腹黒王子と呼ばれた僕は彼女のことを語りたい。
お時間があれば、先にこちら
「悪役令嬢であるはずの私は首を傾げる。」
https://ncode.syosetu.com/n2616ie/
をお読みいただけますと幸いです。
こちらに出演しております王太子殿下が、婚約者について語りたいのだそうです。
くっそ性格の悪い王子様の語りを読む覚悟はできましたか?出来た方からどうぞ↓。
初めて出会ったその幼女は、本来目があるところが真っ赤に腫れ上がってこんもりした山が二つ見えるだけで、眉根に皺を寄りまくり、口元がへの字にひん曲がっていた。
「陛下」
「どうした?」
応接の間を退室し、執務室へ戻ろうとする父上の後ろをついて歩いていた僕は、先程出会った幼女の風体がずっと気になっていた。
謁見用の礼服を着込んだ父上は、足を留めるとマントを翻しながら振り返った。
「彼女は……メイスン侯爵令嬢は、どうして褒められたのに怒っていたのですか?」
偶然ながらも盗賊団の捕縛に協力した彼女は、感謝の言葉を貰っても、目の前に美味しそうなお菓子や飲み物を並べられていても、ずっとムッツリとした顔をしていた。
「怒っているように見えたか?」
苦笑いを顔に浮かべて、父上は聞いてきた。
僕は頷くと「とても」と言った。
「国王陛下に褒められて怒っているのは不敬に当たりませんか?」
続けてそう言うと、今度は困ったような笑いを顔に浮かべながら、軽く腰を下ろして目線を合わせると僕の頭を撫でた。
「リヒトールは賢いな、六歳とは思えん」
そのまま僕を抱き上げる。
僕は次期王の勉強も始まり、弟も妹もいる、一番上の兄だ。子どもじゃなくて、大人になりかけ。だから、抱っこは恥ずかしいんだけど。
でも父上は国王陛下で、嫌だと言ったら不敬に当たるので、黙っておく。
「あれはな、怒っているわけではなくて、なんと言うかな、不貞腐れていたのさ」
「陛下にですか?」
それはそれで不敬というものでは。
そう思ったが、父上はやっぱり苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「いいや、自分自身と彼女の父親にさ」
次に彼女に出会った時には、ちゃんと目があった。
アーモンドみたいなくりっとした形の、磨いた黒曜石みたいに輝く真っ黒な瞳。
意思の強そうな眉に、少し強張った笑顔を貼り付けて。
「はじめておめにかかります。メイスンこうしゃくけのむすめ、アルテナともうします」
この間会った時とは全然違う顔に、少し吃驚した。
思わず横に居た弟に目をやると、顔を真っ赤に染めて、あんぐりと口を開けていて見つめている。
弟はまだ四歳だけど、王族としてその顔はどうかなと思う、だけど口に出しては言わなかった。
この日は、僕ら兄弟の側近候補と婚約者候補を探すためのお茶会で、同じ年頃の子どもたちが集められていたのだけれど、彼女ほど印象に残った子はひとりも居なかった。
ひと通りお客様へのご挨拶が終わって彼女の姿を探したところ、なぜかメイスン侯爵が娘を脇に抱えて帰ろうとしているところだった。
彼女はなぜか葉っぱや土を体中につけていた。
弟がメイスン侯爵令嬢をとても気に入っていたので、婚約者にどうかと言う話になったらしい。
「陛下、僕も彼女が気になります」
意思表示は大事だ。
「うーん、お前もか。お前もか……。うーん」
「彼女は侯爵令嬢ですし、宰相の娘でしょう?年齢も三歳年下なだけです。僕の婚約者として身分的にも年齢的にも丁度良いのでは?僕の婚約者候補に相応しい条件を持つ子は、彼女を含めて三人だけと聞いています」
「……うん、いやそうなんだが。理解してるのか?……してるよな」
「しております」
「そうか……」
「弟に丁度良い婚約者候補は、彼女を含めて五人と聞いております」
「うん、まあそうだな……」
「僕は長子ですし、このまま行きますと、立太子するかと存じます」
「うん、まあそうだな……」
