2-2 家族になりたかった
「助けようとしてくれたのはありがとうだけどさ、お前も落ちたら意味ないじゃん。魔法使えばお前だけでも助かったんじゃないの?」
「あの時、咄嗟に使おうとした魔法が使えなくて……。全然力が出なくって」
あの時、崖に向かう山道を行くジャンを、一度はこっそり見送ろうとしたんだ。だけどやっぱり気になって。
すごく危険な場所なのは知ってたし、アイリに絶対無事に帰ってくるって約束してるのを見てたし。
一晩泣いて、2人を応援するって決めたんだし。
私はジャンの後をこっそりついて行った。
それは考える暇も無いぐらい、あっという間のことだった。
崖の上に登る道の足場が崩れて。ジャンの姿が傾くのが見えて。
手を伸ばしたらジャンに届いた。届いたんだけど、そのまま2人で投げ出されて。落ちる!って思って魔法を使おうとしたけど、力が出なくてそのまま2人で崖の下まで落ちてしまったんだ。
「なあ、なんでついてきてたの。俺、お前に言わずに出たのに」
「それは……アイリと話してたのを聞いちゃったの」
「……はっ!?お前、なに、どの話!?全部聞いたの!?」
ジャンは真っ赤になって慌ててる。
ああ、死んでしまってからも、胸って痛くなるんだな……。胸も鼻の奥も痛くて泣きそう。
「ジャンがアイリに、好きだって、結婚したいって言ってた。それでアイリがわかったって……夢見草の花を持ってきてって言ってるのが聞こえて」
「……は?いや、お前それ……」
「それで、2人には幸せになってほしいから!夢見草の花が咲くのは危険な崖だって知ってたし気になって……。でも肝心な時に魔法も使えなくて、なんの役にも立てなかった……ごめんなさい」
「色々言いたいことはあるんだけどさ、まず俺は、アイリに好きだって言ったわけじゃないよ。お前いろいろ聞き逃してる」
えっ?うそ……だって……。
「死んじゃってから言っても仕方ないけどさ、俺はお前のことが好きで、結婚したいと思ってるってアイリに言ったんだ。あの商店でよく仕事もらってるし、アイリはお前のことが大好きだからさ、挨拶しとかないとって思って。あと、プロポーズする時に贈りたいからお前がほしいものや好きなもの知ってたら教えてほしいって頼んでた」
「それで、夢見草の花を……?」
「そう!お前がいつか見たい花があるって言ってたのは知ってたけど、何の花か知らなかったからアイリに教えてくれって頼んでたんだ。あの時、俺がお前に真剣にプロポーズしたいって話したからようやく教えてくれた」
そんな……。それなのに私は……。
「……ごめん、ごめんね。本当に、ごめんなさい」
「おい、なんでお前が謝るんだよ……なんで泣いてんだよ」
「あのね、魔法が使えなかったのは私が悪いの」
2人を応援するんだって思いながら、どうしても悲しかった。なんで私じゃダメなの、アイリと幸せになるのを近くで見てたくないよって。
そんな黒い気持ちで心の中がいっぱいになってた。
「暗い気持ちや嫌な気持ちがいっぱいになると、魔法が使えなくなるの。人を攻撃したらいけないから、そういう制限がかけられてるの。私ずっとジャンのこと好きだったのに、ジャンはアイリのことが好きなんだって、2人が幸せになるのを見てるの嫌だって、嫌な気持ちでいっぱいだったから魔法が使えなかったの。……ごめんなさい」
しゃくり上げそうなぐらいに涙が出てきて止まらなかった。
私がちゃんときれいな気持ちでジャンのことが好きだったら、幸せを願えていたら、きっと助けられたのに。
そうじゃないからこんなことになってしまった。……もう戻れない。
「……お前のせいじゃないよ」
そう聞こえて顔を上げると、真っ赤な顔で涙を溜めたジャンが私を見てた。
「かっこつけた俺が悪い。さっさとお前が好きだって言えば良かったんだ。あんなに一緒にいたのに」
ジャンの目から涙がぽろぽろと溢れた。それを袖口でぐいぐい拭いながらジャンはこちらを見て話し続ける。
「お前も俺のこと好きでいてくれたんなら、もっと早く好きだって言って、もっと早く結婚すれば良かった……お前と家族になりたかった。結婚して家を持って、家族になりたかった。俺たち家族を知らずに育ったから」
嗚咽しそうになるのを堪えながら、ジャンは私を睨んだ。
「俺なんて放っておいて、お前だけでも生きて家族を作って生きていってほしかった。幸せになってほしかった。誰かとちゃんとずっと一緒にいて、嬉しいことも悲しいことも全部一緒に、そんなすごく暖かい家で生きていってほしかったよ」
そういうとジャンは堪えきれずにしゃくり上げながら泣いた。
私も涙が止まらなくて、だけど胸がすごく温かくて。
「そんな暖かい家、私にはもうずっとあったよ」
生まれた時からずっと、隣にはあなたがいて、笑いかけたら笑い返してくれて、私は寂しいと思ったことがなかったよ。
「ジャンがいてくれたから。楽しい時は一緒に笑って、悲しい時は一緒に乗り越えて。ずっと一緒だった。あなたと一緒にいた場所が、私にはずっと暖かい家だったよ」
「ああ……くそっ、結婚したかったなぁ。子どももたくさん作って、本当の家族になりたかった」
「うん、私もだよ……」
もう戻れない後悔や、来世に向かえば全部忘れてジャンとも離れてしまう寂しさや、アンリがきっと泣いてるだろうって申し訳ない気持ちや、色々な気持ちがぐちゃぐちゃで、しばらく2人で泣いていた。
『あのー、とりあえず来世でも出会うことは可能だけど、どうする?』
……!?
え、何?今の声。
『あ、僕最初に色々説明した人なんだけど、覚えてる?』
「……もしかして、ここの入り口にいた神様?」
『うーん、神様っていうか、神様に委託された管理人っていう方が近いんだけどね。とりあえず来世でも出会って結婚する運命ってオプションは付けられるよー、どうする?』
え、そりゃそんなこと出来るのなら……。
「なんか条件とかあんの?」
さすがジャンはしっかりしてる、そういうの確認大事よね。
『えーと、そうだなー。今回に関しては幸せな気持ちで希望を持って来世に向かってくれたらそれで良いかな。ついこないだ来世に行った元王様と王妃様がね、前世が過酷だったから来世に色々オプション付けてあげるはずが意外と無欲でさ、オプション余りまくっちゃってるんだよね』
「へぇー、そういうシステムなんだ……」
『だからなるべくちゃんとした家庭に生まれて、2人の距離も生まれつき近くて、愛し合って結婚する流れにしとくね!あ、アイリちゃんが悲しんでるのは僕にはどうすることも出来ないんだ、それはごめんね』
そして神様(?)の声は消えた。
「まじかー……」
「ちょっとラッキー?」
「だな」
突然の神様(?)の声に驚いて、すっかり涙も止まって、2人で笑い合った。
来世もどうやらこうして2人で笑えるらしい。そう思うと、来世に生まれるのが楽しみになってきた。
「アイリには、いつかどこかで出会えたら2人で謝ろうな」
そうか、これからの約束も出来るんだね。
未来のことを一緒に思えるのがとても嬉しい。
私たちは微笑んで、手を繋いで光に向かって歩き始めた。




