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忘我邸にて  作者: 十二匣
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第二幕 招かれざる客② side虚祇 

 気が付けば一年以上間が開いてしまいました。色々遭ったんだと察してください。

 まだまだ元気に飲んでいる玖韻、鴛淵、太刀風先輩と紅葉さん、それに混ざって飲み出したキース先輩は置いといて私は少々疲れたので一足先に部屋に戻る事にした。


 それにしても先輩達の肝臓は何で出来ているんだろう?

 勿論肝細胞に間違いは無いが同じ人類とは思えない程呑む。何しろ乾杯にアルコール度数63度バーボン、ブッカーズを一瓶空けるような人達だ。コロナとかじゃないんだから瓶からラッパ飲みは止めて欲しい。かと言って「一気しまーす」と明るい掛け声とともに大ジョッキに並々と注いだ白酒パイチュウとかも勘弁して欲しい。

 この前だって午後六時過ぎから飲み始めてそのまま二日間四十八時間一睡もせずにあの四人は飲みつづけた。飲み干した量が日本酒三斗、焼酎一斗八升、ウイスキー等蒸留酒58瓶、ビール180リットル。興味本位で数えて後悔しました。

 何で急性アルコール中毒とか急性肝硬変とかにならないのが不思議でしょうがない。しかも先輩達は二日酔いで身動きも侭ならない私をよそに、そのまま次の日講義を受けに行きました。

 料金に関しては恐ろしくて思い出したくない。割勘じゃなくて良かったとしみじみ思う。お金の出所が不安すぎるが絶対気にしてはいけない。宴会前に近所の広域指定暴力団の事務所で爆発騒ぎがあったとか、近所の繁華街にある違法カジノがハコワレした噂だとか、絶対に気にしちゃいけない。

 それ以前にそんな魔宴とも狂宴ともつかぬものにしっかりと始めから終りまで参加してしまった事をもう少し重要視した方が良いような気がする。

 何にせよ元気な人達だ。因みにお酒が駄目な霞桜先輩はトマトジュースと牛乳と烏龍茶を交互に頼み、やはり数十リットルを乾したらしい。

 絶対オカシイ。


 それはさて置き部屋に戻る途中の事になる。

 正確な意味でゴシックという外見とは大違いで館内はどこも上品に明るく、とても今まで殺人や行方不明なんて物騒な事があったり、幽霊が出るような建物には思えない。だからこそ一人で部屋に戻る気にもなったのだけど。

 私の今日泊まる部屋は二階の伍號室。玖韻先輩が気を利かしてくれて太刀風先輩を肆號室にしてくれたから一先ず安心だ。傍若無人だけど些細な気遣いが出来る人だ。

 私、キース先輩、レニエルさん、楓さんの四人で喫茶室を後にして私達はまたバーに戻った。一階に降りた地点で楓さんとレニエルさんは自室に戻りますと別れ───従業員室は地下にあると言っていた───キース先輩は寝酒を飲みに。私は先輩達の様子をちょっと覗こうと思って一緒にバーに赴き、鴛淵先輩から安眠用にとチェリーブランデーを小さなグラスに一杯貰って先輩達に簡単な挨拶をした後、中央階段から二階に上がりホールから第一廊下に出るとぼそぼそと話す声が聞こえてくる。何処からかと耳をすますとさっきまで私達がいた喫茶室だった。

 皆で出た時に灯りを消した為今は暗い喫茶室から話声が聞こえてくる。何となく興味がそそられ覗いて見るとあの三人、片桐、間宮、久我裁とやらが話している。どうも辺りには誰もいないものと思っているらしく、話の内容もはっきりと聞こえてくる。


「おい、本当にやるのか片桐。」


「当たり前だ、去年俺達がどう言う目に遭ったと思っているんだ、一年掛けて漸くココを探し出した以上、きっちりと借りは返させてもらう。」


 どうやらレニエルさんの勘は当たっていた様だ。こうして話を聞いている限りではあまり平和的な印象は受けられない。

 個人的には駄目駄目だと思う。懐に入って何かしでかす心算なら礼儀正しく心から友好的を装わない事には最初から警戒されてしまう。


「心配するな、今回は久我裁さんがいる。」


 そう言って細面、片桐が椅子に座り足を組む久我裁に顔を向ける。


「信用できるのか、こんなヤツ?」


 迷彩服の男、間宮があからさまに不快感を浮べている。ここからでは暗くてよくわからないが久我裁が怒ったりしている様子は無い。それどころか薄っすらと笑っているように見えるのは気のせいだろうか?