「まずは僕の婚約者を第一に決める必要があるのではないでしょうか」
「……うん、まあそうなんだが……ちょっとお父さん色々心配になってきた」
「なにか問題がありますか?」
僕は父上に向かって、ちょこんと首を傾げてみせた。
「いや……問題はない……多分な」
父上とそんな話をした後。
「……我が家の娘は、正直お勧めいたしませんが、……相性もございますし、そうですね、一度直接会ってお話していただくのが良いかと」
父上の執務室に呼び出された宰相は、渋い渋い表情を浮かべながら、モゴモゴと口ごもりつつも応えた。
父上も両腕を組み、むーんと悩んだ表情を浮かべている。
「そうだな……、せっかくだ、社会勉強と称して、お忍びでメイスン邸に二人を招待して貰えるか。王宮に呼べば、アルテナ嬢はまた逃げ出すだろう」
「……大変恐縮ではございますが……恐らくそれが宜しいかと。できればアルテナには伝えずに」
「伝えれば逃げ出すか?」
「恐らくは……」
「……そうか」
父上と宰相は、二人して目を瞑ると、むーんと唸って数秒沈黙した。
父上は目を開けて顔を僕の方へ向けると、
「リヒトール……この後の予定はあるか?」
と、質問してきたので、今日の予定を頭の中に浮かべる。
「近衛騎士団長に剣術を教わる予定です」
「ギルバートか。それはこちらから言って休みにして貰おう。出かける用意を。アルフレッドにも連絡を。裏門に誘導しなさい」
父上がそう言うと、宰相は「本日ですか?」と慌てていた。
「例の件もあって外出は控えていると聞いたが……本日は家にいるのだろう?」
「……それはそのとおりですが」
「先日隣国から来た縁談話にも影響がでるからな、早めに動いたほうがいい。先触れだけ出しておいてもらえるか」
「承知いたしました」
宰相は臣下の礼を取ると、執務室から出ていった。
「リヒトール。アルフレッドと一緒にメイスン邸に行って、アルテナ嬢が自分たちの婚約者に相応しいかを確認しておいで」
父上はそう言うと、僕の退出を促した。
僕も、臣下の礼をすると、自分の部屋へと早足で戻った。
そうして向かったメイスン邸では、アルテナ嬢が昼以降見つからず使用人総出で探していること、時間潰しのためにと庭園を案内されていると、アルテナ嬢が見つかったと使用人が慌てて呼びに来たこと。
その内容を聞いた宰相が大慌てで向かった先についていったところ、アルテナ嬢が馬小屋で馬のうんこまみれになりながら、犬と遊んでいたこと。
弟が「くっさぁ……」と言いながら、百年の恋も冷めたような顔をしていたのを確認することになった。
「大変申し訳ございませんが、我が家の娘は、王妃は元より王子妃にもなれる素質はございません。どうか候補から外していただきますよう、切にお願い申し上げます」
普通、切に願うのは、候補に入れてって方じゃないのかな。
結局、彼女との縁談は流れて、僕は隣国の王女と縁談が纏まり、代わりに弟は学園に入るまではゆっくりと候補を選ぶ、ということで落ち着いた。
彼女が婚約者から外れた代わりに、彼女の兄、エドワルドが僕の側近として王宮に通うことになった。
十五歳になると貴族学園に入学し、十八歳で卒業する。
僕と隣国の王女は、学園の卒業から三ヶ月後に結婚式を上げる予定が立てられていたが、十七歳の時に隣国から王女有責での婚約解消の申し入れがきた。
王女を護衛していた近衛兵との間に子どもが出来てしまったらしい。
こっそりと差し入れた『魅了の指輪』が役に立ったようで何よりだ、と思う。
「ねぇ、エド。妹さんってどうしてるの?」
側近として決まったときから、学園内でも側に控えているエドに、思い出したように聞いてみた。
「妹ですか?」
突然何を、と不思議そうな表情を浮かべながらも、エドは言葉を選びながら答えた。
「殿下とは入れ違いになってしまいますが、来年学園に入ります。刺繍は少々苦手のようですが、侯爵令嬢としては遜色ない育ち方をしていると思いますよ」
「婚約者は」
