愉しい朝食
王宮の食堂のテーブルは、長い。晩餐会の時に使用する目的で設置されているため仕方ないが、家族で食事をするには長い。
上座には、もちろん現王である私の父。クレバーⅢ世。その両サイドに、皇后(私の母である)、皇太后(私の祖母である)が着席し、皇后の隣に私、弟のクレバー、妹のダイヤと続く。
計6名。テーブルの空席はその数倍はある。しかし、王宮というものは、そういうものなので仕方ない。
「学園生活も残りあと9ヶ月ほどとなったが、、、勤しんでおるか?」
朝食のスクランブルエッグを、切込みを入れたバケットに挟み込もうとしながら、父が言った。
「はい、先日の定期試験でもトップをキープいたしましたし、生徒会の方も順調にやっております。」
「うむ。まあ、それは皇子として当然のことだな、、、」
父はバゲットにハムも挟みたいらしい。
「して、、、かの令嬢とはどうだ?」
ハムを挟み終えた父は、手掴みでバゲットにかぶりつく。それを見た母が嗜める。
「あなた、またそんな食べ方を、、、」
「朝は、これが一番なのだよ!」
毎朝恒例のやりとりである。
かの令嬢、、といったな。??、、サファイアのことか?
「サファイア公爵令嬢のことですか?どう、、とは?」
「とぼけてはいかん。婚約者候補が入学してきたのだ。聞くところによると、生徒会も一緒だというではないか。仲良くしておるか?」
仲良く、、、多少のコミュニケーションは取っているが、ピクニック以降もあまり関係性は変わっていない。仲良い、、、のだろうか?
返事に詰まる。
「ダンスパーティで、他の娘のエスコートをしたそうだな。」
「!!」
「なんですって!?」
「ええっ!!」
「きゃあ!」
家族が一斉に叫んだ。5歳のダイヤは、ノリで叫んでいるな。
「少々、事情がありまして、、、」
「言い訳はよい!」
もう一ヶ月以上前のことになるのに、今更、、、学園内のこととはいえ、サファイアをエスコートしていないと発覚したら、王家と公爵家では多少なりとも問題視されることは分かっていた。だから言わずにおいたのに、、、なぜバレた!?
、、、ニールか?
「そしてだな、、」
母に口を拭いてもらいながら、父は続けた。
「一週間ほど前に、『ピクニックバスケット(2名様用)』をやったらしいな。」
最新情報を入れてきたな!絶対にニールだな!
「お前、、、3名様で利用したというじゃないか!!どういうことだ!!」
「3名!?」
「なにっ!!」
「ええっ!!」
「ピクニックー!!」
また、どよめきが。ダイヤはもういいや。
「3名だなんて、、、一体どなたと?」
母が冷たい目をして私に問う。
「サファイア・シャイニー公爵令嬢と、フェイリー・グラハム嬢です。」
「グラハム嬢・・・」
「今年の新入生で、生徒会の雑用係をしてくれています。平民からの特待生です。」
「まあ、特待生・・・優秀な方なのでしょうね。」
「そうですね。定期試験でも、トップだったようですよ。ああ、サファイア公爵令嬢もですが。」
「で、、どうして3人でピクニックを・・はっ!!まさか!!!」
母の目が更に凍る。
「あなた、どうしましょう。ジーニアスがそんな不埒ものだなんて!!」
「まあまあ、落ち着け。王族が側室を持つことは珍しいことではないし、、、いやいや、私は生涯お前だけだよ。。。ハニー。。。」
「あなた。。。」
側室?なんの話だ?
「兄上、ご婚約もまだだというのに、もうそのような・・・ガッカリしました!!」
瞳に涙をウルウルと貯めて、クレバーが叫んだ。
「サファイア様に悪いとは思わないのですか!!弟として、申し訳なくて仕方がありません!、、、はっ!かくなる上は、、、私が飛び級して聖クリスタル学園へ入学し、サファイア様と愛を育むというのも、、、アリ??」
え!?飛び級?愛を育む?
「父上、母上、私はすでに聖クリスタル学園に必要な知識は取得しております。飛び級編入試験を受けさせて頂き、サファイア公爵令嬢と親睦を深める、という道を歩んでもよろしいでしょうか?」
クレバー、、、大暴走だ。
「まあまあ、二人共、落ち着け。まだ、ジーニアスの話を聞いてないぞ。で、どうなんだ、ジーニアス?」
全員の視線が私に突き刺さる。
「いや、、あの、、、ピクニックバスケットはサファイアと楽しむつもりで、、、ええと、、、」
「ピクニック、ダイヤも行く~」
・・・・。
「、、、次のダンスパーティはサファイア公爵令嬢をエスコート致しますし、、、ピクニックは改めて二人きりで、、、、と思っております、、、」
くそう、、、なんでこんな恥ずかしいことを家族の前で言わなければならないんだ!おばあさまなんか、なぜかウルウルしているじゃないか!!
ニールのやつ!!次に会ったらただじゃおかないからな!!
、、、今日、学園についたら、最初に『ピクニックバスケット(2名様用)』の予約を入れよう。