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某は、弟子を鍛える

「う、うっぷ、気持ち悪い・・・」


これ、無理に起き上がろうとするでない。大人しく寝ておれ。

そのようなフラフラな状態で先に進んでも、良い事など無い。

調子が悪い時はおとなしく休む。野生で生きているとしても、守ってくれる者が傍に居るのならば、何も気にする事は無い


「し、しかし」


しかしも何もあるか。そもそもそんな状態では、数歩歩けばまた崩れるだけであろう。大人しくしておれ。

そこまで大した不調という訳でもないのだ。暫く寝ておれば治る

ただの魔力切れだ。


「うう、はい」


おそらくその様子から察するに、そこまで力を使った事は無かったのであろうな。

まあ、我々猫は生まれつき高い能力を持っておる。

本来はそこまで魔力を使用する事は無いようだからの。


「師匠も、そうだったんですか?」


お主、某の体躯を見てそれを聞くのか?

兄達がすくすくと育ち、あっという間に大きくなるさなか、この体躯だぞ?

今のお主と同じように、吐いて倒れるまで酷使したものだよ。


「す、すみません」


いや、謝る事は無い。某が生まれつきそうだというだけなのだからな。

まあ、おかげで魔法に関しては兄達よりも上達したのでな、何が幸いするか解らんものさ。


しかし、解らぬのはお主の覚えたい魔法よ。

他にもっと、使える物はいくつも有ろうに。何故この魔法の習得を望む。

お主に身体変化の魔法など、必要では無かろう。某と違い、ちゃんと恵まれた体躯が有るのだから。


「それは、その、師匠について行くなら、師匠と同じ姿の方が良いと思って」


ふむ、なるほど、そういう事であったか。

確かにお主の姿は少々目立つ。人の街に入るにも、某が姿を変える必要があるしの。

お主自身が出来るならば良いと思うが・・・。

お主の魔法の腕前だと、覚えるのに数度季節が回るまでは習得できぬと思うぞ?


「そ、それはそうなんですが・・・」


ふむ、まあ、お主の本来の姿を制限するのは余り良く無いと思い、必要なとき以外は本来の姿でと思っていたのだが・・・。

そうだな、お主がそういうつもりならば、基本の姿を某と同じ形にしておこうか。

ただ、お主自身に何か危機が迫った問解けぬと困る故、条件を付けよう。

お主が命の危険だと感じた時、もしくは元の姿でなければ誰かが救えぬと判断した時だけ、魔法が解けるようにしておこう。


「そ、そんな事が出来るんですか?」


過去に試した事が有る故、おそらく出来よう。

その代わり普段は、某と同じ程度の身体能力になる。

そしてそれを解くには、お主がこの魔法を習得する必要がある。

それでも、この姿を望むか?


