表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第1話 転生特典は……記憶保持です。

目が覚めると……私、千里せんり 歩美あゆみ(32歳アルバイト店員女性)は宇宙にいた。


ここが宇宙だと判断したのは、図鑑や教科書に載っているあの宇宙の写真、真っ黒な景色、それに遠くの方では星だと思われる物の存在が視認できる空間に私がいて、今自分がその宇宙空間の中を文字通り宙に浮いている状態にあるからだ。


さらに驚くべきことに、宙に浮いている私の真下には、なんと地球が見える!!


この地球の存在が、今私は宇宙にいるのだと確信させた。

そして真下に位置する地球を眺めていると……。


「お目覚めですか?」


慌てて声の方に顔を向けると……。


昔子供の頃に見たビックリソンシールのゼヌスの風貌の細身の男性がいた。


ゼヌスとはあの神話のゼウスをもとに作られたキャラクターであり、服装は西洋絵画でよく見られる白い布を身に纏っているのみである。

ゼウスは絵画では筋骨隆々に逞しく描かれている。

だがゼヌスは……細マッチョだ……。

しかもまるで乙女ゲームに登場する腐女子の餌食になるであろう美麗男キャラの様な容姿をしている。


目の前の男性はそのゼヌスに瓜二つで、唯一違う点は額に星マークが無いことのみ。

いきなりの事態にポカーンとしていると……。


「返事が無い……これはもしや」


かすかに聞こえる声で呟くと、ゼヌスはこちらにゆっくりと人気少年漫画「ドランゴボール」で登場人物が空を飛ぶ際にみせる「部空術」さながら前傾姿勢で浮遊しながら近づいてきた。


「あ、あの!」

「!!」


とっさの声に驚いたのか、ゼヌスは部空術の前傾姿勢を維持したまま固まる。

3秒程の膠着状態で互いが固まっていると、私はあることに気づく。


ゼヌスの表情だ。


忘れもしない、あの顔は昔友達と女同士で男の勉強と称して見たアダルトビデオ、作品タイトル「意識が無い完成されたグラマラスBODYを持つアラサーお姉さんにイケナイ悪戯いたずら!!」に出演していた男優が、意識がない女優に悪戯をしようとする時に見せるスケベ顔。


「ヒッ……」


かなり引きながら声をあげると、ゼヌスの表情はすぐさまスケベ顔からキリッとしたものになり……。


「初めまして、私は転生を司る神、ゲウスです」


眼前にいる前屈みの変体紳士風な神様はそう名のった。


……「――以上で説明は終わります」

私は神様から自分が死んだこと、そしてこれからの転生についての説明を受けていた。

ざっと今までの説明を振り返る。


「千里さん、あなたは先程交通事故でお亡くなりになりました」

「あの、ちょっといいでしょうか?」

「はい、なんでしょう」

「事故に合う前に子供か女の子の声が空から聞こえたんですけど……何か関係があるんでしょうか?」

「声……ですか……。その声はあなたの転生先候補者の声ですね。声ということは次の転生先も人間ですね」


そういえば仏教信者に教えてもらったが、人が死ぬと再び人として生をうけるには様々な生き物、昆虫や花などへの転生を何度も繰り返してようやく人に生まれ変われるのだと言ってた事を思い出した。


いきなり人に転生なのですか?

転生先は子供なのですか?

他にもいろいろ疑問はたくさんあったが、説明の途中で何度も口を挟むと時間がアホみたいに掛かるので、まずは説明を全て聞こうと思い、聴く姿勢を取る。

神様は淡々と説明を続ける。


「通常、人は死後幾多の生物への生まれ変わりを経て再び人としての生をうけます。ただし例外があり、転生先候補の生物から申し出(オファー)があると、その生物に特典付きで優先的に転生できます」

「と……特典……」


説明を聞こうと心がけていたが、特典という単語に反応してしまった。

これはもしやラノベや漫画やアニメでよく見られるアレな展開になるのかとワクワクしてきた。

はやる気持ちを抑えて再び黙り込んで聞く姿勢をとる。


「特典といっても……あなたの場合は一つだけですね」

「いったいどんな!?」


また説明途中に口を挟んでしまった。

しかし今の私は2次元主人公みたいな状況の中にいるのだ!高ぶる感情を押し殺す事などできはしない!!

