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父親を残し、白いメイドは処置室内へ入った。
今しがた通り抜けてきた鏡を振り返ると、「どう?」と問いかける。
鏡の上の妖精は答える。
「誤嚥だわなあ。
おもちゃのリンゴが詰まってる。
でもちょっとは空気穴が開いてるみたい」
「なるほど」
そこへ白衣姿の女性が階段から降りてきた。
「誤嚥?」
「そのようです」
「おもちゃか。性状は?」
鏡が答える。
「多分木ですね」
「ならば~・・・
青スライムくん、出番ですよ!
ハリーアップ!」
別の扉を開けて叫ぶと、そこからぴょんぴょんと青い透明な体を揺らしてスライムが飛び出してくる。
「ついでにアラクネ!ちょっと手伝って!」
「はぁーい!」
続いて這ってきたのは蜘蛛女のアラクネである。
「患者様はお子様?じゃあ優しくしないとね」
「急ぎよ、よろしく!」
アラクネはメイドから女の子を受け取ると、自分の腹に乗せてごろんと寝転がる。
「ちょっとごめんねえ」
人間の両腕で子供を抱きしめ、
蜘蛛の脚で口を開けさせる。そして顎を強力ホールドだ。
「あが」
苦しそうに開いたその口に、にょーんと細く伸びたスライムが入り込む。
女性もまたスライムに手を突っ込むと、目を閉じてぶつぶつ呟いた。
「声帯にまだない。奥か。・・・あった。
・・・吸着。引っ張り出すよ」
きゅぽ、と軽い音がし、スライムが這い出てくる。
「ハー・・・っ」
その途端子供の胸が大きく上下し、頬に血色も戻ってきた。
「念のため少し様子を見よう。一泊入院!」
「は」
女性はスライムから、子供の喉に詰まっていたものを受け取る。
鏡の言うとおり、リンゴの形の大きな木のビーズだった。
「へえ、可愛い。穴が開いてるのは紐を通すためか」
それを掌で転がしながら、女性は鏡を通り抜けた。
長椅子に座る父親の元へ近づき、膝をついて視線を会わせる。
「親父さん、お子さんはもう大丈夫だよ」
父親は「ほんとか・・・」と漏らし、大きく息を吸い込んだ。
子と同様、真っ白だった頬に血の気が戻る。
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
女性は足下にしゅるりとやって来たイタチに「プラム湯おかわりあげて」と言い、また父親に語りかけた。
「御礼ならあの獅子の魔獣に言ってあげて。
あの子はあなたの娘さんの友達?」
「ああ、よく遊んでるみたいだ」
「だったら、娘さんに伝えてあげて。
転移術を使って消耗したから、しばらくは眠ると思うわ。
だからしばらくは会えないけど、
また会えたらたくさん褒めてあげてね」
「分かった、必ず伝える」
「よっぽど娘さんのことが心配だったのね。
きっと良い子なんだわ」
はい、と女性は掌のビーズを父親に渡した。
「これは?」
「娘さんの喉に詰まっていたものよ」
「これは・・・妻のネックレスにこんなのがあったかもしれん。
確かに娘はキラキラした目で見てた。
欲しくて紐を切っちまったのかなぁ・・・」
「危なかったわね。
女の子だもん、お洒落したいわよね。
でも、身の回りのものには気をつけて。
今日は様子見のために一泊していって。
あとで娘さんのお部屋に案内させるわ」
「ああ、ありがとう!
・・・なぁ、ドクター、聞いても良いか」
「何なりと」
「・・・あんたが伝説の、ドクター・キラーヤか?」
そう問われた女性は「伝説かぁ」と苦笑いし、
「伝説かどうかは分からないけど、
私がドクター・キラーヤよ」
そう言い残し、白衣を翻して去って行く。
父親はその背中に、黙って頭を下げた。




