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第110話

「これは葵が自分で気付くべきだよ」

「何に気付くべきかもわかんないよ!」

「そんな顔してもダメ。こればっかりは甘やかしてあげられない」

 膨れっ面を見せても、教えないって頑なな虎君。

 ごめんな? って謝らないでよ! 聞きづらくなっちゃうじゃない!

 虎君のことならなんだって知っていたいのにこんな風に秘密にされたら壁を感じてしまう。

 僕は虎君が僕に甘いって知ってて、あえて涙目で訴えてみた。

(卑怯かもしれないけど、目は口ほどに物を言うって言うしね)

 でもこれでダメなら、絶対教えてもらえないんだろうな……。

「そんなに教えてほしい……?」

「うん。教えてほしい……」

「……わかったよ。なら、譲歩してあげる」

 教えてくれるの? くれないの?

 虎君の言葉ではどっちなのかわからない。でも、続く言葉は両方に当てはまった。

「葵が高校を卒業するときに教えてあげる」

「! 『高校』って、僕まだ中学生だよ?」

「だから、3年後に教えてあげるって言ってるんだよ」

 言い間違いだよね? って期待したけど、言い間違いじゃないみたい。虎君は3年後、僕が覚えていたら今秘密にしたことを全部教えてるって言ってくる。

 一瞬、3年も先かぁ……って覚えていられるか不安に思ったけど、冷静に考えたらそうじゃないって自分に突っ込んだ。

(これ、絶対躱されたよね?)

 教えてくれるつもりなんて最初からないんだって理解して、僕は思わず虎君を睨んでしまう。こういうはぐらかし方は酷いよ。って。

 こんな風にあしらわれるなら、はっきり『教えない』って言われた方がずっとマシだ。いや、何度も食い下がった僕が悪いんだけど、それでもこれはない。

 さっきまでの涙の名残で見せていたはずの涙目。でも、今はそんなのなしでも十分視界が歪んでしまっていた。

「葵、泣かないで……」

「だって虎君が隠し事するからっ……!」

 そうじゃなかったら泣かないもん。

 唇を噛み締めて必死に強がるけど、一度弛んだ涙腺は我慢の甲斐なく涙を溢れさせる。

(うぅ……情けないよぉ……)

 いくら仲が良くても口にできない秘密があるのは当たり前。それは僕にだってあるし、もちろん虎君にもあるってわかってる。

 でも、面と向かって隠さないでほしい。……ううん。こんな風にはぐらかさないでほしい。言いたくないことは『言いたくない』ってはっきり言って欲しいよ……。

「なんで……? どうして嫌なことは嫌って言ってくれないの……?」

 僕は虎君とずっと一緒にいたいから嫌なことは嫌だってちゃんと伝えてるのに、虎君は全然言ってくれない。いつもこうやってはぐらかされてる……。

 きっといつもならこんな風に落ち込むことはなかったんだろうけど、さっき瑛大に指摘された言葉を思い出してしまってどうしようもなかった。

(ずっと一緒にいたいって思ってるのは、本当は僕だけなのかな……)

 ダメだって思うのに、悪い方向に行っちゃう考え。

 ただでさえ子供扱いなのに、こんな風に癇癪起こしたみたいに泣いて責めたりしたらさすがの虎君も相手をするのが煩わしいって思うかもしれない。

 むしろ好機とばかりに突き放されたらどうしよう……。

「ごめん、葵……。泣かせたいわけでも不安にさせたいわけでもなくて、ただ今は言えないってだけなんだ」

 泣いてる僕にかけられるのは虎君の優しい声。

 顔をあげたら凄く苦しそうな表情が目に入ってきて、何故か虎君も辛いんだって伝わってきた。

「なんで『今は言えない』の……?」

「ごめん……。それも言えないんだ……」

 秘密にしてごめん。

 そういいながら頭を撫でてくる虎君は辛そうな表情のまま笑った。葵が高校を卒業したらちゃんと話すから。って……。

(今の僕には話せないって、僕が子供過ぎるからだよね……? 高校生になったら、僕、ちゃんと大人になれるのかな……)

 3年後、また同じ言葉を聞く事になるかもしれない。

 そんな不安が顔を出すけど、僕はこれ以上虎君にこんな顔をさせたくないから小さく頷いた。

「待ってるからね……?」

「ああ。……待ってて……」

 優しい笑顔。でも辛そうな笑い方。

 僕は涙を拭いながら、早く大人になりたいって強く思った。

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