表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックシェルフ

君はネタバレを気にしない



曰く、「本気で知ろうとすれば知れてしまうし、興味がなければふーんてなもんだから」

わかるような、わからないような理屈だが、君がそうなった最大の理由はその体質にある。

所謂、予知能力者。ふとした時に白昼夢として、或いは眠った時に夢として、君は未来を見る。

見るものはあくまでも君自身のものであり、他人の身に起こる事象は知った事ではないし、近い未来しか見ない、らしい。もしかすると見ても判らなかったり現実になる前に忘れてしまっているだけかもしれないが。

そして、基本的に日常の些細な事象ばかり見ている。知ろうが知るまいが特に意味のないような一時を。或いは、気にしている、後に実際知る事になる事象を。

白昼夢に気になっている作品の一部ネタバレをされたこともあるらしい。そこまでいくと一種滑稽でもある。君は憮然としていたが。

まあ、そんなこんなで君はネタバレを気にしない。或いは、ネタバレをネタバレと意識していない場合もあるかもしれない。自分から積極的に求めはしないが、偶然生きあっても大体ふーんで済ませてしまう。

「先に知ってしまったら魅力が薄れてしまうものは、所詮そんなものだよ」なんて平然と言ったりもする。それでも、大抵の人はネタバレを好まない。既知よりも未知の方がわくわくするからだろう。そして、思ったものと違うと文句を言ったりするのだ。

「そういえば、君は何故僕に殺意を抱いたの?」

唐突に君は尋ねる。最近の白昼夢でそんなものを見たらしい。世間話の気易さで、食べ物の好き嫌いでも尋ねるような調子で、君は言った。

「まさか君に殺したい程思われているなんて思わなかったよ」

尋かれた側としては、戸惑うことしかできない。確かに君は、万人に好かれるような人間ではないし、大層灰汁の強い人格をしているから嫌いな奴はとことん嫌うだろう。蛇蝎の如く、不倶戴天の如く。しかしだからといって、普通に接している相手に殺意を抱かれる程酷い人間でもないのだ。

「いや、答える気がないなら別に良いんだ。実際殺されるまでは白昼夢はただの白昼夢だし、現実になるまでは君に何ら罪はないわけだから」

他の人にもまだ話していないよと君は言う。それがただの夢で終わるならそれでいい。現実になっていないのならそれは予知ではない。ただの胡乱な夢だ。夢の話で人を惑わすのは本意ではない。

こうしてまず本人に尋ねたのは君なりの誠意みたいなものだったのだろう。しかし、それが、その殺意が現実になり得るものだとするのならば、尋ねるべき事ではなかったのだと、君は気付くべきだった。犯行を事前に察知されて焦らない犯人などいない。

だから咄嗟にその場にあった鈍器で君の頭を殴った。記憶よなくなれという念の籠った一撃は君を昏倒させた。幸か不幸か、君がそれで死んだりはしなかった。しかし頭に強い衝撃を受ければ後に影響がないとは限らない。このまま放っておかれれば死ぬ可能性もあるだろう。君を医者に連れていく必要があった。君に生きてほしいのであれば。

君に対する殺意が確かに存在していたのか、自問自答する。普通であれば、実際行動に移そうとまで思いつめるような強い殺意と一般人とは縁がない。多少の逸脱個所はあれど、殴ったものも殴られたものもごく普通の一般人だ。

殺すつもりはなかった。そう言っても通じるかといえば、場合によるだろう。自分で動いた事に変わりはないし、何より現行犯であれば何も関係がないのだ。

既に殴ってしまっている。目を覚ました時君が全てを覚えていれば、己は殺されかけたのだと思うのだろう。覚えていなかった場合はどうだろうか。同じ事の繰り返しだろうか。少なくとも、君が見たという白昼夢ごと忘れない限り、君はそうするのだろう。そうしたのだろう。君は良くも悪くも思考がシンプルだ。探究心で出来ているんじゃないかという位に好奇心旺盛、そして悪運が強い。そう思うと、今の結果はなるべくしてなった必然なのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