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英雄よゝさよなら…さよなら…そしてごめんなさい……………[〜人の在り方〜]

作者: 牛タン
掲載日:2026/07/18

【156年:5月5日】


食卓の国で名が高いジャンヌ・ダルク教があった。カール・マルテル教ほど、食卓の国内で一番を名にしないが、4番目に勢力がある宗教だった。このジャンヌ・ダルク教は、無差別テロを起こしてしまう。


特に妊婦が多い地域にて、逃げられないよう周辺を油で撒き、禁忌とされる炎に包まれた。コサック騎兵は消火活動に全力を注ぎ、5日間で鎮火できたが、その放火によって約六千人もの死者を出した。


その後にジャンヌ・ダルク教の信者、374名の身柄を確保できたが、宗教法第12条により、2日後に釈放された。これを後に歴史的な大事件…ジャンヌ火炙り事件としてジェームズ新聞にて記録される。



【156年:5月11日・大国家総権会議界】


『第358回』

国家機能が崩れ始めて3年、半年で宗教衝突は四十件以上にまで頻発する。昔は対処できるものだったが、時代が進み道徳によって阻止できないものとなった。死者数は数えきれない程になり、ベビーブームで増えた人口は、空白となる。


いくつもの都市は徴税が停止し、巡礼路はスラム街と同程度の危険地帯と化した。飢饉に陥った都市、閉鎖された学校、荒廃した農地、交易路は寸断され闇市が一般化し、闇市は人々を救う場所となった。


そして会議では、何度も提案しては非現実的だと、全ての意見は却下される。かつては百名を超える学者や官僚が列席した円卓も、今では三人の王しか座らず、空席の椅子には退席者の名札だけが残されていた。寂しい空間は、王達を照らす。



既に椅子に座っている王と、扉を開き終わり椅子に座ろうとする2人の王が居た。若い王は、年老いた王が先に座るまで待ち、その王が座り終わると、若い王も座った。既に座っている王は口を開く。


「また呼んだ理由が分かるか?」


「だいたいは察します。もう策が出たんですよね…。名誉の王様。」


安眠の国を統治する若い王は、慎重に言葉遣いを選んだ。名誉の王と食卓の王に失礼がないよう慎重に選んだ。己の軽はずみの発言は、自分の首を絞めてしまう。ただでさえ、この若い王はアナーキーになりつつある国を抱えていた。


「ジャンヌ事件……いや…内戦の事についてだろう。こうも頻繁に呼ばれては、我の足が腐り落ちてしまう。」


食卓の国を統治する年老いた王は、焦っていた。自身の王権の危うさだった。その証拠に食卓の国は、無秩序までに変わり果て民主主義は後退し、新たな指導者が求められていた。


「…食卓の王と安眠の王よ、毎度呼んでしまいすまない。だがこうして円卓を囲む事で俺らは安全圏に入れる。」


名誉の国を統治する中年の王は、虚な目をしながら賑やかに笑みを浮かべていた。問題の解決方法を決定したのだ。まだ名誉の国は秩序が安定しており、虚な目をするほど緊迫ではなかったが、覚悟を決めたようだった。


年老いた王は、愚痴をこぼす。


「それはそうじゃが…。久しぶりに外に出たいものだな。純白の処刑人(オーダー)達も護衛ばかりで体が鈍っておるじゃろうし。」


若き王は早く終わらせたいと本題について話を急かす。


「それで名誉の王様、本題に入ってください。…私も私で一刻を争うんです。マーリン教とウィリアム教の対立を防がないと連鎖的に数多の宗教が混乱に乗じてしまいます。」


「…その話は耳にしておる、案ずるなゼノビア。既に夜明けの十字軍を派遣しておいた。紛争するとしたら2日後だろう。まだその時までの時間は余裕にあるが…。」


「…ありがたいお言葉です。」

「……少々興奮してしまいました。即位したばかりの王が不安を口にしてしまい誠に申し訳ありません。」


名誉の王、直々に支援してくれる事に安心を取り戻していく若き王。そんな若き王の言葉は、名誉の王にとって耳に入れさせてもらえないほどの地位だった。その言葉には答えず、名誉の王は本題に入る。


「さて、本題に入ろうか…。」

「宗教を一つに絞り国教を作る。」


「―!?」


「!?」


2人の王は固まった。国教を作るとなると数多の宗教を消さないといけない。それは不敬に値する事で倫理的に良くなく異端的だった。

人類の存続を賭けて戦った英雄達の名を死なせる事は絶対的な王であっても消すという考えさえ表さないほど尊敬され賞賛されるほど、偉大なる存在だった。

だが、この王は反社会的思想を助長した。もちろん安眠の王は怒りを露わにし、食卓の王は動揺を隠せなかった。


「この大地を救った英雄達を殺せと…そう言うのですか!!!」


「な、なにバカな事を言い出す!!英雄達のおかげで我らは安息の地を手に入れられたのだぞ!。それはあまりに不敬に値する…………」

「だが…本当に………それしか打つ手がないのだな…。」


「ぁぁ…………そうするしか手がない。」

「お前らも、薄々そう考えていただろ……」


「ぐっ………。ですが、そんな事したところで…………信者達の暴走が加速し、内側から国が腐食してしまいます…。国を救おうどころか、結局は変わらないじゃないですか…。」


