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お気に入り小説5

悪女は夜会で刺されて死にました。それで終わりじゃありません。婚約者に裏切られた令嬢達の毒の花は咲き誇る。

作者: ユミヨシ

マリーディア・ハルトス伯爵令嬢は、あまりの光景に悲鳴をあげた。


婚約者であるアルベルト・ドロス。茶の髪に青い瞳、平凡な顔立ちのまだ17歳の青年だ。

ドロス伯爵家に訪ねていった。客間で待っていてもなかなかアルベルトが現れないので、部屋に行ってみたら、


アルベルトがベッドで一人の女性とコトに及んでいたのだ。


マリーディアの悲鳴に、アルベルトは慌てたように、


「こ、これは何かの間違いで」


ベッドでコトに及んでいた妖艶な女性は金の髪を直しながら、シーツで身体をくるんで、

「何が間違いよ。私とベッドを共にしたいって熱烈に頼んでいたのは貴方じゃない」


アルベルトを引き寄せて口づけをする女性。

マリーディアは怒りまくった。


「アルベルトは私の婚約者よ。貴方、誰よ」


「フランソワ・ミッテルよ。ミッテル伯爵夫人だったけれども、今は未亡人ね」


マリーディアは納得する。

あれがあの有名な男食いのフランソワ・ミッテル。

次から次へと男を食いまくる妖艶な女。


婚約者がいようがかまわない。

例え、相手が訴えて来ようものなら、彼女は王族とも通じているというのだ。

王家の命令によりもみ消されてしまう。


ショックだった。


アルベルト・ドロス伯爵令息とは同い年の17歳。婚約中で来年には結婚を控えていた。

アルベルトもマリーディアも茶の髪に青い瞳で、顔立ちも平凡。あまり目立つ容姿ではなかったけれども、共にささやかながら愛を育んで来た。

少なくともマリーディアはそう思っていた。

それなのに、アルベルトは裏切ったのだ。


あの有名なフランソワとベッドを共にしていたのである。


王立学園に通っているマリーディアとアルベルト。

翌日、教室でアルベルトが謝って来た。


「申し訳なかった。あまりの美しさについつい‥‥‥」


「ついつい?そういえば、最近、私にプレゼントもくれなくなったわね。この前、誕生日だったのに」


「いやその、忘れ‥‥‥いやいやその」


「婚約破棄するわ」


「それは無理だな。王家の命により、私達の婚約は継続される。たかが独身中の遊びじゃないか。他の連中だってフランソワと褥を共にしたいって」


「フランソワが何よ。私達は結婚するのよ。結婚した後もフランソワと関係を持ちたい訳?」


「だから、独身のうちの遊びだって。フランソワは妖艶だろう?皆、憧れているんだ。機嫌を取る為に私だってプレゼントをっ」


「私にくれないで、フランソワにあげるの???」


「だって、君は私と寝てくれないじゃないか。婚約者なのに」


「婚約中じゃない?私達、学生よ。学生のうちに子が出来たらどうするのよ」


フランソワが憎い。

アルベルトなんて大嫌い。好きだったのに。あんなに好きだったのに。

浮気するなんて。

でも、婚約破棄もすることが出来ない。


親友のエミーリア・ユリド伯爵令嬢に相談した。

彼女とは仲が良くて、よく街に一緒に買い物に出かけたり、カフェで話をしたりした。

今日も悩みをエミーリアに相談する。

「アルベルトがフランソワ・ミッテル伯爵未亡人に夢中で困るわ。この間も、ベッドに彼女を連れ込んで」


エミーリアは笑って、


「私の婚約者もフランソワに夢中よ。独身のうちは仕方ないんじゃない?」


「悔しい。悔しいわ」


「私だって悔しいけれども、婚約破棄も出来ないし。それより、ほら、新作のケーキ、食べて元気出しましょうよ」


エミーリアはとてもいい子だ。黒髪碧眼の美人だけれども、地味な自分と仲良くしてくれている。


彼女の空色の瞳が綺麗で。キラキラしていて。大好きだった。

この国では北の方にしか見られない珍しい色。とても綺麗な空色。


エミーリアは諦めているようだけれども、私は嫌。他の女と関係を持つような男なんて。

結婚したくない。でも、王命で婚約破棄は出来ない。きっと結婚した後だって浮気するわ。彼がフランソワを諦める?彼が諦めるとは思えない。


デビュタントが終わっていたので、仕方なく一週間後、アルベルトにエスコートされて王宮の夜会に出た。


お気に入りのブルーのドレスに茶の髪をアップして。

行きたくなかった。でも、アルベルトに誘われたので、行かざる得なかった。


アルベルトはドレスアップしたマリーディアを見ても褒めもしなかった。


「さぁ行こうか」


とエスコートして馬車に乗せてくれたけれども。


王宮であの女がいた。

