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「中身があるね」と言われたい異世界トラベラーの方々への手紙

作者: 友人A

拝啓 異世界トラベラーの皆様


 日々異世界にトリップしている中、地球は年の瀬を迎えようとしています。熟練の異世界トラベラーの皆様はいかがお過ごしでしょうか。PV数は無事上昇していますでしょうか。感想に一喜一憂していらっしゃいませんか。中身がないと2chで陰口を叩かれて心をお痛めになってはいませんか。このお手紙はダンジョンや宿屋や王宮など、様々な場所で読まれていることでしょう。あ、電脳世界のいらっしゃる方もいましたね。私といったら健康そのものです。しかし寒さには勝てません。この手紙を書いているのはの本時間の2016年12月28日午前7半時でもうそれはもう寒く手がかじかんでしまっていています。新年を迎える準備のために早起きし、頭と指先を温めるついでに書いているわけです。


 ところで、「中身がない」こんな批判を受けたことはありませんか。私はあります。え、あなたもあるのですか?じゃぁお仲間だ。痛みがわかる友人がいて嬉しいですよ。「中身がない」なんて言われてどれだけ辛かったことか。でも「じゃあ中身ってなんだよ」とかいうとあんまりみんな答えてくれませんよね。私は世間の読者は無責任な奴らばかりなんだってよーく知っています。気楽にナイフを刺してくる読者はまるでオークだ!そんな知能の低いオークには「書きたいものを書いてるんだから中身なないはずないだろ!」って怒鳴りたくもなりますよね。私は何度も怒鳴ったことか。


 でもある時、読者は本をかけないアホのオークだけど、読者としてはそれなりに正しいんじゃないかって思うようになったんですよ。私には小説の中身が見えるけど読者には中身が見えていない、がたぶんだけど正解なんじゃないかってね。「無償ではるばる異世界へ旅に出て小説を書いてる小説に中身がないなんてことはあるはずがないんだ!」今まではこれを否定されて苦しんでいたけれど、問題はそこじゃなかった!その中身が、君たちの旅の魅力が読者にこれっぽっちも伝わっていないことこそ問題だったんですよ!これに気づいたらすごい気が楽になったし前に進めるようになりましたよ。筆に、指に天使の羽が生えて毎日踊るようになったんだ。だから是非とも異世界の仲間である君にも気づいて欲しいんです。そして天使の羽を身につけて欲しい。これからのちょっと文体が硬くなるけど我慢してくれよ。そしてダンジョンの奥深くに幽閉された大天使ミカエルのような羽をてにいれてくれ。


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 残念ながら私には中身があるということはどういうことかをちゃんと説明できるわけではない。しかし、中身がいかに多様性のあるものかということは知っています。中身とは主義主張のような言語化できるようなものである必要はありません。フランスの小説家レーモン・クノーの文体練習という本をお読みになると中身の多様性が感覚として少し分かるのではないかと思います。「バスに乗っているとき、首が長く奇妙な帽子をかぶった男ともう一人の乗客との口論を目撃する。2時間後に、同じ人物がサン・ラザール駅前で友人から『オーバーコートにもう一つボタンをつけるべきだ』と助言されているのを見かける。」という文章を異なる表現で99回書いた本です。これだけの意味を持つ文章が99通繰り返されているだけです。中身なんてこれっぽっちもなさそうですが、実際に読んでみると何か中身があると感じることができます。不思議ですよね。でも中身とはそういうものです。言葉は私たちの感覚を伝えるための道具であって、私たちの感覚自体は非言語的でなんの問題もないのです。当然、中身だって非言語的でも良いのです。


 あと、読者がよく中身のある小説であるための必要条件は云々というけれど、あんなのは無視したらいいんです。中身のある小説が満たす必要条件と、中身のある小説を書くための必要条件は異なるからです。前者は作った小説を批評するためのもので、後者は小説を作るためのものだからです。中身のある小説が満たす必要条件を知ったところで中身のある小説は書けないし、知らなくても中身のある小説を書く方法を知ってさえすれば中身のある小説の持つ性質なんてどうでもいいわけです。だから、書く立場になった時には中身のある小説であるための必要条件についてあれこれ考える必要はそれほどなく、中身のある小説を書くための必要条件の方に注目するべきです。


