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忘我邸にて  作者: 十二匣
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第一幕 そうだ、旅行に行こう③

 長野県に関しては何も含んでいませんよ?


 その後、列車の時間が迫っていると玖韻先輩に告げられ、急いで新幹線に乗りこみ(それでも駅弁とアルコールは買い込む)平日の所為もあってか空いている席を適当に陣取ると座り込み早速ビールを一缶空にした所でようやく玖韻先輩が今日の格好の理由を語り始めた。


 その理由とは。


 昨日の夜、李紅蘭りこうらん特集をテレビでやっていたから。

 その答えに何やら疲れた私は取りあえず眠る事にした。

 夢の中でチャイナドレス姿の玖韻先輩に襲われたが、悪夢と直ぐに認識できない自分に少し危機感を覚えたり覚えなかったり。


 さて、私達が目指す長野県は結構遠い。まあ九州から本州のほぼ中央まで行くのだから当たり前の話でもある。

 生憎九州からの直通便は無い為、名古屋で乗り換えとなった。

 名古屋でもチャイナドレス姿の玖韻先輩は目立ちに目立っている。

 ………いやちょっと待てよ。改めて今日のメンバー全員の服装を見てみよう。

 玖韻先輩は省略。霞桜先輩も省略。

 キース先輩。

 B級洋画に出てくる胡散臭い博士みたいな緩くカールした砂色の金髪は後頭部の高い位置で結わえてサムライ風。よく一般的なイメージで伝えられる天草四郎時貞みたいな髪型だ、月代は剃ってない。

 高い鼻に緑色の垂れ目。物凄く善人的な顔なのに、格好ときたら白地に南無阿弥陀仏と墨痕隆々と書かれた着流し。足は草鞋。頭には菅笠。腰には刀の代わりに鉄扇。

 イイ感じに日本を誤解した典型的外国人。念入りな事に荷物は正絹かどうか知らないけど風呂敷包み。唐草模様が目に染みる。

 太刀風先輩。

 斑なく染めた赤い髪(地毛という噂もある)、サイバーなダークレッドのサングラス。どこから手に入れてきたのか首を捻りたくなる露出度が異様に高い闇赤色のサービスにも程がある、タイトな露出狂予備軍的レザージャケット。胸元は大きく開き。ルビーが煌くシルバーのボディピアスが光るお臍も丸だし。水着に近いほどの露出度。

 でも、夏なのにレザー……いや、いいんですけどね。

 そして服には違いないけれど。ローライズにも程がありダメージにも程があるダメージジーンズ。アンダーヘアが見えないのが不思議だ。剃っているのかも。下着が見えないのも不思議だ・・・・まさか、穿いてないんですか?

 捕まるのもそう遠い日じゃないかもしれない。

 そして踵の高いコレも同色の編み上げブーツ。

 何時も通りの格好。

 つまり普段着ふだんぎ

 ………この人病気だ。

 気を取り直して鴛淵先輩。

 清潔感漂うシンプルなスラックスとアロハシャツ。ただし上下共々赤と黒の市松模様。被っているハンチングも同じ柄。履いている靴までもが同じ柄。良く見れば眼鏡のフレームや時計のベルトに文字盤まで………

 この人も病気だ。

 見ていると目がチカチカする。

 柔和な顔と余りにも似合わない。

 っていうかこの格好で先輩達の中じゃ一番地味って………

 …………訂正します、私以外全員目立っています。せめてここが真夜中のサーカスとか深夜の摩天楼とかハロウィンパーティーとかだったら違う意味で違和感ないかもしれないけど、ここはお昼の名古屋駅。夏の日差しが爽やかを通り越して鬱陶しい夏の名古屋駅8番ホーム。

 今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られるけど、何故か私の固有スキル直感が逃げたら危険と訴えかけてくるので踏みとどまっている。


「皆さん、発車時刻までもう暫くありますし、折角名古屋なのだからきしめんでも食べませんか?」


 鴛淵先輩の実用的な意見に皆で賛成してきしめんを啜る。格好はともかく言う事は実に実用的だ。

 それにしても………隣で油揚げの浮いたきしめんを啜る玖韻先輩を見てみる。上下は無理としても四方八方何処から見ても一分の隙なく女性だ。外見だけじゃなくて仕草や雰囲気もといった抽象的な物も完全に女性だ。

 実は男性ですといって信用する人は………人じゃないんだと思う。

 しかしそれ以上に気になるのが玖韻先輩の隣の巨大な古びた外見の黒いトランク。マリオネットでも入っているのかもしれない。

 玖韻先輩なら「あるるかあん!!」とか言いながら人形を出しても不思議じゃない。


「おい玖韻、ここから長野までどれくらいなんや?」


 既に一杯目のタヌキを食べ終え二杯目の月見に入った霞桜先輩がそう尋ねる。時間はお昼時なのに先輩方のお陰で店内が妙に空いてる。店からすれば良い迷惑だ。


「そうね、後二時間半って所かしら?カザは長野には言った事無いの?」


 因みにこの格好で地声は趣味に反すると今は女性の声になっている。これも玖韻先輩の特技の一つらしい。聞いた話だと女性の声だけ何通りも出きるそうだ。男性の声もできない事は無いが、あまり低い声はそもそも出ないそうな。

 どうでも良いけど霞桜先輩と玖韻先輩が並ぶと<中国系ヤクザとその愛人或いは似てないその娘>って感じだ。その上私を挟まないで隣にキース、鴛淵、太刀風3先輩が立とうものなら戦隊モノの悪役幹部勢ぞろいって感じになる。

 このインパクトに勝てるヒーローは中々いない。

 もっとも悪役って大抵正義のヒーローなんてのよりインパクトが強い気がしないでもない。


「ああ、俺は京都より東に行った事がないねん。」


「そうなの?、長野って良い所よ、大きく中信、南信、北信の三つに分かれていてね、皆でそれぞれの地区を馬鹿にしあって足を引っ張り合っているの。」


 玖韻先輩の話を聞いても何処が良い所なのかサッパリわからない。


「しかもね、国宝に指定されている松本城は農民の呪いで、天守閣が傾いたお城なの。コレは実話よ、明治時代まで傾いたままでちゃんと証拠写真も残っているもの。」


 ………益々良さが分からない。

 もっともそういう話が好きな鴛淵先輩は目を輝かせている。

 そう、鴛淵先輩は怪奇収集という嫌な趣味がある。

 そのラインナップも恐ろしい。

 人魚や河童の木乃伊なんてキワモノからはじまって、霊が振り向くビデオとか絞首刑に使われたロープ。磔刑たっけいに使われた釘、京都の某水神を祭る神社から盗って来た使用済み藁人形。

 どこまで本当か分からないようなアイテムがごっそりと鴛淵先輩の部屋にはあるらしい。

 将来の夢もイギリスはマン島の怪奇博物館を越える怪奇博物館館長。

 応援はしません。

 さて、きしめんも食べ終えて今度は特急に乗り込むと再び席はガラガラ。お陰で長野県は松本市まで私達はのんびりゆったり快適に行けたのだった。

 


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