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第223話

 学校が始まって3週間が経った頃、僕は職員室に呼び出された。

 呼び出された理由は分からなかったけど、でも、なんとなく怒られるような気がして憂鬱だったことは覚えてる。

 けど、気落ちしながらも職員室に顔を出せばそこには担任の花崎先生だけじゃなくて教頭先生や校長先生までいて、何事かと息を呑んだ。

 怯えながら呼び出された理由を尋ねた僕に、先生達は少し興奮気味に今学生の間で噂になっている僕が外部受験を止めるという話は本当かと尋ね返してきて、気圧された。

 先生達の圧に後ずさりながらも本当だと頷いたら、本当に本当かと改めて確認され、僕は少し声を大きく本気だと返事をした。

 次の瞬間、校長先生と教頭先生は満面の笑みでそうかそうかと頷き、さっそく内部受験に切り替える手続きをしようと僕をソファに座らせるとテーブルに願書を並べて今此処で願書に記入するように言ってきた。

 今すぐ? って疑問を持ちながらも、どうせ外部受験はしないのだからいいかと僕はペンを走らせ、願書に記入した。

 書き終えたそれを先生に手渡せば、教頭先生と校長先生は上機嫌でそれを持って奥の部屋へと消えて行って、少しお疲れ気味の花崎先生からは本当に良かったのかと尋ねられた。

 願書を書いたところも提出したところも見ていたはずの先生の問いかけに今更良いも悪いもないと思うと思いながら、僕は「もう決めたことです」と頷き、先生に見送られながら職員室を後にした。

 それが、四時間前のこと。

 僕は今、寮の部屋でそのことを慶史達に話した。これで正式に高校も一緒だからよろしくね。と。

 すると三人は驚きの表情を浮かべた後、なんてことをしたんだと怒ってきた。

「『願書出してきた』って何呑気なこと言ってんの!? 俺、ちゃんと考えてからにしろって言ったよね!?」

「そうだよ葵君! 気持ちの整理がつくまでは結論は出さないって約束したよね!?」

「それなのになんで願書出し終わってんだよ!?」

 捲し立ててくる三人に、この反応を予想していた僕は空笑い。先生達も急いでるみたいだったから。と言い訳染みた言葉と一緒に謝ってみるも、怒っている三人は今度は脱力とばかりに床に手を付き崩れ落ちた。

「それ、違う」

 震える声で僕の言葉を否定してくるのは、慶史だ。

「先生たちは、MITANIとのコネクションを手放したくなかったんだよっ!」

「え? なんで? 関係あるの?」

 先生達が急いだ『理由』を教えてくれる慶史だけど、僕はそれが理解できない。

 どうして父さんの会社が関係あるの? って尋ねる僕。受験するのは僕だよ? って。

 すると今度は朋喜が関係大アリだと言ってきて、私学だから保護者から集める寄付金が経営に大きな影響をもたらすと説明をしてくれた。

「つまり、MITANIの社長令息が外部受験で居なくなったら学校側は大打撃なわけだよ!」

「だからマモが内部受験に変えるって噂が聞きつけて急いで願書書かせたんだろうな。きったねぇ……」

 先生達があの場で願書を書かせた理由はそうだったのかと、僕は納得。

 悠栖は先生達のやり方が汚いと不快感を露わにしたけど、経営者としては別に普通のことだと僕は三人の怒りを宥めるために先生達に言われなかったら自分から言っていたからと声を掛けた。

「……葵、本当に後悔してない?」

「してないよ。大丈夫」

 何度聞かれても、答えは一緒。僕はこの決断を後悔なんてしない。

 そう頷けば、慶史は大きなため息を吐きながらも「分かった」って納得してくれた。

「なぁ、いよいよヤバくねぇ……? 先輩、今ヤバいんだろ?」

「悠栖、その話は後にしろ。また葵を怒らせたいのか?」

 慶史に耳打ちした悠栖の声は残念ながら僕にも届いてる。

 今度は僕が呆れたと溜め息を吐き、嘘だとバレバレの作り話は流石に信じないよって怒る気にもないことを伝えた。

 お正月が過ぎて三学期が始まっても、三人は僕を説得するための小芝居を相も変わらず続けていた。

 その内容は、行方不明だと思っていた虎君が実はずっと家にいたという話だったはず。

 虎君は何処かに行っていたわけでも居留守を使っていたわけでもなく、ただ魂が抜けたように放心状態で、生きてはいるけどまるで廃人だと言っていた三人に、そこまで大袈裟に話を作ったら信じる信じない以前に呆れると思ったものだ。

 その内容に、いい加減しつこいと怒った僕。

 三人は芝居じゃないと言っていたけど、バカにしないでと声を荒げたおかげで僕が本当に怒っていると漸く伝わったみたいで、三人が小芝居を打つ回数は格段に減って心が乱されることもなくなった。

 おかげで僕は他愛ないことで笑うことができるほどまで心が回復した。まぁ慶史に言わせれば、『目が死んでる』らしいんだけど、このまま虎君のことを考えずにいたいと思っている。

 慶史達はそんな僕を良く思っていないだろう。だって僕は結局真実と向き合うことから逃げているだけなんだから。

 もちろん僕だってずっとこのままでいいとは思ってない。

 いつか、そう、いつか虎君のことを考えても胸が痛まなくなったら、ちゃんと虎君に伝えるつもりだ。たくさんの『ごめんね』と『ありがとう』を。

「なぁマモ、やっぱこのままってのは良くないと―――」

 悠栖が僕に何かを言いかけたその時、突然大きな音がした。

 それは乱暴に開かれたドアが壁にぶつかった音で、僕達は驚きに肩を震わせ部屋の入り口を振り返った。

 部屋の入口に居たのは、瑛大だった……。

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