ロマイーク① 息を潜める
私は息を止め、奴が通りすぎるまでこの場をやり過ごす。
つもりが、背後から何者かに口を覆われる。
手袋の柔らかい布素材、背丈からして身分の高い男だ。
「だーれだ?」
―――この声はついさっき聞いたものだとわかる。
「王子?」
背負い投げしてやりたいのをなんとか耐えながら、後ろのセクハラ野郎の面を拝むとする。
「当たり、こんなところでこそこそ何やっていたんだい?」
これはまずいな、よりによって王子に更に怪しまれてしまった。
ただの使用人なら消えてもバレないだろうが、王子は消したら潜入の意味がないからまずい。
「あ、もしかして将軍にチョコレートでも渡すのかい?」
チョコレートとやらは持ちあわせていないんだが、あれは何なんだ。
そこらの泥でも固めたらいいのだろうか。
「いいえ」
それにしてもメイドの王子にする態度がどうやればいいかわからないな。
「実は将軍がおそらく私のことをつけ狙っていらして」
敵ながら申し訳ないが。
「え、つけ狙うって……」
さすがに盛り過ぎてこれでは自意識過剰と思われてしまう。
「あの堅物男が女性に興味を持つとは……天変地異の前触れかな」
天変地異のような戦はこれから魔族軍が起こすだろうから、あながち間違ってはいないな。