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忘我邸にて  作者: 十二匣
2/20

第一幕 そうだ、旅行に行こう① side虚祇

「旅行に行こう。」


 唐突に、本当に何にも前触れ無くそう言ったのは玖韻クイン先輩だった。

 メンバーは何時もの顔ぶれ、私を含む6人。

 場所は何時もと同じく玖韻先輩の家の一部屋。

 ゲーム専用部屋と名付けられたこの部屋、極端に物が少なく黒い円形のソファーに吸音マットを敷かれた硬質硝子の丸いテーブル。

 照明は部屋の四隅に取りつけられたカンテラ型のランプが程よく温暖色の光を放っている。

 目の前のテーブル上にはダイスとキャラクターシートが散らばっている。


「はあ?そう言う事は月初めに言いや、オニイサン今月あと三千円で過ごさなあかんねんで?」

 

 いち早く反応した霞桜カザクラ先輩に玖韻先輩がニヤリと笑った。


 因みに今日はまだ七月三日。十分月初めだと思うのは私だけなのか他のメンバーもそうだそうだと頷いている。


「安心しなさい、俺の奢りだ。」


 玖韻先輩が女性的過ぎる顔に男前な笑いを浮かべていた。


 そもそも、私、虚祇優月ウツロギユヅキがこうして玖韻先輩の家に出入りするようになったのにはそれなりの理由があり出会いがあるわけなのだが、それを語りだすと色々長くなるので今回はパス。

 端的にあった事だけを述べるなら、大学に入学⇒トラブル⇒知り合う。となる。詳しくは機会があればまた語ろうかと。


 さて、私が入学して約3ヶ月経った七月三日。この日、何時ものように暇を持て余した私は、同じような理由で玖韻先輩の家に訪れていた何時ものメンバーでゲームに興じていた。

 因みに今回行っていたのはTRPGテーブルトークロールプレイングゲーム)それぞれが世界各国の国家元首となり、統一を目指すという内容だった。

 結果は頭文字がCで始まる国を選んだ太刀風タチカゼ先輩が核を撃った為第三次勃発。ゲームオーバーとなった。

 深夜三時を越えた頃、その日のゲームも終わり、お茶を飲みながら反省会をしていた時、唐突に玖韻先輩が「旅行に行こう」と言い出したのだった。

 玖韻先輩。本名 玖韻玲音クインレイン

 本名かどうかは公式な書類を見せて貰った訳でもないから知らないけれど、そう名乗っている。

 女性のような名前だけど性別はれっきとした男性……だと思う。何故思うなのかと聞かれれば未だにどうも自信が無い。容貌が女性的すぎる所為せいだ。

 何時も人を小馬鹿にしたような顔を浮かべて細長いメンソールの煙草を時折咥えている。ただし火が着いている所は見たことが無い。聞いた話だと煙草の煙は主流煙も複流煙も嫌いだという。ただ、口に煙草を咥えるという仕草が好きなんだそうだ。フロイト好きに聞かせればさぞ鬱陶しい解釈を述べてくれるんだろう。

 ユングだったかな?

 閑話休題それはさておき

 詳しく話しを聞けば玖韻先輩の親戚が純和風旅館を経営しているという。そこを今年若年層にも手を出そうと一部若者向けに改装し、モニターとして玖韻先輩に話しを持ち掛けたのだと言う。


「そして、ココが重要な所何だけど───」


一端言葉を切って濃い目に入れた緑茶を一口。


「出発は明後日あさって


 その言葉に全員、といっても五人だけど私も含めて五人が顔を上げた。


「ちょい待ち、明後日てどないやねん?」


 関西出身にしては何だか怪しい関西弁の霞桜カザクラ先輩。


「そうですよ、何でそんなに急なんですか?」


 敬語の鴛淵オシブチ先輩。


「OH、そのとーりデスネ、玖韻先輩?」


 自称日系二世のキース先輩。この人の喋りもどうも胡散臭い。というかわざとだ絶対。


「楽しみね、優月」


 にっこりと、少々ねっとりと微笑みながら私を見てくるのは太刀風タチカゼ先輩。


「安心したまえ、交通費も奢りだ。」


「そう言う問題じゃ無いですよ!!」

         無いやろ?!」

         無いデース!」


 奇しくも3人の意見が一致した。

 太刀風先輩は手を合わせて夢現ゆめうつつな顔をしている。


「ゆづはどう、何か予定入ってる?」


 そんな3人を無視して私に玖韻先輩が聞いてくる。


「いえ、大丈夫ですよ。」


 彼氏や彼女がいる訳でもなく、知り合いはいても友人がいる訳でも無い私は見事に夏の予定がフルに空いている。

 それが良いことか悪い事かはさておくとしても、少々悲しい。


「よし、それなら決定、集合場所は明後日の朝8時、JR福岡駅筑紫野口。OK?」


 私もこの3ヶ月でこの先輩に細かい事を言っても通じない事は良くわかっている。

 大きい事も通じない。

 当然ながら私より付き合いの長い先輩方はそんな事熟知している訳で逆らいもせず、

「「「お~……」」」

 と力なく返事をしていた。

 因みに太刀風先輩は夢見る少女って歳でも無いのに今だ遠い目をしながらぶつぶつ言っていた。

 合掌。




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