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第150話

「悠栖って普段は仔犬系天然バカなのに偶にこうやって無自覚に『漢気』出してくるから性質悪いんだよ」

「分かる! 女の子みたいに可愛くて思わず世話を焼きたくなる『弟』ポジションな癖に偶に見せる無駄に『友情に熱い』親友ポジション的なキャラがギャップ萌えなんだよねぇ」

「誰が『天然バカ』だ! つーかお前らに『女顔』って言われたくねぇーぞ!」

 慶史と朋喜による照れ隠しのような悠栖弄りはまだ続いていて、2人の言葉にいちいち反応する悠栖は確かに仔犬系だとこっそりと僕は納得してしまう。

 そして3人の中で誰が一番女顔かと言い合いを始める様子を眺めながら、3人ともタイプが違う容姿なんだから比較する意味がないのにと思ってしまう。

「そもそも俺は『女顔』って言われたことないけど?」

「嘘だろ!? 慶史を『女顔』って言わずに誰を『女顔』って言うんだよ!?」

「朋喜じゃない?」

「確かに慶史君は『性別を超えた美しさ』で有名だから『可愛い』よりも『綺麗』って言われてるし、男とか女とか性別は引き合いに出されないよね。……でも結局『男らしい』顔立ちって訳じゃないと思うけど」

「小声で言っても聞こえてるから。そもそも俺は『男らしさ』なんて求めてないから別にいいし」

「なら何求めてんだよ?」

「別に何も求めてない。見た目なんてこの先どうにでもなるし、気にしても無意味だと思うし」

 男らしくなろうと思えばなれるし、女らしくなろうと思えばなれる。技術の無かった大昔と違って今は意思と金さえあればどうにでもなる。

 そう言いきる慶史は、そもそも『らしさ』って何? と聞いてくる。

「性別で分けられるとか意味わかんなくない? 俺は『俺』なんだし、『男らしさ』とか『女らしさ』とか求められても困る。てか、むしろ迷惑。『俺らしさ』があれば俺はそれで良いと思ってるし」

 男は全員こうあるべき! とか、そんな考え方が怖すぎる。

 大袈裟に身震いして見せる慶史は、型に嵌めたがる社会は閉鎖的で衰退する未来しか見えないと切り捨てた。

 あっけにとられる悠栖と朋喜。僕は二人の困惑を理解しながらも思わず笑ってしまった。

「葵君……?」

「マモ……?」

「ごめん、なんだか可笑しくって」

 泣きそうな顔をしていたくせに突然笑い出したから、気でも触れたのかと思われたかも?

 僕は込み上がってくる笑いを堪えながら、「3人のやり取りが面白くて」と弁解した。

「なんだよ。そんなに笑うことねぇーだろ!」

「そうだよ。もう! 僕達何の話してたの?」

「知らなーい」

 僕につられて笑ってくれる悠栖と朋喜。慶史も大笑いこそしなかったけど口角が上がってたから、意地っ張りな『慶史らしい』反応だった。

「はいはい。話戻すよ」

「! そうだ! マモの話だ!」

「悠栖のそれ、あからさまに『忘れてた』反応だね」

 手を叩いて脱線した話題の軌道修正を図る慶史。僕はさっきよりも軽くなった気持ちに、ちゃんとみんなに伝えようって素直に思えた。

「僕、今週末に虎君に告白するつもりなんだ」

「マジか! 今週末ってことは、クリスマス・イブだよな?」

「うん、そう。僕はみんなみたいに魅力的ってわけじゃないからイベントの雰囲気に頼らないと伝える自信がなくて情けないけど……」

「卑屈禁止」

 『想い』が伝わる確率を少しでも上げたいからっていう僕の額を慶史が指で弾く。

 ジンジンと痛むおでこを擦る僕に、失恋したばかりで辛いだろう朋喜が掛けてくれる言葉はとても優しくて、不覚にもまた泣きそうになってしまった。

「大丈夫だよ! 葵君の気持ちは絶対に伝わるよ! それに幼馴染みのお兄さんならちゃんと葵君の『想い』に応えてくれるよ!」

「朋喜……。うん。ありがとうっ」

 恐いかもしれないけど、不安かもしれないけど、でもちゃんと『伝わる』からと言ってくれる朋喜。自分の好きな人と幼馴染みのお兄さんは別の人だから大丈夫だよ。って。

 ちゃんと『想い』が伝わるから頑張れと背中を押してくれる朋喜は、本当に強い。

 本当は今でも辛くて堪らないだろうに、それでも僕を励ましてくれるその優しさに勇気を貰わないわけがない。

 僕は力強く頷くと、3人にちゃんと『想い』を伝えると約束した。

「葵君が幸せになるよう僕達全力で応援するから何でも言ってね!」

「そうだぞ! 相手が誰でもーーー、たとえ『男』でも、マモが幸せだって言うなら俺も応援するぞ!!」

「俺はパス。葵をあの変態の生け贄にしたくないし」

「! ちょっと慶史君、そんな言い方はーーー」

「でも、葵が『どうしても』って言うなら、ムカつくし腹立つし本当に死んで欲しいって思ってるけど、我慢して応援してあげる」

「……それって『応援してる』って言えるのか? 思いっきり悪口並べてたよな?」

「仕方ないじゃん。どう頑張っても、やっぱり俺はあの人のこと嫌いなんだし」

 以前は『苦手だ』と包んでくれていたオブラートはすっかり無くなってしまっていて、そっぽを向いて虎君を『嫌い』と言いきる慶史。でも、それでも僕の『想い』を応援してくれるのは、「たとえ相手が大嫌いな相手でも大事な親友が泣く方が100倍嫌だから」らしい。

 そんなことを言われたら、慶史のことを怒るに怒れなくなってしまって、僕は結局優しい友達に「ありがとう」って元気と勇気を貰って笑うんだ。

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