 しかし「必要条件はなに?」ってのは難問なんですよ。完璧には答えられない。私個人の意見では、必要条件の一部として「表現したいものがあり、大半の(名著なら全ての)構成要素がそのために存在しているように書く能力」というものが含まれていると考えています。表現したいものは必ずしも言語化できる類のものである必要はありません(例え文章で構成される小説であったとしても!)。表現したいことを表現するための手段として小説があるのですから、これは当然です。後半は無駄な構成要素をそぎ落とす能力とも言えますね。


 表現したいこと(中身)は必ずしも明確なメッセージとは限らないという部分は先ほど例として文体練習をあげましたが、もう少しわかりやすい例としてで三雲岳斗の「ストライク・ザ・ブラッド」がよいと思います。基本的にはどこに向かうでもないダラダラしたいちゃいちゃストーリーしかありませんが、作者の「僕の考えた最強にかわいい女の子」なるものが一つの筋を持って表現されており、とても人気を博しています。どこがどうかわいいかなんてところは非言語的ですね。作者の考えたキャラをひたすら表現し続けるという点で似ているなろうの人気作品でいえばFUNAの「私、能力は平均値でって言ったよね!」が近いですかね。


 時に無意識に任せて書いても満たしてしまう時もあるから、中身のある小説を書くための必要条件なんて存在しないんじゃないのという問いがあるかと思います。しかしそれは否定できます。例えば、心のモヤモヤを考えなしに書く殴った文章に中身が存在するときもあればしない時がありますが、それは無意識の中に表現したいものが存在しており、たまたま作品に無意識が芯を伴って表現された結果だと考えています。


 なので、私は必要条件の一部として「表現したいものがあり、大半の(名著なら全ての)構成要素がそのために存在しているように書く能力」の後半に着目するべきであると考えています。表現したいものは天命により授かりし主題であり、それ得た時に適切に表現出来る手段を持つことが最も大事なのです。自分の表現したいも(中身)が頭の中身あっても、それを読者に正しく伝えられなければ読者には「中身(表現したいも)がない」と思われてしまいましょう。


 なろう界隈の方が書く小説は世間的には中身がないと揶揄されることが多いですが、それは技術的な問題で読者に伝わっていないだけであるとも考えています。そもそも構成が稚拙であり語彙や話法が乏しかったり使い方が不適切といった文章作成能力から、中身がありすぎて読者の焦点が定まらくなった結果中身が見えなくなったというストーリーテリングの問題であったりと様々だと思います。ただ、残念ながらそのような細かな技術は目的に応じて使い分ける必要があるので、これさえあれば中身のある小説が書けるなんていう伝家の宝刀はありません。日々是精進。


 仮にも無償で物語を書くだけのバイタリティがありのですからなろうの作者の皆様においては中身がないことなどそうそうないはずです。ですから中身のブラッシュアップの手法や文章構成方、作者の中身を適切に読者に伝える訓練が最も大切です。適切な舞台設定の探索も欠かせませんね。要は中身が存在する小説を書くための技術を磨くべきだということです。そして中身のある文章を書くと意識した時は「自分は何を誰に向かって表現したいのか」を明確にすることが最も大切です。そうすると自ずと必要なものは見えてくるはずです。お婆さん向けの文体で若者向けの萌え萌えラノベを書いたてころで、若者にもおばちゃんにも受けませんよね。そういうことです。読者が世界に入り込みやすい技法を見つける。そして腕を磨きましょう。そしたら完璧です。入念な準備と気合は必要ですがね。


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 以上が私の言いたかったことだ。異世界トラベラーのみんなには是非とも天使の羽を生やして欲しい。そして君だけの異世界の出来事を私に伝えておくれ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ええと、おっしゃる事全て、丹念な推敲が実現するのではないかなって思いました。
[一言] >>「自分は何を誰に向かって表現したいのか」  これが中身だと思います。  では、中身がないというのはどういう事でしょうか?  個人的に思う、典型的な中身のない作品とは、『小説を書く自分…
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