「お前少し口に気を付けろ!」


「いやぁ、構わない。」


 何が気に触ったのかは知らないが激昂した片桐に久我裁が話しかける。


「俺がココに来た直接の因果はお前等かもしれねえが、時非トキジクに頼まれた事だからな、ちゃんと仕事はしてやるよ。」


 ヒャハハハと久我裁が乾いた声で邪悪ボスちっくに笑う。


「でもな、お前等相手が悪いよ。」


 久我裁が立ち上がる。背が高く二人を完全に見下ろす形になった。


「本来ならな、『玖韻クイン』の連中に関わって無事に命があった事を、その上お前等無事に自分の世界へ、言い変えるなら生活に完全とは言えないまでも三十%でも戻れた事を喜ぶべきなんよ。なのにお前等と来たら態々自分から『玖韻』に関わろうなんて愚の骨頂もいいとこ、本当の愚か者がする事だ。」


「おい、どう言う意味だ?」


 喫茶室の出口に向かう久我裁に間宮が問いかける。


「あー………何て言うかなぁ、只じゃ済まないとか命が危ないとか、もうそういう甘い状況じゃないんだよな、ハッキリ言っちまえば終わりだ。もうどうしようもない。」


「そうならない為のアンタだろ!?」


 間宮の大声に久我裁がまたクククと笑う。


「俺もな、一度『玖韻』とはやりあってみたいと思っていたが───今回は相手が悪過ぎる。最悪だ、いいか?大事な事だからもう一回言ってやる。最悪だ………さっきバーにいた面子を見たか?お前らは

知らんだろうが『神殺レーヴァンテイン』『電子魔術師デウス・エクス・マキナ』『狂笑面ダブルフェイス』『虐殺鬼ハンニバル』どいつもこいつも俺みたいな世界の住人ですら関わり合いになる事を絶対に避けるようなヤツ等ばっかり。しかも『銀色ギンイロ』と『永劫シンソ』の二人。後は『泡沫のコチョウ』に『復讐女神フューリー』でもいれば勢ぞろいだなぁ?残念だ、ある意味貴重なんだ、こんな連中が一堂に介する事なんてめったに無い。惜しむらくはこの感動がお前等には解らない事か………ま、どうでもいいな。さて、それでだ、お前等分かってるか?」

 

 薄暗い中、久我裁がぐるりと二人を見る。


「あそこにいたヤツ等はな言葉通りの意味で人外バケモノだ。しかもな、その中でも『永劫』は別物だ、レヴェルが違うとか格が違うなんてもんじゃねえ、それこそ次元が違うんだよ。その気になれば一人で全世界を敵に回して完全勝利を収めた挙句、全てを灰燼に帰してその灰すらももう一度消し去る事を片手間にやるレベルのモノなんだよ。世界どころかこの世なんて概念すら自在に弄くり玩ぶようなモノ。お前等が敵に回そうとしてるのはそういう連中の眷族……ヒャハァァァ!!いいねぇ剛毅だよお前等、罵迦も度を越せば立派な才能だ。珍しいぜ真っ当な状況から前戯も無しに最悪なんてもんじゃない、最上級の最狂最悪の状況までもってこうとするヤツは。」


