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私は魔王の加護を受ける闇魔ダークサタンス帝国の将軍だ。

ダヴロス侯爵の娘。


魔族とは言えど令嬢らしく淑やかな姉のようになれと言われ続けたが、私は剣や魔力で戦いの訓練を続けた。


いつか軍に入れたら、そう淡い思いを募らせていたところ、皇帝・メガンド様がとり計らってくださり、入隊どころか将軍の位にまでしてくださった。


初陣で不安ながらご期待にそえるよう、無数の敵軍の屍の山を築き、私は敵将と対峙している。


「貴様がクレジア=ダヴロス将軍か」

「いかにも、私は闇魔帝国の将軍である」



「分が悪いようだな…撤退!」

敵将は残った数少ない兵を連れて去った。



「戻ったか…」


「クレジア=ダヴロス、帰還いたしました!!」

私は陛下に膝をつき、戦の報告を済ませた。


「うむ、期待通りだった下がってよいぞ」

陛下の言葉通り謁見の間を後にし、城内の自室へ戻った。



魔族が住まうこの国はかつて人間の国とは分かたれる境界があった。

しかし、人の王が富を得ようと我々の世界へ踏み込んだ。


それから境界の柵は破壊され、魔族と人間は深く干渉するようになったのだ。


魔族は好戦的ではあるが、人間の世界を知る前は敵である人間達と変わらず王がいて、民がいる。

しかし戦いを切り出したのは他でもない人間、だから我々は攻められれば応戦する。


「ダヴロス将軍、陛下がお呼びです…庭園へ向かってください」

メイドが陛下から命を受けて来たようだ。

先程謁見の間で告げなかった話ということは、密命だろうか。


しかし将軍ということで顔と名は知れているのだから、敵の行動を探る類いの仕事ではないはず。

なら次の敵兵を出迎える支度を命じられるのか…。


黒い植物の乱雑に生い茂る庭園、その奥に簡素なテーブルと二脚のイス。


一脚に陛下が腰かけて、私をお待ちになっている。


「クレジア=ダヴロス、只今参りました」

「ここは我とそなたしかおらん、楽にしろ」

言葉通り、陛下はお茶を植物の茎で音をたてながらすすった。


「あの、ご用件は?」

陛下に呼び出されたのが、まさかお茶を飲むだけなんてことは…。


「そなたが初陣で戦った敵は…人類の中でももっとも武力を持つとうたわれる国だった」

私は言葉を失った。


「その様子だと、簡単に敵は蹴散らせたのだろう」

陛下の言う通り、私は敵をほんの数分で片付けた。


あまり魔力を持たない人間は武力と魔法の双力を持つ我々魔族軍に、叶う筈がない。

筋書き上の前提はあるが、実際人間にやられて怪我をしてくる魔族もいるし、人間の中にもそこそこ戦えるものはいる。


ただ実践経験のない私は、今日はじめて戦場に出た。

のに緊張はあれど大した苦戦もなく、あっさり敵は倒れた。


「実践のないお前が数分で敵を倒せるなど、いくら魔族だといっても可笑しい話だ」

「つまり…敵は倒されたフリをし、私を油断させていたということでしょうか?」

「そうなるな」


人間に勝ったとき、もの足りない、虚しいと感じたのは彼等が本気ではなかったからか。

そして敵の掌で転がされていたのは悔しい。

ほしいのは手柄ではないが、手柄をたてねば姉を越えるのは難しい。


だから、人を完膚なきまで叩きのめし、二度とこの城に進軍などさせぬようにする。


「お前に命じることがある」

「はい…!」

「…人類軍の人間を虜にし、お前が戦況を握れ」

「あの…?」

こうして、私は人間の世界と帝国を行き来することになった。



私は、諜報のために、いかにして忍び込むかを考えた。


しかし、魔族が人間の国へ入れば、どう紛れようにも目立つ。


人間は少なからず我々と同じく、本能というものがある。

生まれながらに危険や、異種が入った際、感知するのだ。


厄介にも力を持つために油断しがちな我々とは違い、すぐに警戒を出来る感覚を持っている。


魔城と人間の国を行き来をすれば怪しまれるし食事だってローブのままでは奇妙に移る。

そんな少しの違いでも気がつくだろう。


考えていても皇帝を待たせるわけにはいかない。

私は人間の国へ向かうため森を歩いた。


ここを出る前に、この姿を変えなければならない。

耳はどういうわけか人間と同じで、翼もしまえる。


後、姿を人間に近づけるには―――


なにやら、薬品の鼻につく臭いが近くからただよう。


「薬はいらんかね~」

フードをさげたローブを着た人間の薬師くすりしだった。

こんな生物の気配の薄い森で何をしているのだろう。


「やあ素敵なお嬢さん僕は薬師くすしです」


この男、私が魔族だと気がついていないようだ。

翼をしまえば、人間に見える――――。


いや、まだ角を隠していなかった。

さすがに角はしまえない。


「人間になる薬、いりませんか“魔族”のお嬢さん」

この男は魔族と知っていながら、私に話しかけたようだ。


姿を人間に変える薬、なぜ人間の薬師がそんなものを作っているのだろう。


「貴様……何者だ」

殺気は感じられないが、人間にしては、感覚がまともではない。


「あはは僕、魔族専門の薬師なんですよ」

「…もしや、魔族の城に来た事が?」

にわかには信じ固い。この男と城で会うこともないのだから。


「私は貴様の姿を見たことがない」

「裏口で係りの兵士に渡すだけで、城内には入りませんから」

やれやれと、魔族である私を前に、気の抜けた態度を取る。


「じゃあ今城に行くとこだったんで見ててください」

薬師が兵士等と顔見知りだと確認し薬を渡す姿を見届けた。


「ね、嘘じゃないでしょ」

「わかった信じよう」

あらためて薬師から人になる薬を受けとる。


「試作品なんでタダでいいですよ」

森に入り、人間の国に出る直前に飲む。