「おりませんが……、まさか候補に復帰させようと思っていらっしゃいませんよね?」
僕の新たな質問に、エドは不安そうな表情に変わった。
「念の為、ね。隣国の王女との婚約が解消されただろう。私の婚約者を早めに見繕う必要があるからね。私に釣り合う同世代はすでに殆ど相手がいるから、範囲を広げる必要がある」
「……妹は幼少時に候補から外れておりますが」
「そうは言っても、あの時は三歳か、四歳だったろう?流石に今は馬糞まみれになるような遊び方はしていまい?」
「流石にそれは……。ただ、乗馬は好きで、馬や道具の手入れなども自分でしております。表向きは侯爵令嬢として問題はございませんが……、中身は変わらずお転婆で困ることもあります」
と、言葉を選びながら、エドは困ったような様子で、暗にお断りを入れてくる。
「多少闊達なくらいな方がいい。侯爵令嬢としては問題ないのだろう?」
「いえ、いや、……まあ、はい」
「範囲を広げると弟の候補者と被る。その点君の妹は、弟の候補者からは外れているからね。改めて私の婚約者候補に含めてもいいかなと思っているんだ。まあ、今の所候補の候補、でしかないが」
エドはお転婆だと言ったが、乗馬をするご令嬢はそれなりにいるし、騎士を生業にしている女性であれば、貴族だろうと手入れも自分でする必要がある。少し考えればそれほど珍しいことでもないだろう。むしろ彼女がそれ以外の部分でご令嬢然と育っているとしたら、少々つまらないかもしれない、と思う。
エドから情報を仕入れて、ルエンデ公爵邸のお茶会に彼女が参加すると知り、使用人に扮して参加をしてみた。
薄紫のシンプルだけれど上品な昼用のドレスに身を包み、上部だけ編み込んだ髪をドレスと同色のリボンを使って両サイドで留め、残りの髪を背中へとふんわり流した彼女は、同世代の少女達より少々背が高く、艷やかで真っ黒な髪も相まって、すぐに目に飛び込んできた。
同世代の少年たちは、彼女をチラチラと見ているものの、成長期一歩手前の彼らより身長が高い彼女に、気後れしている様子が見て取れた。
気が付かれないように気をつけつつ茶会を楽しむ彼女を観察していると、不審な行動をとり始めた。
会話を楽しんでいたテーブルから離れ、見えにくい位置にあるバルコニー付きの窓へと近寄る。休憩を挟むつもりなのかと、御用聞きの体で近づくと、彼女は音を立てないように歩いていることに気がつく。
目を向けると窓の横で少女と少年が一人ずつ立ち話をしていた。
恋愛ごとの出歯亀でもしようとしているのか?と少々鼻白んだものの、少女の表情がどうにも青ざめていて硬い表情で床を見つめている。
と、少年の真後ろに立った彼女は、窓を開けると同時に少年の足を引っ掛けて転ばしたと同時にカーテンを閉めた。
その上で“遮音の魔法”を素早く唱える。
十四歳のご令嬢にしては、随分と動作も詠唱もスムーズで無駄がない。
“遮音の魔法”のせいで聞こえづらくなったカーテン向こうの音が気になり、気が付かれないように隙間を見つけて“集音の魔法”を掛ける。
無事に魔法が掛かり、魔法の技術レベルは、僕の方が高いらしいと少し安心した。
「うあっ」
窓の向こうから少年の苦しそうな声が聞こえる。
「ごきげんよう、クラレンス伯爵令息。公爵家でのお茶会だと言うのに、レバン子爵令嬢に何をお話していたのかしら?」
「う、ぐ、足、どけろよ!」
「あら、退けたら逃げるでしょ?ちゃぁんとお話聞いていただかないと困るもの。ね?」
「こんなことして、いいと思ってるのか!」
「いいと思っているわよ」
「は」
「貴方は伯爵令息、私は侯爵令嬢。ね?これだけでも問題ないでしょう?」
「う」
「ちなみにこのお茶会に参加しているのは同派閥の子息令嬢ね。ところで私は誰の娘だと思いまして?」
「あ」
「レバン子爵家は確かに貴方のお家よりも家格は低いですけれど、宰相家とも繋がりが深く、彼女の父親は私の父の部下なんですのよ」
「そ」