 久我裁の言葉に二人の表情が見る見る強張って行く。


「いいか、ここまできて止めるなんて言うなよ?そんな事言い出したら俺がお前等を終わらせてやる。俺は優しくないぞ、こういう事の専門は時非トキジクの方だがな、俺だって人の痛がる所は知りすぎる程知ってるからなぁ、肉体的にも精神的にもな、ヒャハハハハハッ!」


 甲高く耳障りな笑い声。聞いていると精神的に不安になってくる。


「オイオイ、そう恐がるなよ、時非の頼みだからな、お前等がちゃんと行動を起こす以上『玖韻・・・』からは、ま、絶対とは言えないが守れる限り守ってやるよ、でも他の事は自分でやれよ。俺はお前等が何をやろうと知った事じゃない。何度も言うが時非に頼まれたから『玖韻』と遊びに来ただけだ。だから玖韻以外の事は一切知らない、自分達で何とかしろ。ククククククク、あー……楽しいねぇ。」


 喫茶室から出ようとする久我裁に慌てて喫茶室の斜め向かいにある図書室に隠れる。暫くして覗いて見ると片桐と間宮も一階に行ったのか既に喫茶室は空っぽだった。

 それにしてもどう言う事だろう。


 あの深紅の逆十字という教会に行ったら袋叩きに遭いそうな反基督的デモニッシュな服を着ていた久我裁という男は頻繁に『玖韻』という名前を口に出していた。そして他にもいくつか気になる名前というか何だろう称号のような物を幾つか口にしていた。けどそれより今は『玖韻』という名前の事が気になる。

 『玖韻』と言えば玖韻先輩こと玖韻玲音。関係者までも含めるなら玖韻先輩の従兄弟であるレニエルさんことレニエル・オルフェウス。もう一度久我裁の言っていた不穏な台詞を思い出してみよう。


「本来なら『玖韻』に関わって無事に命があった事を喜ぶべきなんだ、なのにお前等と来たら態々自分から『玖韻』に関わろうなんて愚の骨頂もいいとこ愚か者のする事だよ。」


「もう終わりだ、どうしようもない。」


「ああ、時非の頼みだからな『玖韻』からは守ってやるよ、でも他の事は自分でやれよ。」


 さて、この言動を整理してみると片桐達は自分達に危害を加えた存在が『玖韻』という人間だと言いたいらしい。そして久我裁はその『玖韻』から身を守る為のボディーガードのようだ。けれどそう考えると分からない点が一つ。さっきのレニエルさんの話を思い返してみても一度も『玖韻』という単語は出てこなかった。仮に去年のその日偶々訪れていたレニエルさんの私的なお客サンの名前が『玖韻』だとしても、この『眩暈館』の総責任者は玖韻先輩の言を鵜呑みにするならレニエルさんであって決して『玖韻』とやらじゃない事になる。

 そこが分からない。密室状態からの失踪、密室状態での殺人。ソレを行える者として眩暈館の関係者や総責任者であるレニエルさんを疑うのなら何もおかしい事は無い。なのにレニエルさんのレの字もオルフェウスのオの字も出て来ないで只管危険人物扱いされたのは『玖韻』と呼ばれた人。

 少し思い切った想像をしてみよう。『玖韻』とやらが玖韻先輩だというのはどうだろう、去年私はまだ高校三年生、玖韻先輩が何をしていたのかなんて知らない。レニエルさんの私的なお客さんが玖韻先輩と考えればすっきりするんじゃないだろうか?

 でも、多分違う。

 もし『玖韻』が玖韻先輩の事を示しているのならバーで片桐が玖韻先輩に逢った時あんな事を言わないでもっと違う反応があった筈だ。

 では去年レニエルさんの私的なお客さんとして来ていた二人のウチどちらかが(玖韻)と名乗る人物だったという考え方はどうだろう?

