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ミッシング・ピース  作者: ぱせ
三章 アユム
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 少しだけ肌寒くなってきた十一月の空の下。僕は公園にいた。久しぶりの家族全員での外出だった。

 父は輸入雑貨を扱う会社の社長を務めており毎日忙しく、休みらしい休みなどないようで、家でもあまり顔を合わせることはなかった。完全な仕事人間だが、おかげで家族は裕福な生活ができているのだから、感謝というよりは尊敬していた。そんな父が突然、明日は休めそうだから家族でどこかに行こうと母にメールしたらしい。

 母は目を丸くして僕にそのメールを見せてきた。僕も正直、驚いた。父はいかにも頑固親父といった風貌で実際厳しかったが、携帯電話で母にメールしている姿を想像したら、なんだか可愛らしく思え、頬が緩んでしまう。

「アユム、マモルはどこに行ったの?」

 母が首を傾げて訊ねる。マモルは僕の弟だ。家族四人揃って遊びに来られたのが相当に嬉しかったのだろう。さっきまで近くの芝生で転げ回っていたが、今は姿が見えない。迷子にでもなったら大変だ。この公園はかなり広い。父の車に揺られている間、どんどんとビジネス街に入っていくので、どこに連れて行かれるのかと思ったが、まさかビジネス街のど真ん中にこんな大きな公園があるとは知らなかった。公園内にある、一際目立つ遊具が印象的だ。滑り台なのか、ジャングルジムなのかよく分からない巨大な遊具が、子供を飲み込んでは吐き出している。まるで怪物みたいだと感じた。そこにもマモルはいない。

「仕方ないな、探してくるよ」

 レジャーシートに座ってのんびりしていた僕は腰を上げた。そこにちょうどマモルが駆け寄ってきた。手になにか持っている。

「これ見て! 似顔絵!」

 自慢げに広げて見せる画用紙には、マモルの顔が描かれていた。鉛筆で描かれたその絵はもちろん白黒だが、それなのに色彩を感じる。視神経が勝手に色を着色して、脳中枢にカラーの映像を伝達しているような感じがした。素人目に見ても素晴らしい絵だと分かる。

「すごいな。それ、どうしたんだよ」

「あそこに座ってるおねーちゃんが描いてくれた」

 そう言って指を差した先には、たしかにベンチに座っている女性が見える。遠すぎて顔は確認できなかったが、若い女の子のようだ。母が女の子にお辞儀をすると、向こうもお辞儀を返してきた。

「あら、ボート」

 母が嬉しそうに池の方に目をやる。池の上にはボートが一艘浮かんでいて、幸せそうなカップルが乗っていた。父はなぜか、ばつの悪そうな顔をする。

「実はね、お父さんにプロポーズされたのがこの公園のボートの上だったのよ。ひどいと思わない? 逃げ場所のないところでプロポーズするなんて」

 母は意地悪そうな目で父の反応を窺う。父は顔を背けて咳払いをした。

「へえ、やるね、父さん」

 からかい半分でそう言うと、マモルがヒューヒューと奇声を発しながら父の周りを走り回る。みるみるうちに父の顔が赤くなっていく。やめろ、マモル。そろそろやめるんだ。心の中でそう念じたが、遅かった。

「大人をからかうんじゃない!」

 父が一喝すると、マモルは「ぎゃー」と叫んで遠くへと逃げていった。その様子を、僕と母は顔を見合わせて呆れるように笑った。

 ふと、マモルから預かったさっきの画用紙をもう一度眺める。こういうのを才能というのだろう。少し羨ましかった。僕には突出した才能や、人に自慢できるような特技もない。どこにでもいるような、まさに『普通』の人間だった。


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