕の事を『可愛い』って思ってくれてるって伝わってきた。

 だから、僕は周りの目を気にしながらも「ありがとう」って笑い返した。朋喜が可愛いって思ってくれてるならそれでいいや。って。

「朋喜だけじゃなくて俺も思ってるんですけどー」

「慶史もありがとう」

 可愛い可愛いって連呼してくれる二人に、恥ずかしからもう言わないでって机に突っ伏してしまう。絶対クラスのみんなは『何処が?』って思ってそうで、見渡すのが怖い。

 そしたら慶史は僕のつむじを突っつきながら尋ねてくる。先輩から言われ慣れてるだろ? って。

「それって、虎君の事……?」

「そー。下心満載な大学生のことー」

 つむじを10回突っつかれたらおなか壊すらしいよ? って言う朋喜の言葉に僕は慶史の指を掴むと『やめて』って意思表示。

 顔を上げる僕。慶史の口から出た『先輩』って単語に絶対そうなんだろうなって思いながらも確認したら、悪戯に笑う慶史と目が合った。

「……僕、そんな人知らない」

 僕の反応を待ってる慶史に、不機嫌を露わにする。優しい幼馴染の大学生ならいるけど慶史の言うような人は知らないし! ってそっぽを向いてしまうのは、しかたないよね。

「葵って本当に危機感ないなぁ。あんな危ない男に懐いてるし、いつか食べられても知らないぞ?」

「え? 葵君、幼馴染のお兄さんとそういう関係なの?」

「そんなわけないでしょ! 虎君は大事な『お兄ちゃん』! 慶史は虎君の事誤解しすぎだよ!」

 慶史の冗談を朋喜は真剣に受け止めて「聞いてない!」って詰め寄ってくる。恋人がいるならちゃんと言ってよ! って。

 僕は話がややこしなる前に朋喜の誤解を解いて、慶史を睨んだ。本当、慶史はいっつも僕で遊ぶんだから!

「誤解なんてしてないし。葵が来須先輩の下心に気づいてないだけだろ?」

「虎君の『下心』って何それ。全然面白くないんだけど!」

「下心は下心だろ。あんなにあからさまに『葵とエッチしたい』ってオーラ出してるのに何で気づかないのかなぁ?」

「! 慶史っ!!」

 お預け状態長すぎて来須先輩相手じゃなかったら同情必死案件だよ。

 そんな風に笑う慶史に僕は机を叩いて本気で怒る。そういう話好きじゃない! って声を荒げる僕に、流石にやりすぎだって思ったのか朋喜も同意してくれる。

「幼馴染のお兄さんは葵君が可愛いから心配してるだけでしょ。慶史君は何でもかんでもそっちに結び付けすぎだよ」

「朋喜ひどーい。俺がエロい人みたいじゃん」

 虎君を擁護しながら注意してくる朋喜に、慶史は「傷つくわー」って棒読み。

 怒ってる僕と呆れてる朋喜を前にケラケラ笑う慶史。と、その後ろに真っ黒な壁が。

「みたいじゃなくてそのものだろうが。お前はただの快楽主義者だ」

「ひでぇな、結城までそういうこと言うんだ?」

 自分の背後に立つクラスメイトに慶史は笑顔を絶やさず振り返ると、男は皆快楽主義者だろ? って誤解を招く言葉を口にする。

 すると、尋ねられた結城こと瑛大は「一緒にするな」って慶史の額を小突いて僕達の方を見てきた。

「お前ら、ただでさえ目立ってるんだから昼休みにでかい声で騒ぐなよ」

「ご、ごめん、瑛大……」

「ごめんなさい、結城君……」

 見るからに呆れてますって言いたげな顔に、僕と朋喜は尻すぼみに謝って小さくなる。

(うぅ……、滅多に話しかけてこない瑛大が話しかけてきたってことは、相当煩かったってことだよね……)

 昼休みとはいえ教室で騒ぎ過ぎたと反省するのは、瑛大が今目の前にいるから。瑛大は何処からどう見ても普通の男子中学生で、夏までバスケ部の部長を務めてただけあって体格のいいスポーツマン。

 この中等部で『可愛すぎる』とか『クライストの姫』とか言われてる慶史や朋喜達とは正反対の容姿で、性格も超硬派。だから、クライストに入学して一カ月後に言われた。絶対に学校では話しかけるな。って。今日この瞬間から俺達は他人だ。って。

(あの時はなんでそんな風に言われるか分からなかったから悲しかったよなぁ……)

 昔を思い出してしんみりしていた僕だけど、今瑛大が目の前にいる現実を思い出して気を引き締める。

「別に騒いでないじゃん。てか、何普通に喋りかけてきてんの? 『関わるな』って言ってきたの、そっちじゃねーの?」

「お前が大声で下品な会話してなけりゃ頼まれたって喋りかけねぇーよ」

 普段周りからは好意を受け取ってる慶史は瑛大の露骨な顰め面に噛みつく。それに瑛大は子犬の威嚇だと言わんばかりに煩そうに眉間に皺を寄せて応戦するから、慶史も言い返して喧嘩勃発。

「はぁ? 初等部の頃は『ボク、慶史君をお嫁さんするね!』って言ってた男の言葉とは思えねぇーな?」

「そんな大昔の話を引っ張り出してくるとは随分必死だな藤原。お前に言い寄る馬鹿な男と同じぐらい馬鹿に見えるぞ」

 あの頃から俺、超可愛かったから気持ちは分かるけど? って不敵に笑う慶史だけど、瑛大は眉一つ動かさずに「憐れだな」って同情を示す。

 当然慶史はそれに「その喧嘩買った!」って立ち上がると頭一つ分違う瑛大の胸倉を掴んで睨みを利かす。

「ちょ、慶史止めなよっ。騒いでた僕達が悪いんだから……」

「葵は口挟むな!」

 穏便に済ませたいから慶史を宥めようと試みるも、失敗。本気で怒ってる目で睨まれたら、僕はそれ以上何も言えず大人しく座ることしかできなかった。

「葵君と慶史君って、結城君と幼馴染だっけ?」

「うん、そうだよ。僕と瑛大が幼稚舎から一緒で、慶史が初等部から一緒」

 これは二人が落ち着くのを待つしかないと諦める僕に、言い合いをする二人を横目に朋喜が「確認させて?」って尋ねてきた。昔からああなの? って言いたそうな朋喜に、僕は小さく首を振って昔は凄く仲が良かったよって苦笑いを返した。

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