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第143話

「明日のクリスマスパーティーはどんな感じなわけ?」

「? どんな感じかは先週先生がホームルームで話してた通りじゃないの?」

 明日で二学期が終わるということもあって心なしか浮足立っている放課後、帰り支度を終えて虎君からの連絡を待っていた僕に掛けられるのは慶史の声。

 携帯から視線を外して顔を上げたら、ご機嫌な笑顔があってちょっと身構えてしまう。一見すると上機嫌に見える慶史だけど、この笑顔は逆に機嫌が悪い時のものだから。

 明日は就業式だけだから、授業は事実上今日で終わり。つまり明日学校に来る意味はあってないようなもので、今日から冬休みだとクラスメイトはみんな浮かれてる。でも、今目の前にいる慶史は正反対。

 長期休暇なんて無くなればいいっていつも言ってるぐらいだから、冬休みが憂鬱だと思っているんだろう。

 僕は苦笑いを浮かべて「笑顔が怖いよ」って小さな声で注意を促す。慶史をよく知らない人には気づかれないだろうけど、慶史を知る人には機嫌が悪いってバレバレだろうから。

「『天使の微笑み』に酷い事言うね」

「自分で言わないの」

 慶史は僕の前の席に座ると「この笑顔は高いのに」って軽口を言ってきて、僕は「そんな愛想笑いはいりません」って苦笑を濃くしてしまう。僕が好きなのは慶史の『作り笑い』じゃないから。って。

 中性的で綺麗な慶史。でも、僕の慶史は『俺様で我儘で、でも意志が強くて友達想い』な男の子なんだから。

「……葵って、素直すぎるよね。というか、気障」

「なんで? 何処が気障なの?」

「そうやって面と向かって褒められると、俺みたいに疑り深い人間は『下心』を隠す『嘘』だって思うんだけど?」

 照れることも戸惑うこともせず真っ直ぐ想いを伝えられると逆に嘘臭い。

 そう言われてしまって、漸く自分の言葉が疑われていると気づく僕。勿論すぐに嘘じゃないって訴えるんだけど、慶史はそんな僕に笑って分かってるって頭を撫でてきて、どうやらからかわれていただけみたい。

 僕は慶史に疑われてなかったと安心して息を吐いて、焦らせないでよって空笑いだ。

「葵って本当、あれだよね」

「え? どれ?」

「んー? あれだよ、あれ。……い、い、愛しい奴だなって、思っただけっ」

 顔を赤くして言葉尻を小さく呟く慶史に、僕はキョトンとしてしまう。

 すると反応を返さない僕に慶史は今度は「何その顔!!」って怒り出した。

 でもその顔はさっきよりもずっとずっと赤くて、なんなら耳まで真っ赤で、とっても可愛い。

「あ、ごめん。慶史がびっくりするぐらい可愛くて、驚いちゃった」

「! 余裕面がムカつくっ!」

「え? え? な、なんで怒るの?」

 へらっと締まりなく笑っちゃったのがダメだったのかな?

 慌てて謝ったら慶史は何か言いたげな顔をしたけど、でも言いかけた言葉を全部飲みこんで、最終的に絞り出したのは「うまくいったの?」って言葉だった。

「何が?」

「だからっ、来須先輩とのことっ!」

「! わー! わー! 声大きいってば!」

 言い終わられた後に口を塞いでも意味なんてないんだけど、でも心情的にこうなってしまうのは仕方ない。

 手の下でもごもごと動く慶史の口。でも僕が口を塞ぐ手を退けないから、暫くしてその動きは止まった。

「僕、『秘密』って言ったじゃないっ! なのにそんな大声でっ!」

 声を押し殺しながらも精一杯怒鳴る僕。慶史は無言のまま分かったと両手を挙げてみせる。

 僕は疑いながらもゆっくりと慶史の口から手を離した。すると慶史は離れた僕の手を追うように身を乗り出してきて、

「その様子じゃ、告白はまだっぽいね」

 なんていい笑顔で言ってくれた。

 その笑顔が本当に腹立たしいほど爽やかで、恨めしい。

 一週間前、虎君への気持ちを自覚した僕は登校するなり抑えていられない想いを親友の慶史にだけ打ち明けた。

 その時の慶史は『相談がある』って言った僕の切羽詰まった様子に物凄く心配して親身になってくれたんだけど、その『相談』内容がただの恋愛相談でみるみる顔を顰められ、全部話し終えた後に言われたのは『恐れていた日がとうとう来たか……』って言葉と初めて見るぐらいの激しい脱力だった。

 項垂れた親友に狼狽えていれば、慶史は相変わらず虎君への悪口と恨み言をいっぱい口に出してくれて、それまでと違う『大好き』を持ってる僕は今まで以上に怒って慶史を圧倒してしまったっけ。

(あの後『そんなに好きならさっさと告白して納まるところに納まればいいでしょ!』なんて言われて『すぐに告白するもん!』って言い返したくせに、まだ告白してないなんて、そりゃ呆れるよね……)

 いや、呆れていると言うよりも、『ほら見た事か』って感じ?

 どっちにしろ裏目しい事には変わらないから慶史を威嚇するように睨むんだけど、

 慶史はその視線に気づきながらも何も分からない振りを装って「一週間以上経ってるのになぁ?」って更に僕を煽ってくる。

 僕は近くに誰も居ない事を確認しすると「だって……」と言い訳を探した。

「『だって』、何? あ! もしかして『勘違い』だって気づいたとか?」

「! 『勘違い』じゃないってば!!」

 打ち明けた日から何かにつけて僕が虎君を好きな気持ちは『勘違い』って言ってくる慶史。

 きっと慶史以外から同じ言葉を言われたら凄く傷つくし辛いって思うと思う。でも、慶史だから、何があってもむやみに僕を傷つける言葉を口にしない慶史だから、傷つくこと辛いって思うこともない。慶史はきっと僕の為を思って僕の気持ちを『勘違い』にしたいんだろうなって信じてるから。

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