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第135話

 ずっと同性の恋愛に否定的だと思ってたのに、そうじゃないってそれを否定する茂斗。

 茂斗はそれは虎君も一緒だって言ってきたけど、どうしても直ぐに信じることができない。

「う、嘘だっ。虎君も茂斗も、男同士の恋愛は『変』って思ってるくせにっ」

「だからなんでそんな勘違いしてんだよ? 俺も虎もそんな事言った覚えないぞ」

 言葉を否定する僕に茂斗は真剣な面持ちで何があってそんな勘違いをさせたか知りたいって言ってくる。

 僕はそれに言葉を詰まらせた。だって茂斗が言った通り、虎君も茂斗もそんな言葉、言ったことなかったから……。

 そう。ただ僕が勝手にそうに違いないって穿った見方をしてただけ。

(僕、最低だ……)

 虎君と茂斗を誤解してた事もだけど、それに至った理由に気付いてしまって、自分の偽善者ぶりが露呈する。

 僕は、異性でも同性でも人を想う気持ちは一緒だって言いながら、同性愛は『普通と違う』から理解され辛いって無意識に差別してたんだ。

 だから、好きな人がいる虎君と茂斗はきっと同性愛に否定的なんだって勝手に思い込んでただけ。本当は自分こそ同性を好きになる人達を『外』に追いやってたんだ……。

(あ……、ダメだ、息、できない……)

「! ちょ、どうした!? おい、葵!?」

 胸が締め付けられて息苦しくて、呼吸が乱れる。

 目の前にいた茂斗はそれにすぐに気が付いて、「落ち着け」って言いながら背中を擦ってくれた。

 改めて知るその優しさに、罪悪感は大きくなるばかりだ。

「オイ、そんな吸い込むな! 過呼吸になるって! 頼むから一回息止めろ、な?」

 良くない兆候を見逃さずに悪循環な呼吸を繰り返す僕に言い聞かせてくる茂斗。

 僕は目尻に涙を感じながらもその言葉に従うように無理矢理口を閉じた。

 心臓はすごく早く鼓動していて、苦しい。でも、吸い込み過ぎだった酸素が遮断できたおかげか、混乱していた思考に平静さが戻ってくる。

「ご、ごめん……、もう、大丈夫だから……」

「本当にか? 無理、してないか?」

「うん。無理はしてないよ。ただちょっと、自分が嫌になったっていうか……」

 空笑いを浮かべて自分の失態を弁解したら、茂斗は何を言ってるんだと言いたげな顔をする。

 その眼差しに僕は自嘲を漏らして、ありのままを話した。自分は偽善者だったんだ。って……。

(僕って本当、甘えただ……)

 自分の汚い部分を晒すのは、茂斗に『そんなことない』って言われたいだけ。否定の言葉を貰って、安心したいだけ……。

「本当、僕って酷いよね……。『好き』って気持ちをこんな風に差別するなんて、あからさまに差別してる人よりもずっと悪質だ……」

「お前って本当、馬鹿だなぁ……」

「うん……、そうだね……」

「あのな、葵。本当に差別してる奴はそんな風に悩んだりしねぇーし、自分の『好意』が『悪意』だって気づいたりもしねぇーんだよ」

 だから気づいて悩んでるお前は偽善者じゃねーよ。

 茂斗は僕の頬っぺたを両手で押しつぶす様に挟み込むと自分の方を向かせる。

 真っ直ぐに僕を見る茂斗の目には、泣きそうな顔をしてる僕が映りこんでいた……。

「言っとくけど、慰めるために言ってるわけじゃねーからな。くだらねぇことでウジウジすんなよ?」

「! ご、めん……」

「それもいいから。もしどうしても謝りたいって言うなら、俺じゃなくて虎に謝ってやれ」

「! なんで……?」

「だって、虎の一番近くにいるのは葵だろ? そんな相手に誤解されてたとか、悲しいなんてもんじゃねーぞ?」

 僕が謝ることを許してくれてない茂斗はやっぱり優しいし頼りになる。

 そして、虎君が悲しむのは嫌だって思った僕の心を見透かしたように笑うと、

「好きな相手には笑っててほしいよな」

 ってびっくりするほど穏やかに微笑みかけてくれた。

 僕は茂斗の言葉に、顔が赤くなるのを感じる。でも、恥ずかしかったけど、素直に頷くことができた……。

(そっか……。僕、ずっとずっと虎君の事、好きだったんだ……)

 幼馴染として『好き』。家族として『好き』。

 でも、それだけじゃなかった。

 僕はいつだって虎君の事が『大好き』だったんだから。

「誤解が解けたなら、ちゃんと『好きだ』って言ってやれよ?」

 『男同士だから』なんて偏見は虎君にはないから、ちゃんと想いを伝えるように言ってくる茂斗。

 僕はその言葉に頷くも、気持ちの整理ができてからって言葉を続けてしまう。自覚したばかりの想いを伝えるのは虎君に失礼な気がしたから。

「え? なんで? 好きなんだろ?」

「す、好きだけどっ! ……好きだけど、まだ口に出せないっていうか、……気づいたばっかりだし、その、なんていうか……」

「……。まぁ、いいや。告るタイミングはお前が納得できる時でいいんじゃね?」

 口ごもってたら、茂斗は自覚してすぐに告白って性格じゃないもんなって気持ちを組んでくれる。

 僕がそれにホッとした顔を見せれば、茂斗は「でもな」って言葉を続けた。

「何があっても、ちゃんと伝えろよ? 絶対に、だ」

「? うん。そのつもりだよ?」

 また変な誤解をして想いも告げずに逃げるなよ? って念を押してくる茂斗。

 僕は茂斗がどうしてそんなことを改めて言ってくるか分からなかったけど、気持ちの整理がついたらちゃんと言うよって笑い返した。

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