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輪廻の森

作者: 長谷部弘明

 徐々に暑さが和らぐ季節に、木々を揺らす風を受けながら畦道を歩いていた。至る所が崩れ、下草に覆われているが、嘗ては田圃に通う農夫によって日々踏み固められていた筈だ。昭和の大合併で地図から姿を消した村を、幾人が記憶に留めているのだろうか。誰も踏み込まぬ山奥で、打ち捨てられた廃屋と、この場所だけが僅かに在りし日の面影を残している。


 鬼伏山という名の由来は、山を通る人々を襲う鬼がいた為とか、平家の落ち武者が潜んでいたからと言われているが、定かではない。確かなことは、ここに古くから人の営みがあったということである。豊かさとはかけ離れた僻地で土を耕し、水田に稲を植える。それは、親から子へと受け継がれてゆくのだ。


 この村にはあるものが欠けていた。どこを探しても、寿命を全うした者が葬られるべき墓所を見つけ出すことができないのだ。彼らが先祖の供養を疎かにしたのではない。ただ、墓を定める必要が無かったからだ。死した者が向かう先は、金色に輝く稲穂の下にある。長きに渡って、先人の血は純白の米粒となって生きてゆく人々を満たしていった。


 陽光が弱まり始めた草叢に立ち、瞼をゆっくりと閉じる。迫り来る闇夜を前に、妖しげな燐光を放ちながら頭を垂れる稲穂が見えるような気がした。骸を糧とした彼らの所業が、祖先を敬う民を示すのか、或いは縁者の血肉を貪る悪鬼の証明となるのか。それを伝える記録は何も残されてはいない。ただ私には、森を振るわせる風の音が、異形と人の狭間を生きた者らの慟哭に聞えた。


吸血鬼絡みの話を考える内に書いていました。ぎりぎりそれと分かるものを目指した結果、この様になった次第です。

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