もうアホみたいに時間掛かってもいいから根掘り葉掘り聞きだそうと思った瞬間、神様はとんでもないことを口走った!!


「えーと……今現在の記憶を保持したまま転生ができるというだけですね」

「!!!!!」


なんということでしょう……。


死ぬ前あれ程願っていた夢物語が……今現実に起こっている、いや、まだ転生はしていないが、まさに今その夢物語が起ころうとしている!!


驚いて目を見開いている状態の私に、神様は説明を続けた。


「ただし良いことばかりではありません」

「?」

「転生先候補の生物の情報は実際に転生するまで知ることができません。あなたは死ぬ直前に声を聞いたと言いましたが、その声の主の情報は今現在の段階では一切知ることはできないのです」

「!?」

「声というからには転生先候補の生物は人間でまず間違いないと思います。しかし、よく考えてください。例えば超絶ブサイク無職童貞高齢引きこもり、尚且つ短小包茎・チビ・デブ・禿げで貧乏というこの世の場末のような存在に転生して人生ハードモードを経験する可能性もありますし、言葉を発する人造人間に転生する可能性もあるかもしれません」

「!!!」

「それでも……申し出(オファー)を受けますか?」


確かに転生先の人物の情報を全く知らないのはやりなおすにしても危険リスクがある。


「いくつか質問していいですか?」

「どうぞ」

「声の主は転生先の本人によるもので間違いないですか?」

「本人で間違いないですね」

申し出(オファー)をした人は、どうやって申し出(オファー)をしたんですか?」

「それはお答えできません。転生特典が記憶保持の方にはお教えできないんです」

「特典付きで転生したら死後どうなるんですか?」

「生を全うした場合はまた通常の転生の循環サイクルの輪に組み込まれます。ただし進んで自らの命を絶つ行為により絶命した場合は……」

「……場合は?」

「地獄を経験して貰うことになります。その後はまた幾多の生物への転生を繰り返します」

「地獄……って何するんですか?」

「転生特典が記憶保持の方には教えられないんです。記憶保持で転生して転生について色々と情報が出回ると問題になるのでお教えできないんです」

「そうですか……」


今の質問の受け答えで大体のことは解った。


声の主は本人で、しかもその声は子供か女の子の声だった。


ということは少なくとも転生先が中年男性・中年女性の可能性は無く、今より遥かに若い状態でやりなおせる確率は十分高い。


さらにやりなおしの代償も自殺を選択しなければ何の問題もない。


ただ問題なのは、転生先の人間に目が見えない、腕が無い、などの障害があるかないかだ。

こればかりは転生先の人間によるしかないので、一番の危険リスクはこの部分だろう。

そこで私は次の質問をする。


「転生先は過去や未来だったりしますか?」

「過去は無いです。あるとしたら転生の都合によるほんの少しの数日~数ヶ月未来なくらいで、現代だと思ってくれていいです」


よし!これで問題は無くなった。


目が見えないことや体の障害は現代医療と現代の社会なら大体はなんとかなる。

あまりにも重い病気はすぐに寿命を迎えるだろうし、障害は現代社会なら社会保障制度が利用できるから、少なくとも昔の障害持ちの人の様に人生超ベリーハードモードということはない。

残る質問はあと一つ……これが一番重要だ!


