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エピローグ

 タツヤはついに、タツノシンと共に、地球の我が家に帰ることになった。

 月王立宇宙専門学校の授業が始まるまでは、あと三ヶ月。短い期間であるが、タツヤは失われた十年分を父親と過ごすつもりだ。

 カイ、ツクヨミとは、月王立宇宙専門学校での再会を約束した。アキラとマナミの兄妹は、両親と再会するため、一足先に地球に戻っていた。海賊の白頭は、観光のため、しばらく月に滞在するようだ。アズミは、まだ片づけなければならない用事があるからと、月に残った。アズミはどうやら、マルディンを封印した石の件にも関わっているらしい。今、月で一番信頼されている地球人が、アズミ指揮官だった。

 少年少女が全員顔をそろえた最後の日、別れを告げるため、キララ号のケンゾーのもとへやって来た。ケンゾーは言葉の花束をもらったと言って感激していたが、反面、どこか寂しそうでもあった。それでも、持ち主に内緒で、全員の情報を記録に残しておくと、ちゃっかり言ってのけた。

 その地球にいる持ち主が、一刻も早くキララ号を返して欲しいと、空港管理局に申し出ている。そこで、宇宙ステーションに滞留していた地球正義軍の兵士が、キララ号を操縦して地球に持ち帰る手はずとなった。そこへ、タツヤとタツノシンの特別乗船許可が降りた。タツヤが大喜びだったのは、言うまでもない。

「キララ号が行方不明になった時、持ち主は、我が子を失ったように嘆き悲しんだらしい。それがやっと月で発見され、今度は涙を流して大喜びしたと聞いている。持ち主はよほど、キララ号に愛着があるんだろうな」

 タツノシンはそんな話をしながら、タツヤを連れてキララ号に乗り込んだ。キララ号は既に出発の準備が完了し、二人が乗り込むのを待つばかりだった。

 タツヤはキララ号の話よりも、他に聞きたいことが山ほどあった。あまりにあり過ぎて、独り興奮気味だった。

「ねえ、父さんはいろんな秘密を僕にまで隠していたね。今回、それがよくわかったよ。帰りの船の中で全部話してもらうからね」

 すると、タツノシンが軽快に笑い出した。普段めったに笑わないタツノシンがこんな笑い方をする時は、たいてい深い意味が込められている。タツヤはそれを知っていたので、父親を怪しんだ。

「そんな暇が、果たしてあるかな?短い飛行とはいえ、私はキララ号の操縦に忙しいし、おまえだって副操縦士として、悠長に話をしている暇なんてないはずだぞ」

 タツヤは目を丸くした。「父さんがキララ号を操縦?父さんは宇宙船を操縦できるの?」

「ああ、もちろん。久々の操縦だが、腕は落ちていないさ。特に、このキララ号は懐かしい。いろんな思い出が詰まっているからね。しかも嬉しいことに、外も中も、全く変わってないじゃないか」

 タツノシンは、まるでいつもどおり操縦するみたいに、軽く言ってのけた。

 タツヤは、何も言えなくなった。父は、このキララ号を知っているばかりか、かつて乗っていたとさえ言う。知れば知るほど、ますます謎が膨らむゲームのようだ。そのくせ、肝心の謎は何一つ解き明かされない。タツヤの頭は、いよいよ追いついていけなくなり、かっと熱くなった。

 するとタツノシンが、急に真剣な眼差しになった。

「タツヤ、地球に帰ったら全てを打ち明けると約束するよ。ここではとても語り尽くせない。それほど過去の経験は重く、ちょっとした立ち話ではすまない内容なのだ。旧地球軍の話や、外宇宙での出来事、そして、おまえの母親の件も含めてね」

 母親の件。その一言で、タツヤの心臓はいきなり高鳴った。父親からその話を聞くのが待ち遠しいと同時に、自分でも嫌になるほど不安だった。死ぬほど聞きたいのに、聞いて後悔したらどうしようと、複雑な気持ちに押し潰されそうになった。

 しかし、話を聞く前から、そんな不安を気にしていたら、何も始まらない。父親から聞かされる真実をしっかり受け止め、カイたちに再会した際には、落ち着いて話せるような大人になっていなければ。タツヤは、自分にそっと言いきかせた。

 地球正義軍の兵士2名は、タツノシンに敬礼すると操縦席をさっさと明け渡し、操縦室から出て行った。

「お久しぶりですね、タツノシン殿」

 操縦席に座ったタツノシンに、ケンゾーが嬉々として話しかけてきた。

「ああ、久しぶりだ。覚えていてくれたんだね」

「ええ、もちろんですよ。情報は削除していません。それにあなた様の場合、特別ですよ。永久保存扱いですからね」

 タツノシンは、さらに驚いているタツヤを尻目に笑った。

 ケンゾーと父親の関係についても、地球に戻ったら根掘り葉掘りきかなければ。タツヤは、副操縦席に座りながら、しっかり記憶に焼きつけた。

「ケンゾー、私がここに座るのは何年ぶりかな」

「かれこれ十五年ぶりってところでしょうか。いや、地球時間では、もっとですね。それにしても、あなたもずい分老けましたね」

「ああ、互いにな」

 キララ号はみんなに見送られながら、タツノシンの操縦で月を飛び立った。月の空港タワーから手を振っている、カイとツクヨミの姿がだんだん遠ざかっていく。

 タツヤの頭の中を、いろんな思い出が駆け巡った。たった一ヶ月の短い期間に、あまりに多くの出来事がめまぐるしく起こった。様々な人と出会い、別れ、いろんな運命や人生を知り、自分もそのおかげで成長した。

 子どもが体験すべきではない危険な出来事も多々あった。それでも、地球で過ごすはずだった十年間とくらべても、決して引けは取らない一ヶ月だった。

 ただ、白髪が格段に増えた父親に対しては、心配をかけすぎたと、タツヤは心の中で詫びていた。

「あと三ヶ月か。おまえが月に行ってしまうのは、あるいは宿命かもしれないな。だが、これだけは、絶対に忘れてはならない。おまえの故郷は、地球だ」

 タツノシンは前方から目をそらさずに、釘を刺した。

「もちろんさ。僕は、地球人だ。月にいても、宇宙のどこにいても、僕は地球人だよ。でも、父さんも家に戻ったら、全部話すって約束して欲しい。親子の間で隠し事はもうなしだよ」タツヤが珍しく強気に出た。

「ああ、約束するよ。実は、おまえにいつ話そうかと、ずっと悩んでいたんだ。おまえが私の話を本当に理解するには、ある程度の年月を待たねばと思っていたからね。でも、今回、私はやっと確信できたよ。全てをおまえに話せるとね」

 タツヤは、複雑な思いに顔をしかめた。どう答えていいのか、わからなかった。早くも親子の間に、気まずい沈黙が訪れた。

 ふと、視線を前方に戻すと、操縦席の大窓から、青く輝く地球が浮かび上がってきた。まるで地球の方がキララ号に近づいているようだった。

「月と地球ってこうしてみると、本当に近いんだね」

 タツヤが何気なくつぶやくと、黙っていたケンゾーが待ちかねたように反応した。

「そうです。こんなに近いのに、こんなにも違う道を歩むとは、全くもって不思議です」

 それからしばらくすると、キララ号は青い地球の中に吸い込まれていった。

                                          (完)



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