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プロローグ

読んだ後コメントくれると喜びます。

お金が……無い……。


現在、仕事帰り……仕事といっても、会社で働く者や公務員の人達からすれば馬鹿にされるだけの存在であるただの個人経営リサイクルショップのアルバイト店員の仕事なのだが、その帰り道……。


32歳……この年齢で、しかも女、アルバイト店員で会社勤めの職歴も2年未満しかなく、特殊な技能スキルも専門的な知識も勿論……いや、技能は確かにないが、知識だけならたぶん、私と似たような底辺と見下される者達と比べたら……確実にある。


しかし知識があっても、遅すぎた……。


25歳、いや、遅くとも27歳なら軌道修正できたかもしれないが、30歳を超えた時に一気に野心的なものは無くなって来た。


20代の頃はもしもの時の為にと貯金もしていて、70万円まで貯めたのだが……。

だが26歳の時、ある出来事がきっかけで、その貯金も全て失う。

そのとき、自分はどれほど運と環境と人間に恵まれていないのだろうと嘆いた。


それから、完全に私の中で何かが切れた……。


以降、一人で誰とも関係を持たずに生きていこうと決めた。


そんな訳で現在は個人経営リサイクルショップのアルバイト店員などやっている。

関わる人間は店長だけで、それも勤務時間が終われば、いや勤務時間中もなのだが、個人的プライベートな会話などは一切なく、仕事をして帰る。

それだけだ。


そして今、仕事帰りでコンビニで食料を買って家に帰る途中だ。

お金が無いことを思い出した。

いや、確かに今月分のお金は無くなった。

だが3日後の給料日までは普通に暮らせる。


貯金など、もうしなくなっていた。

昔はスーパーの半額弁当やもやし、豆腐、コスパのいい麺類を食べて貯金をしていたが、もういい。

どうせちょっとした出来事で貯金などすぐ無くなるのだ。

現在は食べたいものを食べるようになった。


人生で一発逆転するために行動するのもメンドイ。

行動したら人と関係を持たねばならず、それもメンドイ。


誰とも関わらずに大金を稼ぐ方法としては株取引やfxくらいしかない。


ネット仕事ビジネスがあるじゃん!!

と思う人もいるだろう。


だが考えてみてほしい……。


ネットオークションだって人との売買。

在宅ワークだって人との契約。


例えば在宅ワークは会社委託の仕事なら会社の人間と関係ができるし、個人事業主フリーランスで仕事を受注する場合は多くの人と契約するため、結局人との関わりはある。


アフィリエイトやったり創作者クリエイターでもやれば?

という人がいるだろう。


実際アフィリエイトはやってみた。

しかし多くの時間を注ぎ込んでも一月の生活費を稼ぐのが精一杯だったのと、何よりあまり面白さを感じられず、やめてしまった。

アフィリエイトで余談だが、個人を公開している人達、例えば有名芸能人やアイス評論家などの肩書きを持ち積極的にメディアへの露出をしている人達は、ネットでも人が集まり、仕事の依頼も多い。

でも私はなるべく人と関わりたくない。

だから自分を世間に公開などしたくない。


じゃあ創作者クリエイターに挑戦しろよ!!

若者はこう言うかもしれない。


あのな……もうお姉さん32歳なのよ……。

気力もないし、これから始めたとして、最低限(カネ)になるまで3年~5年の時間が掛かると仮定する。

漫画、それも人と関わり少なくてカネになりやすいエロ同人作家になったと仮定しようか。

稼げるようになった時、もう約40歳だよ!!

ババアだよ、B・B・A、BBAだよ!!

即売会でエロ同人売ってる40歳BBAって……。

2次元の40歳オバサンは皆美女だよ。

でも現実の40歳おばさんは違うだろ……美容に金と時間を注いだ人達はそりゃ美人だけど、大半はババアだろ……B・B・Aだろ!!

そんな訳で世間にエロ同人作家のBBAとして認知されることに恐怖を感じているし、先程も言ったが、気力が無いのだ。


働く・ネット仕事ビジネス創作者クリエイター


どれもが私の理想の金稼ぎ、すなわち株やfxという誰とも関わらずに済む金稼ぎを行うために必要な資金、いわゆる種銭タネゼニ、を作る手段にはなる。


でも、もう……疲れた。

26歳の時の出来事で、本当に人と関わるのが嫌になったのだ。

人間は自分以外の人を完全に信用してはいけない。

30歳で一人ぼっちの時にようやく気づいた。

だが気づくのが遅すぎた……。

遅すぎたんだ……。


――もうすぐ家に着く……。


時刻は夕方、季節は冬。

冬なので夕刻といえど空は暗い。


ふと気づいた……。

いつもはこの自宅への帰り道も、少しは人がいる。

だが今日に限っては誰もいない。

車も通ってない。


一応、自宅から徒歩15分の所に駅がある。

また、駅とは反対方向になるが、これまた自宅から徒歩15分の所に、規模は小さいが商店街のようなもの、正確には商店《《街》》ではなく、商店通りとでも呼べばいいのだろうか、があって、ちょうどその駅と商店通りが自宅を挟むような立地になっている。

その商店通りには個人経営の店が多く並び、他に小規模なスーパーが一件ある。

その通りから少し離れた人通りの少ない場所に私がアルバイト店員として働いている個人経営のリサイクルショップがあり、すぐ近くには従業員の少ないコンビニがある。


通りから離れている為か、このリサイクルショップとコンビニの2つの店には本当に客が来ない。

この客数で利益は出るのか?