「じゃあ最後に一つだけ……転生先が異世界の可能性はありますか?」

「転生特典が記憶保持の方にはお答えできません」

「………………」


今の受け答えとこれまでのやりとりで、この質問に対する神の答えが意味することについて大体の想像はついた。


だが、確信が欲しい……。


そこでこの転生を司る神ゲウスとの出会いを振り返ると……私は危険リスクがある賭けに出ることにした………………。


「ゲウスさ~ん♪さっきワタシのことエッチな目で見てましたよね♪」

「んなっ!!」


ゲウスが意表を突かれた反応をみせると、私は間髪入れずに上着だけを想像できうる限りできるだけいやらしく脱ぎ捨て、ブラとジーンズと靴下の姿になるとゲウスにゆっくりと近づきながら、今まで出したことの無い声色とイヤラシイ姿勢ポージングで交渉を試みる。


「知ってる事教えてくれたらぁ~、ワタシの体、ゲウスさんの好きにしていいですよぉ~(ハート)


そう、色仕掛けだ!!


私は未だかつてこれ程までに知りたいと思った情報は無い!!!!


またこの色仕掛けには文字通り次の人生が賭かっている!

ここで情報を引き出せれば次の人生でかなり有利になる!


死ぬほど恥ずかしい……。


こんな事をしている姿を知人に見られでもしたらそれだけで死ねる。

だがなりふり構っていられない、ここで引き出すべき情報はそれだけのことをしてでも手に入れる価値がある!!


「…………あなたはいったい何をしてるんですか?」


非常に落ち着いた返答が帰ってきた。


「………………」

「………………」


しばしの沈黙。

一瞬の膠着状態。


互いの空気に緊張が走る様は、まさに心理戦!!


(この勝負、先に心理的優位に立った者が勝つ!)


私の脳裏に浮かんだそのひらめき。

だがゲウスはそれよりも速くに同様の考えが浮かんだのか、既に次の行動アクションを起こしていた!!


「…………くっ……」


悔しそうな苦しそうな声を上げて途端に前屈みになるゲウス。

しかし顔はうつむいた状態で表情をこちらに悟らせない。


途端にドッと沸き起こる違和感!


(オカシイ……ちょろすぎる……これは罠か?)


ゲウスの反応はまさに2次元キャラクターのテンプレ通りなちょろい男の反応だ……。


だが簡単すぎる……何より表情が読めないのが私の決断を鈍らせる。

しかしこれは好機チャンスなのかもしれない!


罠か……好機か……。


2つの選択肢が眼前に提示され、緊張がより高まる!

気がつけばてのひらにはうっすらと汗が滲んでいた。


迷うな……。

臆するな……。

これは好機だ!!


腹を決めた私は行動アクションを起こす!!


「あれぇ~?急に前屈みになってどうしちゃったんですかぁ♪?もしかしてぇ……反応しちゃったんですかぁ~(ハート)?」

引き続きいやらしい声色で語りかける。


ここだ!!


ここがこの勝負を決する重大な転換期ターニングポイントになる!!


体中の全神経を集中させると、相手に思考する余裕を与えないがごとく畳み掛ける!!


「知ってる事教えてくれたらぁ~♪」

胸を外側から両手で挟み寄せる。

それを俯いた神様の、こちらを向いている頭頂部の前に持っていくと……。


「なぁ~んでもしていいんですよ(ハート)



……やった。


恥辱に耐えてやりきった、演じきったんだ!!


この時点で心理的に優位な状況にあるのは私、それは第三者の目から見ても明らかだ!!

後はこの優位な状況を維持すれば勝てる!!


「…………」

「!?」


一瞬緩んだ緊張感は、激しい悪寒を伴って急激に呼び戻された。


表情は見えない、見えないはずなのに、いまだ前屈みの神がニヤリ……と下衆ゲスな笑みを一瞬浮かべたのが確かに感じ取られた。


(コイツ……まさか……!?)

そう思うのと同時に……。


ブンッ……。


前屈みだった上半身を勢いよく起こし、両腕を胸のあたりで組んだ仁王立ちの姿になると、その顔には平静を保った余裕の表情を浮かべながら……。


「あなたが何をしてきても、私は決して情報を売ったりしない!!好きにすればいい!!」


「!!!!!!!!!!」



先に先手を打っていたのは……、まぎれもなくこの神だった……。



神が最初に起こした行動アクションは、罠などと呼ぶべき生易しいものではなく、初手で詰む為の巧妙な伏線だったのだ。


それはまさしく……神の一手!!!!!!


