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第10話

「し、シゲちゃん、……大丈夫……?」

「! ごめんごめん、凪。葵が勘違いして騒いでただけだから大丈夫。心配かけてごめんな?」

 とりあえず誰も事件に巻き込まれていないことに安堵した僕達の耳に届くのは、おどおどした女の子の声。茂斗が邪魔で姿は見えないけど、凪ちゃんだって直ぐに分かった。

 茂斗はその声に僕達の事をそっちのけでデレデレした顔のまま凪ちゃんを振り返る。確かに僕が勝手に勘違いして怖がって騒いでいただけだけど、こうやって口にされると居た堪れない。

 そんな言い方しなくても……。って僕が拗ねると、ポンポンって頭を撫でられた。この手は茂斗じゃなくて、勿論虎君のもの。

「茂斗、言い方」

「何だよ、事実だろ?」

「茂斗」

 注意してくれる虎君に茂斗は何怒ってんの? って雰囲気で言葉を返しくる。でも、もう一度茂斗を呼ぶ虎君の声には窘めと言うには怒気が含まれていて、茂斗は目を丸くした。そして僕も。

(虎君……?)

 明らかに普段と声の調子が違って、また不安になる。なんで虎君、こんなに怒ってるの? って。

「んだよ……。悪かったよ。そんな怒んなよ、虎」

「俺に謝ってどうする。相手が違うだろうが」

「葵、ごめん。茶化して悪かった」

 凄む虎君に茂斗は頭を下げて謝ってくる。その後ろで凪ちゃんがオロオロしてて……。

「ううん。僕もごめんね?」

 勘違いして騒いだのは事実だから。

 そう力なく笑えば、虎君は「葵が過敏になるのは仕方ないだろ」って擁護をしてくれる。

「強盗に殺されそうになったら、誰だってそうなるよ」

「でも……」

「凪ちゃんも、そう思うよな?」

 僕が昔を思い出してパニックになるのは仕方ないことだから謝らなくていい。

 そう言い切る虎君は喧嘩しそうな雰囲気に動揺する凪ちゃんに同意を求める。凪ちゃんは突然呼ばれた名前に肩を震わせて身体を強張らせていて、一目で怯えてるってわかった。

 僕は茂斗が怒ると思って身構えた。茂斗が凪ちゃんを誰よりも大事にしてるって知ってるから……。

「虎、凪は関係ないだろ。やめてくれ。俺、謝っただろ?」

 虎君と凪ちゃんの間に割って入るのは勿論茂斗。でも、僕の予想に反して茂斗は冷静だった。

(あ……、手、震えてる……)

 目に入った茂斗の手はぎゅっと握り締められていて、震えていた。まるで怒りを押し殺してるみたいで、凪ちゃんに対する虎君の態度が許せないんだろうなって思った。

 思って、これは茂斗なりの精一杯の謝罪なんだろうなって理解した。

 僕は虎君に視線を移して、虎君も怒りを抑えてと訴えた。

「凪ちゃん、ごめん。……茂斗も、凪ちゃんに対する俺の態度は謝る。ごめんな」

 さっきまでの睨みのきいた表情が消えていつも通り穏やかな笑い顔を浮かべる虎君。

 それに僕はいつもの虎君だって胸を撫で下ろした。茂斗も緊張していたのか、深い息を吐き出して。

「久しぶりに見たわ……、マジギレの虎」

「人聞き悪いこと言うなよ。大事な家族を悪ふざけで茶化すから、ちょっと注意しただけだろ?」

 茂斗の言葉に笑顔で軽口を返す虎君は、まだ床にしゃがみ込んでいた僕に手を差し出してそろそろ立つように促してきた。

 虎君の手を借りながらも立ち上がれば、心配そうな凪ちゃんの顔を見ることができた。

「驚かせてごめんね、凪ちゃん」

「マモちゃん、平気……?」

 謝る僕に首を横に振る凪ちゃんは虎君を避けるように僕の隣に近づくと、遠慮がちに顔を覗き込んでくる。

 酷い人見知りの凪ちゃんらしからぬ行動にびっくりしたけど、でも凪ちゃんの手が茂斗の手と繋がれていたから、納得。凪ちゃんは茂斗が傍にいると安心するのか、幼馴染の僕にはこうやって近づいてきてくれる。まぁ、同じ幼馴染でも、虎君はまだ駄目みたいなんだけど……。

(あ、あからさまに避けられて虎君ちょっとショック受けてる)

 視界の端に何とも言えない顔をしてる虎君が目に入って、ちょっと笑えた。

「うん。心配かけてごめんね? 勉強も邪魔しちゃったみたいだし……」

「大丈夫、だよ……?」

 そそっかしいね。僕。

 そう笑えば、凪ちゃんは虎君の視線にビクビクしながらも教えてくれた。本当は茂斗も心配してた。と。

「凪、それ言うなって言っただろ!」

「ご、ごめんなさい、シゲちゃん……」

 僅かに顔を赤らめて約束破るなよって繋いでいた手を引いて凪ちゃんを僕から引き離す。これ以上恥ずかしい真実を暴露されたくないんだろうな。

 でも、恥ずかしさに声を荒げた茂斗はすぐにそれを後悔してる。だって凪ちゃん、すごく怯えてるから。

「ごめん、凪。驚かせた」

「ううん。大丈夫……」

 すぐにフォローを入れる茂斗に凪ちゃんが見せるのは、僕達には絶対に見せてくれない可愛い笑顔だった。

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