と疑問に思ったが、2つの店に共通するのは人件費の負担が通常の店と比較して圧倒的に少ないことだ。


リサイクルショップは私と店長の2人だけだし、コンビニに至っては来店した時に店にいる従業員はいつも1人だけなのだ。


通常、住宅地に店を構えるコンビニは従業員2人体制が基本だ。

私は過去に4店舗コンビニバイトを経験したが、来客数の多い立地の店(繁華街や街中のコンビニなど)でも店にいる従業員は2~5人で、住宅地のコンビニは1人~2人で、夜勤、朝勤、日勤、夕勤の時間帯を回している。

なので前者の店では8~20人、後者の店では4人~8人の従業員を最低でも抱えている計算になるが、現実には労働基準法により休日を取ることが義務付けられている事を考慮するとこれより多くの従業員が雇われているので、4人というのはありえない。


しかしこのコンビニに通いつめてもう1年が経つが……、全従業員はおそらく5人しかいない。

そして、来店した時迎えてくれる従業員はいつも1人だ……。

もちろんコンビニなので年中無休の24時間営業だ。


あの……法律…………。


いや、きっと家族経営なんだ、絶対そうだ。

そう思うことにした。

関わりたくないし、いろいろと調べるのもメンドイ。


――人の気配がない。

車も通らない。

静かで、世界に存在するのは自分ひとりだけになった感覚。


こういう時は頭が良く回転して考えごとが捗ったりする。

鼻歌を歌ったりする。

ひとり言をつぶやいたりする。


私は頭が良く回転して、昔の事、これまでの人生で挑戦しては失敗してきたことを思い出していた。

部活なんか熱中しても意味無かったなぁ……。

大学受験の時もひどかったなぁ……。

働く会社の選び方も知らなかったなぁ……。

恋愛も……。

家族も……。


あのとき…………も……。


!!!!


瞬間、頭が凄まじく働きだす。


脳に尋常じゃない血流を感じ、脳内分泌物質が大量に放出されている感覚。

同時に、心臓の鼓動が速くなり、下半身から、足の底から上半身へと徐々に痙攣けいれんしだした。

そして頭の頂上まで全身が震えあがった。


その時!!


今日に至るまでの人生の出来事が、一気に頭の中で閃光のごとき速度で再生された。


目は視えている。

景色は変わらない。

苦しい……、今の脳内は再生されている自分の人生と、その情報量におぼれているような苦しさ、そのふたつのことで埋め尽くされていた。


これが……死の直前に垣間見かいまみると言われている……走馬灯……。


「っうっっ…………ふッ……ウっ……」


声にならない声と吐息が口からはじける。

全身の震えは止まらない。

歯がガチッガチと音を立てて小刻みにぶつかる。

よだれも垂れており、そのしずくは地面に落ちた。


死ぬ……の……?


死に対する恐怖への感情が芽生えたと同時だった。


走馬灯のように再生された人生は終わった。

だが……生きている。


全身の震えは止まり、辺りの風景が何も変化していないことに気づく。

死への恐怖、苦しい、ふたつの感情から解放されて気がゆるんだのか、急に涙がこぼれてくる。

携帯で時刻を確認すると、今の出来事が一瞬のうちに起こった事なのだと理解する。


「っく……ひっ……くっ……」


泣き声をだして泣いていた。

死んでない……生きてる……。

自らの生を確認すると、泣いているのが急に恥ずかしくなり、平静を取り戻そうと呼吸を整える。


――落ち着いてきた。


手に持っていた食料が無事なことがわかると、あの状況でもコンビニ袋は離さなかったのか……と考えて、少しニヤけた。

とりあえず家に帰ろう、帰ってから考えようと思い、再び歩き出す。


――自宅のアパートが視えてきた。


変わらず人の気配はない。


さっきの走馬灯体験で、これまでの人生で得た、知識・知恵・経験の記憶が鮮明に蘇っていた。

人がいない。

車も通らない。

自分ひとりだけの帰り道。

そんな時は、ひとり言をつぶやいてしまう。


「今の記憶のまま……やりなおしたい」


「まかせて!」


前方上空から、子供のような女の子のような音程の高い声で、かすかにそう聞こえた。

小さく驚いて立ち止まり、目をこらして前方を見たが、誰もいない。


すると、後ろから車の走行音が聞こえてきた。


背後を振り返らず道の脇によけて歩いていると、異変に気づく。


車の走行音が道の中央ではなく、こちらに向かってきている!


気づいたと同時に、自分が車のライトに包まれる!!

慌てて後ろを振り返る。


!!!!!!


車ではなく……トラックでした。


そして、意識が無くなった。

私、千里せんり 歩美あゆみ(32歳、アルバイト店員女性)は、この日死んだ……。




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