数人の男性を周りに侍らせて妖艶に笑っていた。


アルベルトがフランソワに近づいて、


「今宵もお美しい。フランソワ」


「有難う。アルベルト。貴方も素敵よ」


ちらりとこちらを見て、


「あら、この間の‥‥‥」


「マリーディア・ハルトスですわ」


「大した美人じゃないのね。胸もないわ。それじゃアルベルトもわたくしに浮気するわね」


「酷いっ。私だって一生懸命、オシャレしてきたのに」


アルベルト、お願い。庇って。貴方の婚約者なのよ。私は。


アルベルトは、


「おっしゃる通り、フランソワの美しさには誰も叶わない。本当にお美しい」


「有難う。アルベルト。嬉しいわ」


悔しい悔しい悔しい。


ふと、背後を見てみれば、桃色のドレスを着て、黒髪をアップにした、親友のエミーリアがこちらを見ていた。

フランソワを見て、凄い形相で睨みつけている。


フランソワの傍にくっついているのは、エミーリアの婚約者ジュール・ライド伯爵令息だわ。


エミーリアは婚約が決まった時に嬉しそうに、


「ジュール・ライド伯爵令息と婚約が決まったの。私、ジュールの事が大好き。とても嬉しいわ」


そう頬を染めて報告してくれた。

ジュールの浮気を諦めていると言っていた。

でも、凄い形相でフランソワを睨みつけていて。


エミーリアはバッグから何かを取り出した。

そして、思いっきり体当たりをした。


フランソワに。


フランソワは悲鳴を上げて、床に倒れた。

その豊満な胸から血が溢れ出ている。


エミーリアは手に血だらけのナイフを握っていて。


「私のジュール。ジュール。ジュール。私のジュールよ。貴方になんてあげない。私のジュールなのよ」


ジュールはフランソワを抱き起して、


「しっかりしろっ。誰か医者をっ。早くっ」


近衛兵がやって来て、エミーリアを拘束していった。

医者が来て、フランソワを見て、手遅れだと宣言した。

ジュールはフランソワが息をしていないのを、アルベルト達と一緒に、嘆き悲しんで。


連れて行かれるエミーリアの方を全く心配していなかった。


マリーディアはフランソワの周りで嘆き悲しむアルベルトを見て許せない。

そう思った。


数日後、アルベルトとの婚約破棄が成立した。


フランソワと関係のあったカイド王弟殿下が変…辺境騎士団へ連れて行かれた。

だから、王家はアルベルトと婚約破棄をしても何も言わなかった。


変…辺境騎士団へアルベルトを?

無理ね。

彼は普通の顔ですもの。


ただ慰謝料は請求したので、ドロス伯爵家は一括で払ってくれた。

アルベルトがどうなったかですって?


彼は新たな婚約者を探しているらしいが、なかなか見つからないとの事。

そりゃそうだ。

フランソワと遊んでいた男達は皆、令嬢達から嫌われている。

家と家の都合?

政略?

そんなの関係ない。誰がフランソワと関係を持った男なんて受け入れるものか。

と、令嬢達は皆、両親に訴えたのだ。



ジュール・ライド伯爵令息は数日後、変死した。

何かに首を絞められたようなそんな死に方をした。

屋敷の自分の部屋で。


エミーリアが疑われたが、彼女は拘束されている。騎士団の牢屋に。

だからエミーリアが犯人ではない。


マリーディアは、エミーリアに会いに行った。


「ジュールが死んだのは貴方が?」


面会室で聞いてみた。

聞いてはいけない事なのだろうけれども。


エミーリアは笑って、


「ジュールが死んだのは知っているわ。でも、私は牢屋の中。彼に何か出来るはずないじゃない」


「それもそうね」


「私は幸せよ。あの女を殺せたんですもの。あの憎い女を。あの女のせいで泣いていた女性が多かったのよ。貴方だってそうでしょう。だけど今は‥‥‥ねぇ。幸せになってね。私の分も幸せに。せっかくアルベルトと婚約破棄出来たんですもの。どうか幸せに」


「有難う。エミーリア」


ジュールの変死の原因は解らなかった。

ただ、エミーリアが何かした……そんな気がした。



マリーディアは翌日、バルト王国騎士団長リュードに会いに行った。

黒髪碧眼の美男のリュード騎士団長は面会してくれた。

マリーディアは自己紹介をした。


「マリーディア・ハルトスと申します。ハルトス伯爵家の娘です。

エミーリア・ユリド伯爵令嬢の知り合いです。彼女はどうなるのでしょうか?」


リュード騎士団長は、


「裁判で決まるだろうが、あの女に泣かされていた女性は多いからな。ミッテル伯爵未亡人に入れ込んでいたカイド王弟殿下も変…辺境騎士団に連れていかれた。だから、王家も口出しはしてこないだろう。エミーリア嬢は牢役で20年は出てこられないだろう」