 良い考えだと思ったけどコレもペケだ。何故なら今この眩暈館にいるのは私を含む面々とレニエルさんに耀耶麻三姉妹。それとさっき訪れた片桐、間宮、久我裁の総勢十三名。去年片桐達と一緒になったレニエルさんの私的なお客さんとやらはいない筈だ。だから去年レニエルさんの私的なお客さんとして泊まった誰かも『玖韻』ではなくなる。なのに、久我裁はしきりに『玖韻』と口に出し、『玖韻』からは守ると言っていた。それはつまりあの三人と私を除く九人の内誰かが玖韻先輩とは別の『玖韻』という事になる。ややこしい話だ。とりあえず誰が『玖韻』なのかと言えば、レニエルさんを『玖韻』と呼称していると考えれば一番すっきりする事はすっきりするが、何かしっくりこない。それにしてもややこしい事になってきた気がする。

 とりあえず『玖韻』に関する考察はここまでだ。

 考えてもわからない事は考えないに限る。

 ………こういう所から脳の軟化とか温暖化が始まるんじゃないだろーか?

 ………………さて、気を取り直して次の事を考えよっと。

 あの時久我裁が言っていた幾つかの単語。

 確か……えーと……えーと……殆ど憶えてない。

 ああ、私の脳はもう狂牛病の牛やクロイツフェルトヤコブ病のように穴だらけのスポンジなのでしょうか?!

 ……自己陶酔はこのぐらいにしておいてもう一度よう思い出して見よう。確かあの時久我裁は………そう、こんな事を言っていた。『デウス・エクス・マキナ』『レーヴァンテイン』他にも何か言っていたけどとりあえずしっかりと思い出せるのはこの二つだけ。

 『レーヴァンテイン』は知っている。悲しいかな、中二病罹患者としての過去がある私には当たり前の知識。良いんだ、忘れよう、中二病に掛かっていたから今だってレーヴァンテインの意味が解るんだ。そうとでも思わないとやってられない。

 出典は確かエッダ。古エッダだと思う。その中で語られる北欧神話に出てくる魔王スルトが携えていた燃え上がる剣の名前だった筈だ。神々との最終戦争の際何もかも全てを焼き尽くす剣の名前だと思った。

 当たり前とか言っておいてちょっとうろ覚えなのが情けないやら恥かしいやら。

 『デウス・エクス・マキナ』も聞いた事はある。確かラテン語で………機械仕掛けの神。演劇用語だと思ったけど、意味までは出てこない。

 

 あの時久我裁は「あのバーにいた面子を見たか?」と言っていた。つまり、『レーヴァンテイン』と『デウス・エクス・マキナ』は私達とレニエルさんそれに耀耶麻三姉妹のだれかだという事になる。

 ………何だか考えれば考えるほどわからない。情報が少なすぎる。けど、それにしても間宮、片桐、久我裁の目的はなんなんだろう?

 図書室から顔だけ出して辺りの様子を伺ってみる。二階第二廊下に人のいる気配は無い。ちょっと胸を撫で下ろし第二廊下から第三廊下へ続くドアを通り陸號室の前の出ると伍號室へと続く一方通行のドアを開けた所で私は固まった。

 そこにいたのは鍵穴に鍵を指しこみドアノブをがちゃがちゃとやっては不思議そうに首を捻る久我裁の姿。

 何でこの男が私の部屋の前に!?

 混乱しそうになる精神を理性で縛り付け冷静になってみよう。既に久我裁の視線はドアを開けた音で気が付いたのか私に向いている。

 さっきの会話を思い出す限りでは決して話が通じなさそうな相手じゃあない。


「………あの、何をしているんですか?」


 無理に搾り出した声は少し掠れていた。


「ああ、実は鍵が開かないんだ。部屋番号は合っている筈なんだが……」


 さっきまでの邪悪な口調はどこに言ったのか。別人としか思えない普通な口調で困った様に後頭を掻く仕草は悪い人に見えない。しかし人間は外見によらないのだ。私の周囲には良い見本が揃っている。