「レバン子爵令嬢は私よりもひとつ年上でいらっしゃいますが、文学に造詣が深く、思慮深く、学園でもAクラス所属。家格が伯爵家以上であれば、Sクラスにお入りになれるレベルだとか」
「こ、こざかしいだけだろう……い、いたっ!」
「あらやだ、その言葉どこで覚えましたの?まあ、ご自分のおつむが足らないだけなのに、貶す言葉だけは記憶されているのね。大人が使う品のない言葉を賢しい気になって使うと恥ずかしいですわよ?そもそも彼女よりも貴方が劣るのは、勉強不足なだけではございません?あら、貴方はAクラスなのかしら、Sクラスなのかしら」
“集音の魔法”のおかげで、カーテンの向こうから楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。
ただし、何も聞こえていないレバン子爵令嬢は、どうしたらいいのかわからずにオロオロとし始めたので、「ここは任せてお戻りください」と声をかけると、心配そうにしながらも「わかりました」と言って、お茶会会場へと戻っていった。
その姿を見送ると、周囲に“目くらましの魔法”を掛けて、もう一度カーテンの向こうへと意識を戻す。
「だ、誰か」
クラレンス伯爵令息は助けを呼ぼうとしたようだ。
「“遮音の魔法”を使っていますから、周りに聞こえませんわよ。と、言うか……貴方この状況、他の人に見られたいの?」
呆れたような彼女の声。
「か弱い令嬢に蹴り倒された挙げ句、ちょっと本当のことを言われただけで半泣き状態。その情けない姿、他の人に見せますの?一番近くにいるのは、レバン子爵令嬢だと思いますけど、彼女に見られたい?」
「……あ」
「情けない姿を彼女に見られたいなら構いませんけど。そもそも先程までの彼女への詰め寄り方だって、私からすればとーっても情けない姿にしか見えませんでしたけど?」
「つ、詰め寄り?」
「嫌い嫌いも好きのうち、なんて言葉がありますけど、それ、実際にやっても相手に伝わりませんからね?貴方今、レバン子爵令嬢からの評価は、地を這うを通り越して、地底に向かって掘り進んでいると思いますけれど」
「そ……それは……いや、べつに、好きじゃ、な……」
「ああ、じゃあ嫌われたままの方が宜しいのですね。承知いたしましたわ。そのように手配して差し上げましょう」
「な、何を……!」
「これ以上貴方に関わられるのはお可哀そうですもの。ですからね、彼女の前に貴方が姿を現せないようにするだけです。このままでは貴方のご家族にも飛び火しそうですもの。親同士が険悪になる可能性を考えませんでしたの?」
「そ…それは、その……ご、ごめんなさい……ごめんなさい。もうしませんから……」
「何をですの?」
「れ、レバン子爵令嬢に、話し、かけ、ません……」
「それで宜しいの?」
「……はい」
「……はぁ……。老婆心ながらお伝えいたしますけれど、レバン子爵令嬢と私のお兄様には婚約のお話が出ておりますの」
「……えっ?」
「子爵家では少々家格が低いですけれど、伝統と忠誠心があるご一家です。ですからお話が持ち上がりました。ですけど、やはり子爵家では家格が足りないと、もう一つ決め手が足りずに本決まりになっておりません」
「……」
「とは言え、お兄様の卒業までには決める予定、そうですね、あと二年弱程ございます」
「……それは」
「貴方にもレバン子爵令嬢との婚約話が幼馴染のよしみで持ち上がっているのでしょう?」
「……そうです」
「決定までに見違えるように成長なされば宜しいわ。例えば来年の学園入学でAクラス以上」
「……う」
「剣術や馬術もしっかりと」
「うぐ……」
「……無理でもせめて正した姿勢を見せるべきです」
「……」
「どういたします?」
「……が、頑張ります」
「それは宜しゅうございましたわ。父にも申しておきます。あ、でも」
「……でも?」
「最終貴方を選ぶかどうかは、レバン子爵令嬢次第であることはお伝えしておきますわね。嫌いな人との結婚生活なんて最悪ですもの。そうですねぇ……例えば誠心誠意謝って、彼女の好きそうな本と花束でも持っていかれたらどうです?」
