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第141話

 自分の冗談が見事的中したと知った茂斗は僕を凝視してる。その視線が痛くて、僕は「笑いたかったら笑えばいいでしょ」って俯いた。

 でも、返ってくるのは笑わないけどって戸惑いの声だった。

「告ったの? 本気で?」

「わざわざそこを蒸し返すの?」

 気持ちが盛り上がって勢いのまま告白した自分を思い出して、顔から火が出そうなほど恥ずかしくなる。

 どうしてあの時言葉が口から出てしまうのを止められなかったのか、後悔すら覚えた。

「そうだよ。勝手に盛り上がって『大好き』って告白したのっ」

「虎の反応は?」

「さっき自分が言ったこと忘れたの?」

 わざわざ傷口抉るのやめてくれない?

 そう言って茂斗を睨みつける。絶対分かってて聞いてきてると思ったから。

 でも茂斗はそんな僕に「どんなふうに躱されたんだ?」って食い下がる。

(だから、傷口抉らないでってば!)

「いいから教えろよ。その時の状況とか、どんなやり取りをしたか、全部」

 髪のセットを放り出して聞いてくる茂斗。

 僕の嫌がる顔を見るのがそんなに重要なのかと恨めしく思うも、茂斗の顔は茶化してる感じじゃないから不貞腐れながらも説明した。

 虎君の優しさに想いが抑えきれずに『想い』を告げた事、そしてその想いに返されたのは家族としての『想い』だったこと。自分一人が盛り上がっていたと知って悲しかったことも、全部話した。

「満足した? 弟の失恋話を聞けて楽しかった?」

 全部話したら、もう自棄だ。笑いたければ笑えば? って喧嘩腰になるのも仕方ない。だって僕は言いたくない事を言わされたんだから。

 すると茂斗はそんな僕を「落ち着け」って宥めてくる。

「笑いたいから聞いたんじゃねーから、な?」

「じゃあなんで聞くんだよ。僕が嫌がってるの分かっててなんでっ」

 思い出したついさっきの記憶が悲しくて、涙ぐみそうになる。

 するとそれを見越した茂斗は僕の肩を掴むと、無理矢理自分の方を向かせた。

「お前達の為に決まってるだろ? じゃなきゃこんな風に口出したりしねぇーよ」

 真剣な顔の茂斗は、嘘を言ってるようには思えない。

 分かれと言わんばかりに詰め寄ってくる茂斗に気圧されて、僕はとりあえず無言で頷きを返した。からかってない事は分かったよって。

「よし。なら、これから俺が言うアドバイスもちゃんと聞けるな?」

「う、うん……ちゃんと聞く、よ……?」

 よくわからないけど、こんな必死な茂斗は珍しい。

 勢いに負けて頷く僕に、茂斗は一呼吸置いてある質問を投げてきた。

「まず聞くけど、虎の事、諦めるとか考えてないよな?」

「な、なんでそんなこと……」

「……諦める気か?」

 『諦める』なんてはっきり言ってない。でも、反応に茂斗は僕の心を見透かして顔を顰めた。

 どうして茂斗が怒るのかと疑問が浮かぶも、何故か僕自身も後ろめたいから言葉を失くしてしまう。

「なんでだよ? なんでそんな簡単に諦めるんだよ?!」

「か、簡単じゃないよ。僕だって嫌だけど、でも、相手にもされてないんだよ? このまま想い続けたって、報われないんだよっ?」

 僕は諦めたくて諦めるんじゃない。

 それは勢いから出た言葉だけど、紛れもなく僕の本音だった。

 僕は口からでた自分の言葉にハッと我に返って口元を隠してこれ以上本音が零れることを警戒した。

「……諦めたくないなら、くだらない勘違いで諦めんな」

「くだらなくなんてないし……」

「くだらねぇーよ。今聞いた限り虎はお前の気持ちに全く気付いてねぇーし、その状態じゃあいつだってお前に『好き』だなんて言えねぇだろ」

 失う怖さは分かるだろ?

 そう尋ねてくる茂斗。僕は少し考える素振りを見せて、小さく頷いた。

 この『想い』を告げることで、僕達が築き上げてきた『今まで』が壊れてしまう。

 たとえ壊れてしまっても、その後『これから』を築いて行けるのならば、こんな風に『想い』を告げる恐怖を感じることはないだろう。

 でも、誰も未来を見ることはできない。関係を『壊した』後の事なんて、知る由もない。

 だからみんな『想い』を告げた後の事を考えて口を閉ざすのだろう。『これまで』を守るために、『想い』を封じるのだろう……。

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