「ゼノビア黙れ…我も痺れを切らしておる。こやつが何を言うのか聞きたい。我の考えが改まる提案なら、それに乗じろう。」


「本気で言っ………すみません。」


年老いた王は、名誉の王の提案を聞きたげに耳を傾けていた。そして、若き王は反論したいが出来ない立場である。


「分かって貰えたら結構だ……話を続ける…。」

「アーサー・ペンドラゴン…カール・マルテル…リチャード1世…この三人の大英雄を吊るしあげる。」


「はっ…よりによって三強の宗教を支援する事か。そんな事すれば、いつかの宗教も紛争に止まらず、大規模なテロが頻繁に起き、混乱時代に突入するんじゃぞ。」

「そうなってしまえば国は死に、死と隣り合わせだった、あの時代に戻ってしまう。それでいいのか名誉の王よ。」


「非人道的ではあるが、武力で黙らせる。……最悪の場合、公開処刑が適切だろう。民衆から批判を買うが、時間が経てば受け入れられる。」


「それだけで止められるとでも?…根本的に止めるとなると全てを殺さなくてはならない…。あんたが言ってる事はこうじゃろ?…この三強以外の宗教全部を抹消する。」

「否、沢山の屍の山を作る。」


「名誉の王様よ…残酷過ぎます。」

「私はその意見に反対です。それは絶対にやってはいけないことです。私たち人間は血で血を洗ってはいけないのです。これ以上は…。」


「………。」

「そうだ。それが俺の答えだ。沢山の信仰は、均衡を壊す。その結果が今の状況だ。別に宗教を否定するわけではない。減らすだけなんだ。」

「王になって間もない王よ、ここで問題を後回しにしてしまっては、より多くの血で洗い流される事となる。殺しは良くないと言ったが殺人を否定する気か?。」


「ち、違います名誉のっ…」


「しゃしゃり出るな!黙れと言っただろ!これだから女は、人の話を聞かない。」

「ところで、名誉の王よ、やった所で責任はどうする。取れるのか?」


「このカエサル王の後継者、アウグストゥスが、全責任を背負おう。」


「…言ったな。確かにあんたは言った…初めてその口から『責任』を口に出した。我がロムルス5世が、その言葉しかと受け取った…。」

「だがどうする…それは不確実性であり光に近い言い分だ。民衆を統一化するのと同じ事で、あまりに策がなく破滅的な結論じゃ。」


「もちろん破滅をもたらす結論だが、三強以外の宗教をカルト宗教として認定し、さっそく見せしめで異端狩りを派遣する。それから同様に宗教法の改正もする。」

「これを日常に溶け込めば民衆の反感も薄まるはずだ。それぐらい考えた事はあるだろ?。」


「………考えた事はあるのだが、成功を見込んでいるのか?その根拠と確証は?」


「…ない。」

「武力での統治が一番手っ取り早い。あなた自身、よく分かっているはずだ、ロムルス5世。宗教狩りを始める時だ。取り返しが付かなくなる前に先手を打つ時なんだ。」


「………分かった、その提案に乗ろう。じゃが、殺生を否定する国はどうする?安眠の国が宗教狩りをしなかった場合、死に追われる信者達が抜け道として、一斉に押し寄せて来るじゃろ。」

「相容れない宗教は、反発し合い、大規模な宗教戦争にまで発展するのが目に見えている。手一杯だった国が、更に悪化し簡単に崩壊するかもしれない。」

「あぁ…すまない。忘れておった。もう喋っていいぞ、ゼノビア。」


食卓の王は賛成したが、さっきまで反対的だった安眠の王は、揺らいでいた。ここで賛成しなければ自国が崩壊する。拒否反応がでる言葉だった。

殺生に否定的な文化と価値観が根強い。それに一番の理由は、民を守る義務を掲げていること。それが彼女の信念だった。

残酷な選択肢は、自由意志など無に等しく、いずれも尊厳を傷つける物だった。民を守るために自分の理想を犠牲にし、自らの信念を裏切る痛みは計り知れない。震える唇は開き、ついに心が折れる。