「……そうします」
隣国の王女には、婚約解消までに二度程顔合わせをしたことがある。
婚約の申込みは向こうからであっても、政略結婚には変わりなく、一度目の顔合わせの時に、王女は随分と顔を歪めていたものだった。
僕が七歳、王女が八歳。
女性の方が成長も早くて彼女の方が身長も高く、年齢もひとつ上。
彼女曰く「女みたいな顔をしていて、こんなみっともない子と結婚なんか、したくない!」ということだった。
王女自身、金の髪に淡い水色の瞳と白い肌に桃色の唇を持った妖精姫、と呼ばれる程の愛らしさだったらしいが、だからこそ「女のような」僕がとても嫌だったのだろうと思う。
いや、七歳児なんて男女差がようやく出てくるくらいだろうに、などと、八歳児に言ったところで理解できない、なんて、当時の僕は七歳児なので思い至らなかったが、王族としての矜持を忘れなかったので、心の中だけで呟くに留めておいた。
眉間に皺を寄せ、口をへの字にする。
泣き喚いた後ではないので、目元が腫れて瞳が見えない……などと言うことはなく、妖精姫と呼ばれるだけの事はある顔をしていたが、その顔には嫉妬だとか嫌悪だとか様々な悪感情が浮かんでいて、僕には醜悪なものにしか見えなかった。
周囲に甘やかされて我儘したい放題。隣国の王子に暴言を吐いたことを窘められると不貞腐れ、それを注意されると泣きまねまで始める。
ああ、これが僕の花嫁なのか……と、少しがっかりした。
今思えば。
彼女の顔は、隣国の王女よりも物理的には酷い顔をしていたように思う。
なのに何故違うように見えたのかなぁと思えば、恐らく不貞腐れた顔の中に、後悔とか反省とか、それを口に出したくない反抗心とか、そういうものが見え隠れしていた気がする。
僕にはなんだかキラキラして見えたのだ。
「最初の一目惚れは王宮でムッツリ泣きはらした顔だからね」
「趣味が悪い!」
「今思えば、あれが初恋だったんだなあって気がついて」
「絶対おかしい!」
僕の新しい婚約者は、僕の横でプリプリと怒っているんだけど、それが可愛い。
「僕は人を見る目があったんだなぁって思うよ」
「はぁ?」
僕のことを胡乱な目で見てくるその姿も、もの凄く可愛い。
「あの時君が馬糞まみれになっていて良かったなと思っていてね」
「喧嘩を売っていらっしゃいます!?」
「いや、本気でそう思ってるよ」
そう言って、僕はアリーの手の甲に、本日三度目のキスをした。
あの姿を見たからこそ、弟がアリーを婚約者候補から外してくれたんだと思うと、僕は本当に幸運だったなって思っているよ。
アルテナがカーテンの向こうに蹴っ飛ばしたのは、暴行を隠匿しようとしたわけじゃなくて、情けない姿を好きな人に晒さないであげようと言う優しさだったらしい。
まだ十四歳とは言え、男性と二人っきりになってる状況に問題があることに気がついてはいない。
リヒトールはアルテナのことを詰めが甘くてどこか抜けてる、と思っている。
でもまあ婚約者になったし、自分がフォローすればいいか、とも思っている。
アルテナはこんな婚約者でも何故か好き。
でも、思った以上にこのカップル性格がアレなんですけど、これ、公開して大丈夫でしたか……?
ーーー
お読みいただきましてありがとうございます。
「悪役令嬢であるはずの私は首を傾げる。」(https://ncode.syosetu.com/n2616ie/)
が、日間にランクインしたお礼小説として書かせていただきました。
王太子殿下が脳内に降臨したせいでもあります。
少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
ご感想でいただいたヒロインのお話を三作目としてUPしてみました。
お暇な時にでもお読みいただけると嬉しいです。
「乙女ゲームヒロインであるはずの私は困惑する。」(https://ncode.syosetu.com/n7989ie/)