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第200話

『出るのおせーぞ!!』

「っるさ……」

 部屋に戻ってもなお茂斗からの電話攻撃が止まなくて、仕方ないと肩を落として電話に出た慶史を待っていたのは、離れている僕にも聞こえる茂斗の怒鳴り声。

 しっかりと携帯を耳に当てていた慶史にとったら、その声の大きさは騒音レベルだったに違いない。

 携帯を離して、耳がおかしくなったと逆手で耳を塞ぐ慶史。

 僕は慶史に対しては申し訳なさを、茂斗に対しては恐怖を感じていた。

(虎君と姉さんがどうなったか、茂斗はもう知ってるのかな……)

 知ったから、こんなにも僕を心配して慶史にまで電話してきたのかもしれない。

 そう思ったら竦んだ足元から凍り付きそうになった。

「そんなに怒鳴らなくても聞こえるし、少しはこっちのことも考えて喋ってくれない?」

『葵は!? 葵、そこに居るんだよな!? おい、藤原!! 答えろ!!』

「だーかーらっ! 今すぐその騒音なんとかしないと、通話切って着拒するけどいいわけ!?」

 腕を伸ばして離していても聞こえる茂斗の声に慶史も怒りを露わに怒鳴り返す。

 そこから暫く二人は怒鳴り合っていたけど、最終的には慶史に軍配が上がって茂斗の声は僕には聞こえなくなった。

 何を話しているのか気になる僕は、慶史の声に聞き耳を立てる。

 でも、慶史はそれを見越していたのか部屋に備え付けられているバスルームへと消えてしまう。

「茂斗君、だっけ? すごく怒ってたね」

「仕方なくねぇ? だってずっとマモと連絡とれなかったんだろ?」

 学校の合同行事で何度か顔を合わせたことはあるもののあまり言葉を交わした覚えのない朋喜は、今の茂斗からの電話にあまりいい印象を持たなかったようだ。

 顔を強張らせている朋喜に仕方がないと言うのは悠栖で、僕を振り返ると「最後に返事したのは?」って聞いてきた。

 僕が返すのは、一度も返事を返していないという類の言葉で、それに悠栖は『やっぱり』という顔をして見せ、朋喜は『嘘でしょ?』って顔をして振り返ってきた。

「連絡、来なかったの……?」

「来てたけど、見るのが怖くて……」

 この三日間、一度も?

 その質問をされる前に僕は一度も誰にも連絡を返していないと俯いた。

「それは……、確かに、ああなるかもね……」

「だな。つーか、大事な弟と連絡とれなくなってるんだし、殴り込んでこないだけ理性的だと思うぞ、俺は」

 もし妹が同じことをしたらマリアまで乗り込んでやる。

 そう言ってベッドに腰を下ろす悠栖は部屋を見渡して、僕の携帯に手を伸ばすとそれを掴んでこっちに放り投げてきた。

「『元気だ』って一言ぐらい返してやれよ」

「で、でも……」

「気持ちは分かるけど、兄貴は関係ないんだろ?」

 僕は携帯をキャッチするも、ディスプレイを見ることさえ怖くてそのまま固まってしまう。

 ため息交じりの悠栖の言葉に深く俯けば、パシっと何かが叩かれたような音が。

「暴力反対っ!」

「マリアに乗り込んで不審者扱いされればいいのに」

「ひでぇ!」

 マリアは男子禁制の女学園。いくら兄と言えど事前連絡もなしに無断で乗り込んだら通報される可能性だってある。

 それでも妹の安否が分からないなら乗り込むと言う悠栖に、確かに僕もめのうと連絡が取れなくなったらどんな手を使ってでも連絡を取りつけようとするだろうと思った。

 だから茂斗の行動を責める気持ちは無くなって、代わりに申し訳なさが募った。

(そうだ……。茂斗は僕のことをちゃんと考えてくれてる……。茂斗が凪ちゃんの次に大切だと思ってるのは、この僕なんだから……)

 そう。僕達は普通の兄弟よりもずっと繋がりは強い双子なんだから。だから茂斗が僕を傷つけるようなこと、するわけない……。

「僕、茂斗に謝っとくね……」

「! おう! そうしろそうしろ!」

 ニカッと笑う悠栖に僕がぎこちない笑みを返したその時、バスルームのドアが開いた。

 僕も悠栖も朋喜も、一斉に其方を向いたら携帯を手にしたままの慶史が不機嫌な面持ちでこちらに歩み寄ってきて……。

「『葵を出せ』って凄く煩い。俺の話なんて全く聞いちゃくれないんだけど、もう切っていい?」

「! ごめんね、慶史。ありがとう。……携帯、借りていい?」

「いいの? こいつマジで相当怒ってるけど」

 話にならないかもよ?

 そう肩を竦ませる慶史に僕は小さく頷き、差し出された携帯を受け取った。

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