「はい、師匠、お願いします!」


そうか、よし、お主の覚悟しかと理解した。

ならばこれからお主はこの魔法を習得するまで、幼猫の姿で励むがいい。

某も、出来る限りお主を鍛えてやろうぞ。


姿は、前のままで良いかの。せめてその体の色ぐらいはそのままにしてやりたいのでな。

ゆっくりと姿を変化させていき、解除条件を固定してっと。

うむ、赤い毛皮が良い感じではないか。


「ありがとうございます、師匠」


うむ、嬉しそうなのは良いのだが、実際の所身体能力は前と違い弱体化しておる。

気を付けるようにな。

回復したら体の感覚を確かめると良いだろう。

今までのような力強い動きは出来ぬと思った方が良いぞ。


「はい!」


本当にうれしそうだの。

弱体化させて喜ばれると、何やら複雑な気分になるな・・・。








「し、師匠、獲物に近づけません」


お主、もう少し静かに動けぬのか。

いや、今までは上空から高速降下で狩っていた故、致し方ないのかもしれぬが。

その体躯で狩りをするには、まず獲物に気が付かれない事が肝要。

陰に潜み、獲物を捕らえられるここぞというタイミングでのみ力を籠める。

これは魔法でも同じ事。力の使い所の問題だ。


「ま、魔法も同じですか」


左様。結局のところ、どんな事でも同じ事よ。

自身の行える範囲を把握し、その上で出来る事の可能性を広げていく。

成長するにはな、まず自分の能力の把握が一番よ。

自分の力を理解せずに今よりも先に進むことは、そうできる物では無い。

無論、そんな事を意識せずとも先に進めてしまうような才能の塊も存在はするがの。


「師匠は、そうでは無いのですか?」


ふむ、お主が某を大きく見ているのは理解しておるが、流石にそれは過剰だ。

某はただの猫よ。ただ母上が偉大であり、その偉大さに影を落とさぬ息子であろうと努力しただけの事。

魔法の技量が高いのは、某に大きな才能が有ったわけでは無い。単純にそれしか某にはなかったのだ。

母上の偉大さに守られぬ為に、某自身の足で立って生きる為に。その為には魔法しか無かったのだ。

故にひたすらに努力した。母に追いつこうと。いや、母を追い越そうとだ。

まあ、それは今だ叶ってはおらぬがな。


「・・・師匠は、凄い猫ですね」


そう言ってくれるのは嬉しいが、結局は母上が居たおかげだ。

某を、未熟な某を見捨てずにいてくれた母上のおかげだ。育ててくれた母上のおかげだ。

某が凄いのではない。某をここまで鍛え上げてくれた母上が凄いのだ。


「それも、そこまで強くなるのは生半可じゃないでしょう。自分は師匠ほど強い猫に会ったことは有りません」


まあ、そう言われるのは悪い気はせんがな。

某の里には、某と同じような者はごろごろといる。某が特別凄いわけでは無い。

だからこそ、お主も同じぐらい強くなれる。

なに、このような貧弱な某でも兄達と勝負ができるようになるのだ。お主は某よりもきっと才能が有る。我流であれだけの火の魔法を放ったのであろう?

某にはそんな芸当は無理であったよ。


「そ、それは、多分・・・」


ん、どうした、弟子よ。何か言ったか?

よく聞き取れなかったのだが。


「い、いえ、何でも無いです。次はどうしましょうか」


ふむ、そうか、なら良いのだが。

そうだな、どうやらやはりその体のの感覚にまだ慣れておらぬ所も有るのかもしれん。

少々体の使える範囲を確かめる方を先にやるとしようか。


なに、特に難しい事をするわけでは無い。

走った時の初速と最高速の、ジャンプ力、あごの力や、バランス感覚を確かめるだけだ。

ああ、そうそう。おそらく持久力も落ちておると思うので、気を付けるのだぞ。


「じ、持久力もですか?」


うむ、弱体化した際に、全ての能力は同程度に弱体しておるはずだ。

ただし、魔法だけは普段通りに使えるので、そこは安心すると良い。

さて、ではまずはちょっと走ってみるか。付いて来るがいい。


「はい!」


ふふ、いい返事だ。

ふむ、なんだかこうやって同じ大きさの猫の面倒を見ていると、まるで弟が増えたようだの。

いや、出来た様だ、かの。

里には某が面倒を見るような幼い猫はおらなんだ。

旅に出てからしばらく経つ故、今なら居るかもしれんな。


しかし、里に居た頃には、このように教える立場になるなど、思いもせんかった。

世の中何が起こるか解らんものだ。

まあ、少なくともこやつが一人前になるまでは、面倒を見てやろう。

なに、某とて10年も有れば一人前になれたのだ。こやつならばもっと早かろう。


だが、某もただぼんやりと教えてるわけにはいかぬな。

師であり、同族の先輩なのだ。猫としての誇りにかけて、そうそう負けてやるわけにはいかん。

そう思えば、某にも気合も入るという物だ。

うむ、良いな。我ながらこの考えは良い。

さて、ならば某も張り切るとしようかの。後続に後れを取らぬために。


見栄と笑われるかもしれぬが、見栄を張り切るが我らの一族よ。

某は、猫故に―――。

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