 それにコイツの本性っぽいのはさっき見たばかり。


「あの、もしかして階数を間違えていませんか?」


 私がポケットから出した鍵を久我裁に見せる。久我裁は暫し鍵を見比べ、あっと声を上げた。


「………本当だ、良く見れば俺の鍵には一階って書いてあったよ。いやあうっかりしてた。」


 と人懐っこい笑みを浮べる様はどうみても好青年にしか見えない。


「助かったよ、そろそろ廊下で寝ようかと覚悟してたんだ。」


 こちらが恐縮してしまう程に頭を下げてお礼を言ってくれる。さっき喫茶室にいた人と同一人物とは思えない程の変りようだ。


「俺は久我裁響、良かったら君の名前を教えてくれないか?」


「………虚祁優月」


 少し迷ったけれど教える事にした、先輩達と同じく一線どころかニ線も三線も越しちゃってる人に違いは無いだろうし、絶対悪い人だけど、ここで教えなかった場合どーなるか?

 ちょっとシミュレーションしてみよう。

 パターン1 死亡

 パターン2 死亡

 パターン3~8全て死亡

 ………この場合私が答えるべき答えは。


「虚祁優月ですぅ」


 ちょっと媚びも入れてもう一回言っておこう。


「虚祁さんか、本当にありがとう助かったよ、お礼と言っては何だけど良いことを教えて上げよう。」


 高い背を屈め私の耳元に顔を近づけてくる。


「盗み聞きは止めとけ、好奇心は猫以外だって殺すんだよ?」


 その言葉に飛びのく私をあの耳障りな笑い声を上げながら久我裁は楽しそうに眺めている。

 つまり、さっき喫茶室の会話を私がこっそり聞いていた事を久我裁は知っていた。その事実に背筋が粟立つ。

 もしかして私の部屋の前で鍵を間違えていたのは演技で真意は私を待ち構え警告するつもりで……

 だけど、正直ムカツク!

 先輩方と行動を供にしていたお陰で私も度胸だけはついているのだ。


「………聞かれるのが嫌なら何であんな所で話していたんですか?!」


 私の態度に久我裁が笑みを浮かべる。


「そう、虚祁、お前は良い事を言う。全くその通りだ俺もそう思うよ。」


 あっさり肯定された。


「どうもあの罵迦どもは個室には盗聴機やカメラみたいなものが仕組まれていると思っているらしい、飽きれた罵迦さ加減だな、『玖韻』の連中がそんな姑息な真似するか?『玖韻』は野暮じゃねえ、ゲームのルールってヤツをちゃんと知ってる。ま、知ってるだけでルールを守るかどうかっていう点は別問題だけどなぁヒャハハハハハハ!!」


 やれやれといった感じに久我裁が肩を竦める。その様はやっぱり善人だ。口調も笑い声も邪悪でしかないのに、その動作だけは善人だ。


「でもね、虚祁さん?」


 邪悪な笑顔と口調を引っ込め真面目な顔をする。玖韻先輩には敵わないけど結構美男子だ。

 ただ、その目が昏すぎる。

 どろどろと汚泥を捏ね繰り回したような、光すら逃さないブラックホールのような目をしている。


「あんまり他人の事情に首を突っ込むモノじゃあないよ。まだ生きたいだろ?俺みたいな半端者と違ってさ?自殺願望でもあるっていうなら話は別だけどね。」


 そう言い疑問符を残して肆號室の方へ去って行った。

 ドアが閉まりガチャリとオートロックの鍵が掛かった音に気が抜けて、へたへたとその場に座り込んでしまった。その瞬間何か首筋がチクリとする。何となく首筋に触れると指先に硬い物が触れた。見てみると薄い紙を一枚刺した縫い針が何時の間にか襟に刺されている。

 嫌な予感を覚えつつ縫い針を抜き紙片を見ると短い文章が書かれている。それを読んだ私は襲われても構わないから太刀風先輩の部屋に泊まらせてもらう事を決意した。

 紙には一言だけ。


 「次回は無い」


 そう書かれていた。


「………梅安ばいあん?」


 一応ツッコミながらも心の中でこの合宿に参加した事を本格的に後悔し始めた最初の瞬間だった。


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