表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

episode1「ウェンとロゼ」

 太陽が照りつけるコロッセオで、男の声が響く。


「——優勝者はァァァ、初出場のウェン・アウローラだぁぁぁぁ!」


コロッセオの中心に立つ少年、ウェンは多くの歓声に包まれながら、司会者の掛け声とともに拳を空へ突き上げる。

ウェンは賞金を受け取ると会場の外へと歩いて行った。白い狐は観客席からウェンの元へ駆けて行った。




「あ〜、もうクタクタだよ……」


街路をよろけて歩くウェンは白狐に向かって呟いた。倒れそうになるのを支えるように、白狐は小柄な体でウェンの足を押し返す。


「ウェンの割にはよくやったね!でも、暴れすぎだよ!」


ウェンにロゼと呼ばれる白狐は人間の言葉で、ウェンに返答をした。昔、ロゼは普通の狐として森の中で生きていた。しかし、何者かが放った

『人化の呪い(カースド・ヒューム)』に直撃し、人語と魔法を手に入れた。しかし、その代償として狐の群れを外されてしまった。仲間のいない生活の中で、寂しさのあまり、人間を襲うようになったが、ウェンが説得をして、一緒に旅をすることになったという背景がある。


「いやぁ〜、分かってる!けど、こう、なんていうか、魔力を抑えるコツがわからないんだよな〜、ロゼは魔法が上手いから分からないだろうけど!」


「何回も言ってるけど、ワタシだって最初から上手かったわけじゃないんだよ」


「は〜い、分かってるって」


ロゼはフサフサの尻尾を巻いて、ウェンの肩に飛び乗る。そして2人は宿に向かって歩き出す。






✳︎






噴水と時計台が彩る街の中心、フロール広場は大祭の影響で多くの人で賑わっている。フロール広場は普段から多くの人が集まる場所である。広場の近くにはこの街の顔である冒険者ギルドが存在するので、ギルドのメンバーはこの広場でよくたむろっている。


「ちょっと、休憩しよう!」


ウェンは疲れが溜まっており、宿まで歩くのもやっとのことだった。


「少しだけだよ!」


ロゼは呆れた顔をしながらウェンとともにベンチに腰をかけた。すると、次の瞬間、広場は爆風に包まれた。人々は爆心地から離れるように逃げ去っていく。


「事故か!?」


ウェンは声を上げる。塵が視界を遮ってハッキリとは見えないが、屋台が羅列していた場所が爆心地のようだった。その象徴にそこにはクレーターができている。


「バカっ!炎の魔法陣が見えないの?」


「俺はロゼと違って、『魔眼マジック・アイ』使えないからな!」


「そうだったね……」


胸を張って答えるウェンにロゼは言葉を失う。やがて、塵は沈み、クレーターから人影が現れる。


「ロゼ!アイツは——!!」


「うん、そうみたいね」


ウェンとロゼは人影を見て何者かすぐに検討がついた。赤髪に赤い貴族服、それは魔物を統べる魔界の幹部クラスであるフェニックスと呼ばれる男であった。数日前に、フェニックスと相打ちになって以来2人は追われ続けている。


「見つけたぞ、ウェン・アウローラ!!」


フェニックスは背中から生えている羽を広げてウェンに威嚇する。


「ウェン!どうするの?」


「そりゃ、決まってるでしょ!……逃げる!!」


ウェンは手のひらで白い球体を生成してもう片方の手の指で火を起こして球体に着火する。そして、それをフェニックスに向けて投げつける。


「わりぃ、今は相手してる暇はないんだ!」


白い球体は閃光とともに煙を吹き出す。これはウェンが逃げる際に、多用する閃光弾のような魔法である。閃光だけでなく、濃煙でも目をくらますため、魔力を追える者以外に対しては効果的な時間稼ぎとなる。






✳︎






大会での疲れが響き、息を切らしたウェンは目的地である宿屋「フォンテ」に辿り着いていた。 


「はぁー、なんとか逃げ切ったな!」


ウェンはロゼに話しかけたが、返答がない。


「ロゼ!?」


振り向いてみるとそこにはロゼの姿はなかった。


「——逃げ遅れたのか!!」


ウェンは青ざめて、街の端にある宿から中心部の広場を目指して駆け出した。だが、体力の限界を迎えたウェンは宿の前で意識を失ってしまった。





✳︎




「……ここは」


気がつくと、そこは宿屋のベッドの上であった。窓からは、朝日が差し込んでくる。それは、ウェンが半日ほど目が覚めなかったということを意味する。


「そうか。あの後、気を失ったんだな」


コンコンと木製のドアをノックする音と同時に老婆が入ってきた。


「そう、身構えるでない。わしはこの宿屋のオーナーじゃよ」


ウェンは肩の力を抜くと、ベッドから起き上がった。


「もう大丈夫なのかい?」


「はい!おかげさまで!」


ウェンは自分の荷物の中から宿代を取り出して、老婆に手渡す。


「お代は結構じゃよ。わしが勝手にしたことじゃい。安静にしとくんじゃよ」


そう言って老婆は部屋から出て行った。ウェンは自分の荷物に目をやると、赤い羽根を見つけ、何かを思い出したように慌て出す。


「——ロゼっ!?」


ウェンは手早く支度をすると、金貨3枚をテーブルに置いて窓から宿を飛び出していった。

着地点には炎のクッションが作られ、衝撃を和らげる。


「よし!魔力は回復してるな!」


ウェンはロゼを探しにフロール広場に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