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「あ~~、寝る」
「おやすみなさいませ、キラーヤ様」
ちょうど寝ようとしていたところに急患が飛び込んできた女性、ことキラーヤは改めて寝る宣言をする。
が、すっかり覚醒してしまってちょっとすぐには眠れそうにない。
カウチに寝そべり、どうしたもんかとゴロゴロしていると、
ふわりと銀の蝶が飛んできてカウチに止まった。
「とうとう伝説になったか」
と蝶から笑う声が響く。若く張りのある男性の声だ。
「見てたの?」
「ああ」
銀の蝶はゆったりと羽根を羽ばたかせ、また笑う。
そして穏やかな、労るような声色で語りかける。
「感慨深いな。
お前がこの世界に渡ってきた頃を思い出すよ。
『まもの使い』の宿命に怯みきっていた、
あのへっぴり腰が懐かしいな」
「やめてよ、こっちは必死だったのよ」
「はは、そうだろうな。
・・・なあキラーヤ、明日一緒に昼食はどうだ?
お前の顔が見たくなった」
「いいね、明日はちょっとのんびりするつもりなんだ」
「では明日。迎えに行くよ」
そう言って銀の蝶は舞い上がり、少しの鱗粉を撒いてふわりと消えた。
『すっかりこっちの世界に馴染んだもんだな』
軽く目を閉じ、キラーヤは以前の世界を思い出す。
響く救急サイレン、
呼び出し電話のベル、
『先生』と自分を呼ぶ声。
そう、自分はかつての世界でも医師だった。
『吉良 綾』が『キラーヤ』になり、
『医師』が『まもの使い』になり、
色々あって、色々あってまた『医師』になった。
「まだ眠れないの?」
ふさふさとした九つの尾を揺らめかせ、大きな狐が現れる。
「いいや、なんか眠れそうな気がしてきた」
「部屋に行く?」
「うーん」
九尾の狐はキラーヤの足下に丸まり、またしっぽをゆらゆらさせる。
「キラーヤ、お疲れさま」
「ありがと」
色々あった、のだ。
世界を渡ってきて、『まもの使い』だと分かって旅に出て、
仲間を増やして、やりたいことを見つけた。
そして、恋だってした。
大切な人ができたのだ。
『もしあっちの世界に帰れると言われたら、
今の自分はどうするかな』
足下に暖かい毛並みを感じながら、
キラーヤは目を閉じた。
ーこれは長い長いお話である。
愛すべき魔物たちの穏やかな寝息のような、
長い長い、話である。




