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第118話

 明日からまた学校。

 いつもなら特に何も考えずにベッドで眠っている時間だけど、今日は全然眠る気になれず、僕はまだリビングにいた。

 日付が変わるまではまだ1時間ちょっとあるけどリビングにいるのは僕と陽琥さんだけで、めのうは勿論、姉さんと茂斗もきっと部屋で夢の中にいるはずだ。

 ソファに身を沈めてテレビをぼんやり眺めてる僕は、大して頭に入ってこない映像に早く寝ないと……と気持ちだけ焦らせる。

「何かあったのか?」

「! びっくりした……」

 クッションを抱きしめて、あと10分したら寝よう! って10分前も思ってたことを繰り返し決意してたら背後から掛けられる声。

 それは陽琥さんの声で、さっきまでダイニングテーブルで何か書類に目を通してたのにいつの間に後ろに移動したんだろうってすごく驚いた。

「陽琥さんって足音ないよね」

「いや、これでも気づかれるように歩いたんだが……」

「えぇ? 嘘だぁ。全然気づかなかったよ?」

 まるで忍者みたい。

 そう笑ったら、陽琥さんは「心配事があるんだろう?」って僕と向き合うようにソファに腰を下ろした。

「べ、別にないよ?」

「何もないにしては随分心此処に在らずじゃないか?」

 はぐらかそうとした僕に陽琥さんは薄く笑うと、夕飯前から様子が変だったって言ってくる。

 心配をかけたくないから頑張っていつも通り振る舞っていたつもりだけど、やっぱりバレバレだったみたい。

 僕は空笑いを浮かべると、「気づいたのは陽琥さんだけ?」って違うと知りつつ尋ねてしまう。

「桔梗とめのうは気づいてなかったな」

「そっか……。姉さんにバレてないだけマシかな……」

 ソファの上で膝を抱えて蹲ると、表情を見られないように顔を伏せた。

 茂斗は知ってるからいいとして、父さんと母さんには心配かけたかもしれないってまた自己嫌悪。

 これ以上心配をかけないために気付かれないように小さく溜め息を吐くんだけど、陽琥さんの耳は聞き逃してはくれなくて……。

「話したくはないが一人は嫌、か」

「……分析しないでよ」

 陽琥さんの声は静かだけど、テレビの音よりよく聞こえる。

 いつもなら気づいても放っておいてくれるのに、どうして今日に限ってこんな風に構ってくるんだろう?

 いつも通り放っておいてよって恨めしく思いながら陽琥さんを睨んだら、陽琥さんは「担当者が不在だからな」って笑った。

「『担当者』?」

「こうなった葵を浮上させるのは虎の仕事だ。が、今回は音沙汰もないようだし、このままお前を放っておくわけにもいかないしな」

 どうやら陽琥さんはあからさまに落ち込んでる僕に見兼ねたから声を掛けてくれたみたいだ。

 心配かけて申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちがあるのは本当。でも、虎君を落ち込んだ僕を慰める『担当者』って言われるのはちょっとだけ腹が立つ。

 確かに僕を知ってる人からすれば僕が虎君を凄く頼ってるって事は火を見るよりも明らかな事で、虎君が僕を大切に思ってくれてることも同じぐらい明白な事。だから、僕が落ち込んでいたら虎君に任せればいいって皆が思うのもまぁ納得ができる。

 けど、言い方ってあると思う。

 陽琥さんが今言った『担当者』って言い方は、虎君の優しさを茶化してる気がして凄く嫌だった。

「陽琥さんって偶に意地悪な言い方するよね」

「そうか?」

「そうだよ。……今の言い方、絶対にわざとでしょ?」

 僕は怒ってるのに陽琥さん笑ってるし、絶対分かってるよね?

 恨めしそうに陽琥さんを見たら、陽琥さんは「俺に心配かけるからだ」ってちょっぴり困った顔をした。

「俺の仕事にはお前たちの心配は含まれてない」

「! そんなの、知らないよ」

「ああ。俺が勝手に心配してるだけだからな。……でも、この仕事をしてると過度な心配は危険なんだぞ?」

 悪態をつく僕に陽琥さんは身を乗り出すと、「だからあまり心配させないでくれ」って言ってくる。

 耳に届いた『危険』という単語に、僕は自分の子供染みた振る舞いのせいで陽琥さんが、家族が危険にさらされるのかと心臓が痛くなった。

 陽琥さんの仕事は僕達を危険から守る事。陽琥さんが絶えず周囲を警戒してくれてるから、僕達は平穏な生活を送れてる。もし陽琥さんがいなかったら取り返しのつかない事態になっていた過去が沢山あるから、僕達の陽琥さんへの信頼はとても厚い。

 その陽琥さんが零した本音に、僕が不安を感じないわけがない。そしてその不安が顔に出ないわけがない……。

「心配かけてごめんなさい……」

「いや、俺も言葉が悪かった。……一人に意識を向けて他への警戒が疎かになるのは俺が未熟だからだ。己の未熟さを葵のせいにするのはお門違いだった」

 すまない。って謝ってくる陽琥さん。

 僕はそれに慌ててしまう。僕みたいな子供相手に大人の男の人がこんな風に頭を下げるなんて、普通じゃありえないから。

 陽琥さんって本当に凄い人なんだ改めて認識しながら、僕は陽琥さんが謝る事じゃないし、むしろ心配してくれたのに悪態をついてごめんなさいって謝り返した。

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