勝負は既に決まっていたのだ。


相手に余裕があるからひるんでいるんじゃない……。

相手に決して折れない信念があるから躊躇ちゅうちょしたんじゃない……。

今、私の顔の目の前には……。


(リットル)ペットボトル程の大きさの、神様の股間に繋がっているであろう布で覆われた突起物が、そこに圧倒的な威圧感を放って存在していた。


「………………」


私は無言で脱ぎ捨てた上着に手を伸ばすと、今まで何事も無かったかのように、自宅の部屋で自分一人が着替えをするように、一言も発する事無く、服を着た……。


「着衣の状態で一体この私に何をする気ですか!?あなたがどんな色仕掛けをしてきても、決して私は口を割らない!!」


そんな神のカッコイイ台詞セリフを無視して、私は一人物憂げな表情を浮かべて遠くを見つめる……。



株の格言にこんなものがある。



「見切り千両」



損切り(ロスカット)の大事さを説く言葉で、損には違いないが、それによって大損が避けられるのなら、千両の価値があろうというものである。


私は恥辱に耐えつつも色仕掛けを仕掛けた。


しかしあの二(リットル)ペットボトルと対峙したときに一目で悟った。


(この化物バケモノは攻略できない……仮に意を決して攻略を試みても、逆にこちらがあの怪物バケモノに服従させられて終わるだろう……)


服従させられて奴隷のように扱われるという大損を被るくらいなら、恥ずかしい事をしたが得たものは無かったという小損を被る。


この損切りがここでの最良の選択(ベストチョイス)だ。


………………。


その後両者は落ち着きを取り戻し、神は最後の説明に入る。

もうあのペットボトルは姿を見せなくなっていた。


「それでは転生先候補の生物の申し出(オファー)を受けるという形でよろしいんですね?」

「……はい、特典付きでやりなおします」

「それでは最後に特典の記憶保持について説明します。」

「……お願いします」

「記憶の保管場所はどこかご存知ですか?」

「……大脳皮質ですよね?」

「その通りです。先程説明しましたが、転生後は転生先の生物の体に魂が宿る形になります。ではあなたの記憶は転生先でどこに保管されると思いますか?」

「……転生先の生物の大脳皮質」

「そうなると問題なんです。例えば転生先が乳幼児でその子の脳にあなたの記憶が保管されたとすると、脳が以上に育っている乳幼児になります」

「……確かに……」

「そのため転生前の記憶は魂に保管されます。以上で説明は終わります」


先程の恥ずかしい出来事が後を引いているので低いテンションで神の説明に反応していると、察した神様も大脳皮質や魂には深く説明することはせず、最後の説明はあっさりと終了したのだった……。


もう少し情報が欲しかったが、まぁ充分だろう。

何よりもなるべく早く転生したい。

というか、この神様とこれ以上一緒にいたくない……。


「それでは転生先にお送りします。準備はよろしいですね?」

「……はい」

「では……」


神様は両手をこちらにかざすと……。


「いってらっしゃい……」


寂しそうに別れをつげた。


すると現在宇宙空間にいる私の身体は、真下の地球に向かってスカイダイビングのように勢いよく落下していった。

落下速度は凄まじいもので、スカイダイビングよりもおそらく速い。

次第に身体が透明になっていき、もう地球に到達したのか、目に映る景色が真っ白くなってくると……。


「あぁぁぁっっぁああっぁああ!!エロイことしたかったよぉぉおぉおっぉぉお!!…………」


下衆ゲス神様ゲウスの心の叫びが、天高くから聞こえた…………。


雲を突き抜けたのか、落下先の方向に建物が見えてきた。


あの「まかせて」という子供か女の子の声が神の言っていたとおり転生先の人間本人によるものだとすると……声の主は恐らく日本人だ!だって日本語だし!!


だとすると私の読み通り今より若い状態で、しかもまた日本人でやりなおせる!やった!!


そんな考えのまま落下はなお続き、ある建物にぶつかろうとしたその直前で、また意識がなくなった……。


……そして……新たな人生が始まる…………。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