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このお話は次回新作の序章にあたります。よろしければ、近日公開の連載のほうにもお越しくださいませ。ハイファンタジーものになります。
2026/01/01 連載開始しました!
『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~
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「誰か!誰かいるか!」
ここはとある大陸のとある国、人間界と魔界の狭間とも言われる場所。
そこに暮らすひとりの医師のもとに、今日も患者が訪れる。
白い漆喰で作られた家の扉を、
小さな子供を背負った中年の男が叩く。
「頼む!誰か!」
がちゃり、と扉が開き、
中から真っ白なメイド服を身につけた大柄なメイドが現れる。
「失礼ですが、只今ドクター・キラーヤは診療時間外でございます」
「ドクター・キラーヤ・・・?!なんだ、からかってんのか?!
だ、だが、娘が、娘が!」
男が背負った子供は顔を蒼白くし、はくはくとわずかに口を動かしている。
メイドは片眉を上げ、
「なるほど」
と呟いた。
「ここまでは誰が案内を?」
「あの魔物だ」
言われたほうを見ると、大きな獅子の魔獣が服従を示すように頭を下げている。
『彼は魔獣の中でも知能は高いはず。
・・・ホンモノの重症患者か』
メイドはすかさず家を振り返ると、
「ドクター・キラーヤ!急患です!」
と叫んだ。
と、家の中からふわりと金色の蝶が飛んでくる。
「ほいほい、その女の子かな」
「ちょ、蝶がしゃべった!」
「親父さん、何があったの」
「わ、分からねえ。
おもちゃで遊んでたかと思ったら、
急にバタッと倒れちまった」
蝶が子供の周りをひらひら飛び回る。
「倒れたのはどれくらい前?」
「た、多分5分くらい前だ。
おかしいと思ったのと同時にあの魔獣が」
「なるほど、その魔獣は転移術を使ったのね。
みんな、とりあえずスキャン。
気道と静脈路確保はできるなら」
「は」
すかさずメイドが子供を抱え上げ、屋敷の中に飛び込んだ。
「お、おい」
「どうぞご一緒に」
父親はなすがままでついて行くしかない。
屋敷の中は、ど真ん中に大きな大きな姿鏡が立っていた。
鏡のてっぺんに施された妖精の装飾の目が動き、子供を見つめている。
メイドは父親に「ここでお待ちを」と言い、
鏡の中に吸い込まれていった。
「ほ、本当に、ここが魔物の病院なのか」
この国には伝説がある。
ーー魔物の国には良医がいる。
人間でありながら、魔物の力を繰り治療にあたるという。
汝、魔物を愛せよ。
人が彼らを害さぬ限り、彼らも人を害しない。
魔物と心通ったならば、
汝病めるとき彼らが現れ、彼らの国へ連れ出すだろう。
恐れるなかれ、そこは魔物の病院。
ドアの向こうには魔物の女王が待っている。
女王でありながら、その病院を取り仕切るその者の名は。
ドクター・キラーヤ。
『都市伝説かと思ってたぜ』
父親は呆然と、娘とメイドが消えたエントランスに立ち尽くす。
すると、鏡の装飾の妖精が父親に語りかけた。
「親父さん」
「わあ!」
「いちいち驚かないでよ。
まあ、多分うちのドクターだったら大丈夫だから、
そこに掛けて待ってなよ」
「あ、ああ」
視線で示された長椅子に座ると、
「良かったらどうぞ」
「うわあ!」
今度は足下から真っ白なイタチのような生き物がにゅるりと現れ、器用にその尻尾に巻き付けたマグを寄越した。
「おいしいよ、プラム湯」
立ち上るほのかに酸味とスパイスの混ざった香り。
そっと口をつけると、喉に優しく滑り降りていく。
『本当に、来たんだ。魔物病院に』