「…私は……その提案に賛成します。」

「…明るい未来を作りましょう。」


「そうだゼノビア、明るい未来を作ろう。人間が平和に暮らせる未来を。」


食卓の王は鼻で笑いながら戯けた事を言うなと抜かす。


「笑わせるなこの偽善者が、明るい未来と言いながらダリットはどうした?」

「カエサル王の後継者が現れて早4年、何も手を付け加えていないではないか名誉の王よ。」


「今は、それについての話じゃないだろ。同じ立場だからこそ物申すのもいいが、口には気をつけろ。」

「いまだ自分の地位への怯えを露わにする弱き王よ。そっちだって暴走化した玉座争奪戦をどう対処する気だ?」


「チッ……。突っかかり申し訳ないな。」


都合が悪くなる事を言われ一方引く食卓の王は、宗教狩りに乗る気だった。安眠の王は、黙ってばかりでいる。


「で、その宗教狩りは、いつ頃に始められそうなんじゃ?早く終わらせて我の地位を守りたい。」


「二週間後に準備が整えられる。大規模な粛清を始めるから即戦力は温存しろ。」

「戦争にまで発展する考慮も含めて、精鋭部隊は、異端狩りに配属されるようお願いする。それと純白の処刑人(オーダー)は5名だけ配属させて、厄介な宗教を先に片付けるようにお願いだ。残り6名は護衛だ。」


「なっ、純白の処刑人(オーダー)も出動させる気か?!正気の沙汰ではないぞ!。」


「焦るなよく聞け。」

「明日の朝、三日三晩に渡り王の講演会だと大宣伝をしろ。内容は、その日が来るまで何一つも口に出すな。それから布告する前の深夜に純白の処刑人(オーダー)を派遣して、指導者を暗殺する。」

「布告用に遺体は証拠隠滅し、指導者の首を持ち去るように。日が昇り民衆が群がった頃には、宗教取り締まり令と言うんだ。そして異端狩りを一斉に解き放ち聖堂を襲撃しろ。」


「なんて酷い策だ………大義名分を捨ててまで、やる所業だな…全責任を背負うと言ったが、そんなの身に合わん。こっちの立場が完全に崩れるじゃろ。」


「逆に良いのでは?食卓の国は新しい王を待望している。ならば新時代を切り開く絶対的王がいれば国民もロムルス5世を見直し、しがみ付くはずだ。」


「うぅーん………承知した。だが我に従う騎士は日に日に少なくなってきている…。そんなので出来ると思うか?安眠の国は規律でなんとかなっているが………。」


「大丈夫だ、一番の腕利きを護衛させる。」


「………本当か?あの女…女豪の薔薇をこちらに派遣すると?」


「何か不満でも?」


「滅相にない。ありがたいお言葉だ。まさか最強の騎士団を貸してくれるとは、嬉しい限り。この貸しは絶対に返そう。」


「安眠の王は、どうかね?食卓の国みたいに不十分な点が、あれば教えてほしい。」


「こちらはないです…夜明けの十字軍が居れば事足ります。このために派遣してくださったのですね。とてもありがたい事です…。」


若き王は暗い顔のままだで、年老いた王は喜んでいた。見れば分かるようにハッキリとした、その表情はジェームズ・ギルレイが見れば新聞に載せられる程だった。


「それでは会議を終わらせる。はるばるご苦労だった。こちらは、もう三強に説得と手続きを済ませている。なにかまた不安があればシグナルウェイを使ってくれ。直ちに、その国の十字軍を出動させる。」


なんと名誉の王は、とっくに下準備を終えていた。この行動力と計画性は常軌を逸脱した。流石は未来を作ろうと奮闘する王だ。


「なんと…我も見誤ったものだな…これ程までに偉大な王と成られたとは………これでは我の立場のほうが下ではないか…。天晴れなり…。」



【156年5月25日】


名誉の王の計画通り物事が進んだ。指導者の首は持ち帰られ、日が昇り、民衆が広場に集まった頃、各王は自国で布告をした。


見せ物のように吊るされた頭は、誰が見ても分かる顔つきだった。唖然とする民衆は、沈黙した。王はペラペラと話を続け、異端狩りが一斉に動き出す。沢山の聖堂は、奇襲により大量虐殺が行われ、赤く染まる窓は、聖堂と言い難い有様と化した。


対抗する信者達も居たが結局は、無念に死んでいく。だが都合よく終わらないものである。聖騎士達は、信者を護衛し国外から出る者もいれば、身分を煙の民として隠れる者も出てきた。


戦争にまで発展しなかったが、一時的に阿鼻叫喚と化した国は、次第に落ち着きを取り戻す。当初は、国教に認められていなかった。しかし時間は認めてくれた。プロパガンダによって国民は、その宗教を信仰するにまで至り、国が安定を取り戻す。


秩序が再来した日は、やがて新時代の幕を開ける――

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