角がとれて、人間と同じく丸い頭になった。



「私は新人の女中でございます」

「よし、通れ」


薬師のおかげで、簡単に城に入ることが出来た。



「アルメリダン将軍のご帰還だ!!」


――――急に城が騒がしくなった。


この国の将軍といえば、ついこの前戦った相手である。


顔を見られているので、見つかるとまずい。


「そこの君、見かけない顔だ」

「新入りでございます」


「もっとよく顏〈かんばせ〉を……」


――――顔を近づけられる。


これ以上はまずい。


「なんだか……気分が……失礼いたします」


気分が悪いフリをして口を隠しつつ、その場を去った。



「……ふう」


やっと人気のない所に逃げられた。


さすがにこんな事をしてばかりでは情報を集めるのも苦労だ。


なぜメガンド様は顔の広く知られている私に、密偵などを命じたのだろう。



「……おい」


いつの間にやら、人がいた。

地味で陰険そうな眼鏡だ。

恐らくは非戦闘要員、指導者タイプだろう。


「なんでしょう」

逃げれば怪しまれてしまう。

ここは平然と答えよう。


「女中がこんなところで油を売っていていいのか」

「……申し訳ありません」


「王子の婚約パーティーも控えているんだ

しっかり準備を進めてくれ……」


「では失礼いたします」

「いや待て、お前は誰だ」

「……え?」


「この忙しいときに、指導に手が掛かるような新入りが来るなど聞いたことない」


―――やはりバレてしまったか。


連絡を取られる前に殺すしかない。



「ああ、わかった。王子にもて遊ばれたかわいそうな沢山の女性の中の一人だろう?」


――――は?


「皆まで言うな……まったく、あの王子は結婚を控えているというのに……」


よかった。勘違いしてくれて手間が省けた。


殺すとせっかく入手した服が台無しになるからな。


その女好きクズ王子の顔はまったく知らないが、利用するのも手だろう。



「ええそうなのです……私を愛しているとおっしゃったのに……」


「よし、共に王子に一泡吹かせてやろうではないか」


―――え?


「恥ずかしい話だが、昔王子に彼女を取られたことがあってな……」


眼鏡は忌々しそうに拳を握る。


よほど恨みがあるのか。


―――面倒だが、こいつは使えそうだ。

――――――


―――今まで生きてきて女中の仕事など経験がない。

どうしたものか、さっぱりわからない。


貴族の産まれであることから最低限の常識は学んだ。

私がやってきたことは戦いくらいだ。


まあ、馬鹿真面目にやる必要はないか。

お茶をいれるフリをしながら、重要な会話を聞き探ることにしよう。



「おや?」

―――その瞬間、ドアが開いた。


「こんなとこでどうしたんだい?」

身なりのよい薄茶髪の男が私にたずねる。


「――――お茶をお持ちいたしました」

「そうか、なら一緒に飲もう」


「え?」

なんだこの男、ずいずい迫ってくる。

しかし、女好きというなら簡単に騙せそうだ。



「いやーまさかこんな美人を見ながらお茶が飲めるなんて~」

「……」

フッちょろい。




「それにしても……こんな美人、いたんだね」

挿絵(By みてみん)


――――ゾクりと、背筋が凍りつく。

この男ただのバカ王子ではなかったか。

---



《聴こえるか》


この声は皇帝メガンド様?

―――頭の中に声が聞こえる。



《魔術を使い、お前に言の葉を送っている。お前も口に出さず返答しろ》


―――はい。




「――で、どうだ。情報は手に入ったか?」

挿絵(By みてみん)


《……それが。まず私の顔を知っている敵将がいましたから出鼻をくじかれ、探りにくくなりました。

そして使用人の話を聴くかぎり馬鹿だと思っていた王子が、対面してみると実は頭のキレそうなやつでして……》


「ふむ……将がいたとは想定外だ。人間の国は我等のような魔族の国より多いからな」


《他の魔族ですか……》


「ああ、ダークサタンスの隣に魔王の統治するクラウンリオンがあった。だが奴は最近になり人間に倒されたらしい。戦わずに負けるとは魔王らしくない男だったな」

===


《では成果を期待している》


対話が終わる。陛下は何も仰らなかったが、きっとあきれていたことだろう。


こんなことでは陛下に失望されてしまう。

―――――



抜いていた気を入れ直し、城内を調査する。

そういえば、王子は婚約パーティーだとかなんだとか、眼鏡男に聞いたような。


そこらを叩けば埃が出るのではないだろうか。

たとえば王子と婚約者を破談させるとか、そうしてお家断絶―――――


なと考えてみたが私はあくまでスパイ。城内を内側から攻めるのは命令外の事なので自重しよう。

第一に私はチマチマした工作をするくらいなら、単身で剣をとり暴れるほうが得意だ。

____



こそこそと城の内部を偵察していると、背後から気配が迫っているのを感じた。


私は即刻物陰に隠れる。誰かと思えば‘アルメリダン=ログナス’がキョロキョロと周りを見渡しているではないか。見つかったら絶対まずい。

====




『誰かと思えばダークサタンスの女将軍<じょしょうぐん>ではないか、密偵とは見下げ果てた』

『くっ……殺せ……』

『さて、じわじわといたぶってやろう』




なーんてことになってしまう。

奴は戦場で私と対峙しているし、顔を間近ではないとはいえ、気がつかれてしまいそうになったのだから今度こそバレる。


さて、どこに逃げようか―――?




【諦めて体当たり】

【後退する】

【息をひそめる】

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