「そうですか。どうか、エミーリアの罪が少しでも軽くなりますように」


エミーリアの為に、同じようにフランソワの被害にあった人達に頼んで、署名を集める事にした。

エミーリアの罪が少しでも軽くなりますように。


エフェリーヌ・ルテル公爵令嬢がとある日、マリーディアの屋敷に訪ねてきた。


「わたくしもあの女には酷い目にあいましたの。婚約者の一人はあの女に貢いで、もう一人はあの女と関係を持って。エミーリアの為にわたくしに何か出来る事がありましたら協力致しますわ」


「有難うございます。エフェリーヌ様」


心強かった。


リュード騎士団長も、エミーリアに面会に行くと、必ず会ってくれて。


「私も力になろう。エミーリア嬢の為に」


と言ってくれた。


そして、沢山の署名が集まった。フランソワの為に婚約者を盗られて苦しんで来た令嬢達の力のお陰で、裁判では情状酌量が認められて。エミーリアの罪は牢役10年に減刑された。


エミーリアに再び会いに行ったマリーディア。


エミーリアは牢の中から、


「私の為に力になってくれて有難う。貴方は私の親友だわ」


「10年経ったら、また一緒にカフェに行きましょう。街を歩きましょう」




陽が沈もうとしている。

帰ろうとしたら声をかけられた。

リュード騎士団長だ。


「マリーディア。この後、一緒にお茶でも?」


「まぁ。嬉しいですわ」


時々、彼とお茶をする仲になっていた。

リュード騎士団長はとても美しい。でも独り身だ。


だから聞いてみた。


「どうして今まで独り身でしたの?」


「それはその‥‥‥仕事が忙しくてね」


「そうですの。青い瞳がとても綺麗ですね。でも珍しい色‥‥‥」


「そうかね?この色はそれ程、珍しくもないよ。北の地方には多い瞳の色だ」


「エミーリアと同じ色。そういえば、エミーリアは昔、生き別れになった兄がいたって言っていたわ」


「その話、覚えていたのか?」


「ええ」


「エミーリアはうっかり話してしまったのだろうな。ああ、エミーリアは私の妹だ」


そして、彼は跪いて、


「どうか、私と結婚して欲しい。マリーディア嬢。君とこうしてお茶をしているのが楽しくてね。妹の事を親身になってくれたのも嬉しかった。どうか、私の妻になって欲しい」


手の甲にキスをされた。


「お受け致しますわ」


そう、毒の花が鮮やかに花開く。

真っ赤な毒の花。


毒の花の先にあるのは、


リュードが、ジュールの首を絞めているその姿。

いつの間にか捜査が終わっていたこの変死事件。騎士団長の彼なら可能な事。


リュードだって、ジュールを許せなかった。

妹を、エミーリアを泣かせた事を許せなかった。


だから恐らく彼がジュールを。


私にプロポーズしたのは、近くで監視する為?


マリーディアはリュードの耳に囁いた。


「大丈夫ですわ。私、エミーリアの事、大好きですもの。エミーリアを苦しめた人達を許せないのは一緒よ。だから……貴方と結婚します。貴方の事も好きよ。幸せになりましょう」


リュード騎士団長に口づけをされた。




フランソワ・ミッテル伯爵未亡人は、稀代の悪女として、王国の歴史に刻まれた。

悪女らしい最後だったと、皆、噂した。


元婚約者のアルベルトから復縁を迫られた。

未だ、結婚相手が決まっていない。

王立学園の廊下でアルベルトに話しかけられてきたので、裁判で力になってくれた令嬢達が皆取り囲んで、


「何の用ですの?」

「フランソワに夢中になっていたどうしようもない男が」

「復縁する資格なんてないわ」

「恥ずかしくないのかしら」


と口々に言ったら、アルベルトは真っ赤な顔をして、退散し、二度と付き纏わなくなった。

エフェリーヌ・ルテル公爵令嬢始め、色々な令嬢達と更に仲良くなった。



王立学園を卒業後、リュード騎士団長と結婚した。

マリーディアはとても愛されて幸せだ。

エミーリアには時々、面会に行き、色々と差し入れをして、話をして慰めている。


10年経ったら、また、一緒に街に買い物に行ったりして楽しみましょう。

リュードと一緒に。


リュード。エミーリア。

貴方達の秘密は一生、墓に持っていきます‥‥‥


愛しているわ。


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― 新着の感想 ―
いつもの騎士団の名前はちらっと出てくるけど、シリアスな雰囲気で少し違う雰囲気でまた面白く拝読しました。 モテる、自信にあふれた未亡人なら、それなりの社交術で動けばいいのに、自分の魅力を過大妄信してこん…
フランソワという人はまさしく女性の敵ですね。 容姿もですが、未亡人というのも魅力のひとつだったのでしょうか? リュード、エミーリアが生き別れの兄妹とはビックリ! 三人にはこれから幸せになってもらいたい…
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