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生まれ変わりの狭間の町で  作者: 柚乃結


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1-1 愛しい子と来世の夢を


「こんにちは」


「……こんにちは」


優しい笑顔にほっとしながら挨拶をかわす。


「ここはどこなんでしょうか」


「ここは、生まれ変わりの境の町です」




 私がここに来てどれぐらい経ったのだろうか。日々、前世の記憶は薄れていき、新たに生まれ変わる日を待つ毎日。

 ここに来る時には、次に生まれる時の姿になっているようだ。鏡は無いけれど、髪の色が違うから多分そうなのだと思う。




「そうか、ここでまた生まれる時を待つのですね……。あなたはもう長いのですか?」


 彼は珍しそうに周りを見回しながら、私に問いかける。


「いえ、私もまだそんなには。ですけど生きていた時の細かいことは少しずつ薄れていってます。あなたはまだ鮮明に覚えてらっしゃるの?」


 そう聞くと、少し目を伏せて。


「僕は……生きていた時は動物だったんです。次は人間に生まれるので動物として生きていた時の本能だとか強い感情の動きみたいなものはもう消されていて。でも出来事や気持ちは覚えています。来世でもその記憶は残してくれると神様が約束してくれて……」


「まあ!神様とお約束を?すごいわね」


 彼は痛みを堪えるような顔になった。



「飼い主を、ただ1人の大切な人を、守ろうとして死んだんです。それが無償の愛による善行だと言われて、その見返りにと」


「……どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?人間に生まれ変わるのは嫌なのかしら?」


「嫌じゃありません。人間なら彼女を守れたかもしれない、自分が人間だったらってあの時どんなに強く願ったか……。だけど、僕は彼女を守れなかったのに。何も出来ずに彼女の目の前で殺されてしまって、彼女も多分その後すぐに殺されてしまったのに、善行だなんて」


 そう言うと、彼はぽろぽろと涙を流した。姿は変わっても中身はかわいいあの子のままなのね。





 私は前世、ある国の王妃だった。

 王妃と言っても名ばかりで、王には愛する恋人がいた。……のだと思う。もうはっきりと覚えていないけれど。

 子どもが出来ないと責められていた事と、王妃の責務を果たしていないと悪く言われていたことは覚えている。

 まあきっと、王は恋人とばかり過ごしていて、王妃の仕事もその恋人がしていたのだろう。そのあたりは私にとってつまらない記憶だからさっさと忘れてしまったに違いない。

 そしてどれぐらいの時が経ったのか、ある日軍が国民を煽動してクーデターを起こし、私は民に殺されたのだ。自分を庇った愛犬が斬られてすぐに。




「あなたがそばにいてくれて、飼い主さんは救われていたに違いないわ。こうして話しているだけで、私の心もとっても和んでいるもの」


「ありがとう。……でも、記憶に残っている最後に見た彼女の顔はとても、泣いていて。……僕が彼女を守ろうとしたことは、彼女を悲しませただけだったのかもしれない」


 彼は涙がこぼれるのは止まったけれど、目元が赤くなっていて涙を溜めた目で、グスグス言いながら話しているのがとてもかわいい。

 困ったわ、頭を撫でたくなってしまう。




 この狭間の町に来る前に、私は神と対話した。

 軍のクーデターと国民の暴動で命を落とした私は、王妃として誰にも認められていなかったのに王妃だからと殺されたのは理不尽だ、とばっちりだと神に怒りをぶつけたのだ。


 神は言った。

「本当はこんな扱いはしないのだが、君には少しだけ記憶を残して転生させるよ。少し前に来た君を庇って死んだ飼い犬の希望だ。他者を庇って死んだ者はその善行によって、来世の希望を聞いて優遇することになっているんだ」


「あの子を優遇……?なぜそれで私に記憶を残すの?」


「彼に来世の希望を聞くと、今度こそ君を守りたい、そして幸せになってほしいんだと言うから。来世でも出会いやすくするために君には彼の記憶と、幸せな道を選びやすくするために辛かった前世の記憶も少しだけ残しておくよ。嫌だったなって気持ちを少しだけね。もう変な男に引っかからないように」


「私が選んで王妃になったわけではありません!」


「まあそうだけど。嫌だったなって記憶だけでもあれば、そういう道に行きそうになった時にブレーキがかかるだろうから。まあ保険みたいなもんだよ」



 ……なんだか思ったより軽いノリだったのよね、神様。本当に大丈夫なのかしら。

 ああ、いけない。彼が泣き顔のまま私を見ている。



「大丈夫、大丈夫よ。飼い主さんはあなたに会えたらとても嬉しいと思うわ。あなたはこんなに優しそうでかわいいんですもの」


 気持ちのまま、彼の頭を撫でた。


「……本当ですか?喜んでくれるかな……?だと良いんですけど」


「ええ、間違いないわ。きっと来世もあなたと生きていきたいって思ってる」


「だったら嬉しい……。人間に生まれ変わるために、ここに来るまでにも少し時間がかかっちゃったんです。神様は同じ時期に来世に行かせてくれるって言ってたけど、本当に会えるかな」


「大丈夫。会えるし、会ったらきっとわかると思うわ。あなたが大好きな愛犬だって」


 彼がキョトンとした表情で顔を上げた。


「あれ?僕、犬だったって言ってない……」


「あら?そうだった?飼い主さんのことが大好きで自分が犠牲になっても庇うような子はきっとワンちゃんだって思い込んじゃったのかしら。違うのならごめんなさい」


 あっぶない……!そういえば犬だったとは聞いてないわ。

 ここで私が飼い主で、来世でも私たちは出会うのよって言ってしまったら、彼の新しい人生を縛ってしまうのではないかと思って。彼にも自由に幸せになってほしいから。だから言わないでおこうと決めていたのに。


「あなたと話しているととても心地良いです。来世でも出会ってお話しできたらいいなぁ」


「そうね、強く願えば会えるかもしれない。ここは狭間の町で、前世とも来世ともうっすら繋がっている場所だから。望みや思いも繋がっているわ」



 人懐こい子だったから、もしも私が見知らぬ人でもこんなふうにすぐに仲良くなれたでしょう。きっと来世でも沢山のお友達が出来ると思う。


 だけど少しだけ、私を特別に思ってくれたらいいな、と思う。

 いつ来世に生まれて、いつ私たちは出会えるんだろう、前世の飼い主だって名乗らなくても、少しだけ特別に仲良くなれたらいいな……と思いながら、私は彼の頭を撫で続けた。




 ここにはいつも暖かく穏やかな風が吹いている。


 私たちはのんびりと、話し続けた。来世の夢を。

 

 

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