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第24話

「少しでも不安を感じたら、すぐ言うんだぞ?」

 抱きしめてくれる父さんは、僕が安心できるようになんでもするって言ってくれる。望むなら引っ越ししてもいいって。

 流石に引っ越しは行き過ぎだって僕が笑うと、父さんは安心したように僕のほっぺたに手を添えて撫でてくる。

「強がってないか?」

「うん。強がってないよ。大丈夫」

 心配かけてごめんなさい。って謝れば、父さんは謝る必要ないって首を振る。

「子供の心配をするのが親の仕事なんだ。これぐらいなんでもない」

「ありがとう、父さん。……なら、我儘言ってもいい?」

「ああ。なんだ?」

 叶えられることはなんでも叶えるって言ってくれる父さん。それに僕は、母さんに聞かれたら怒られるよ? って笑った。

「大丈夫。母さんは父さんにベタ惚れだから」

「えぇ? それ、逆でしょ?」

 僕の軽口に父さんも笑ってくれる。父さんの悲しい顔なんて見たくなかったから、それが凄く嬉しかった。

「父さんは母さんがいなくちゃ生きていけないから、ベタ惚れとはちょっと違うかな?」

「十分ベタ惚れだよ」

 母さんがいない世界では1秒だって生きれない。

 笑いながら子供に惚気てくる父さんは相変わらず。僕は本当に仲良しなんだからって声を出して笑ってしまう。

「で、葵の『我儘』は何だ?」

「えっとね、……やっぱり今の部屋のままはちょっと怖いから、別の部屋に移っていい……?」

 父さんがまた悲しい顔になったらどうしよう。

 そんな不安を抱えながらも『我儘』を口に出したら、父さんはこの上ないほど優しく笑って「もちろん」って頷いてくれた。

「葵の好きな部屋に移っていいから、決まったら言いなさい。荷物の移動は皆で手伝うから」

「! 皆で? なんで?」

 普段ならそういうことは専門業者にお願いしたりするのに、どうして今回はそうしないの?

 確かに僕の部屋は姉さんに比べると物が少ない方だけど、でも、それでも家具とか着替えとか本とかあるから部屋を移るのは大変。

 家具を運ぶ為には男手が必要だけど、仕事で疲れて帰ってきた父さんに手伝ってもらうのは忍びないし、陽琥さんに至っては業務外。かといって力のない母さんにお願いするわけにもいかないし、めのうは戦力外。

 そうなると必然的に姉さんと茂斗に手伝ってもらうことになるんだけど、姉さんに手伝ってもらったら部屋はファンシーになりそうだし、茂斗に手伝ってもらったら不要なものは捨てろって勝手に断捨離されそうだ。

 だから勝手に専門の業者さんにお願いするものだと思ってた僕はびっくりしてしまう。

「母さんと話し合って今後お手伝いさんは雇うのを止めることにしたんだ。後、家に出入りする業者も今後はすべて陽琥にチェックしてもらうことにした」

「そ、そうなんだ……」

「ああ。前々から考えていたんだが、今回の事で父さんも母さんも決心がついた」

 父さんは、今後は信頼できる人以外家に上げないって言った。今までお手伝いさんに頼っていた事を自分達でするから大変になるとは思うけど、でも家族の安全が一番大切だからって。

 それに僕は本当にいいのか尋ねた。父さんと母さんの気持ちは嬉しいけど、みんなは納得できるのかな? って。

「そんな心配してるのか、葵は」

「『そんな』って、笑い事じゃないよ? 今までやってもらってたことを自分達がするんだから大変になるんだよ? 姉さんや茂斗達にもちゃんと説明しないとダメでしょ?」

 確かにリビングには二人ともいるけど、今父さんは僕に向かってだけ話してる。

 それは流石にダメだよって僕は二人を振り返った。でも……。

「俺は全然問題ねぇーよ。むしろ前から要らないって思ってたしな」

「私も同感。昔は私も小さくてママ一人じゃ大変だったから仕方ないけど、今は手伝えるしね」

 僕の心配を他所にあっけらかんと言い放つ茂斗と姉さんに、思わず脱力。

 父さんは二人がこう答えることは分かってたから僕への説明を優先したって苦笑いを浮かべてた。

「下手な連中家に上げて変なもん仕掛けられても困るしな。凪も出入りしてるし不安要素は排除してもらえた方が俺はありがたい」

「そうよねぇ。私も葵とめのうと凪ちゃんが心配だし、陽琥さんにも余計な心配かけたくないわ」

「だよな」

 もし凪に何かあったら何をするか分からない。

 そう言い切る茂斗の顔は笑ってたけど目は本気。そんな茂斗の隣で『分かる』って頷く姉さんも悩まし気な顔をしながらも目は笑ってなくて、怖い。

「てか姉貴、建前でもいいから俺もその中に入れてくれよ。一応弟なんだし」

「茂斗の事も心配してるわよ? 凪ちゃんに何かあったら本当に犯罪者になりそうだし」

「それ心配の意味がちげぇよ」

 我が弟ながら想いが深すぎて怖い。

 そう笑う姉さんに茂斗は「ひでぇな」って苦笑い。その笑い方は本当に父さんそっくりで、誰かを一途に想う姿勢もひっくるめて茂斗はつくづく父さん似だと思った。

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