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甘党

作者: 飯田 真琴


 本当は私、甘いミルクティーよりも、ブラックコーヒーが好きなの。

理想は無口で大人びた人がいい。休日は古本屋巡りとか、純喫茶デートがしたい。


 君は真反対だね。いつも犬みたいに尻尾振ってるし、大きな声で笑うし、日に焼けてる肌が鬱陶しいくらいに眩しくて、私には直視できない。


 よく太陽と月だなんてロマンチックな例えをするけれど、私たちはそんな可憐なものではない。

私はずっと日陰で生きてきて、君の聴く吐き気のするような甘い歌詞の羅列なんて知らなかったし

角砂糖何個分か考えただけでゾッとするような色の炭酸水も飲んだことがなかったよ。


 同じ星で生まれたのか本当に疑うくらい、私と君ってどうしてこんなにも違うんだろう。

馬鹿みたいに濁りのない君の瞳を見ていると、いつも気が狂いそうになる。


 そんな私たちも所詮、男と女という生き物で、出会って惹かれあって抱き合ってしまった。

君の顔が好き。綺麗な顔が好き。指先が好き。背格好が好き。首筋が好き。

見た目が好きなだけでこんなにも夢中になってしまうのは、人間は所詮動物だからなんだと思う。


 君も言った。可愛い。綺麗。ずっとこうしたかった、って。

あまりにも違う人種の私を君が見つけてしまったのは、雄としての本能でしかなく、それはそれで正解であり真理なのだと、私は妙に納得してしまっている。


 終わりのある恋は苦しいが、私たちの恋は始まってもいないのだ。

決まったバッドエンドに向かって走っていくなんて、あまりにも残酷で虚しい。

どこかで私たちは責任をなすりつけ合っていて、君が始めてしまったんだろう、と言い出す日を待っている。


 きっと君の理想の彼女は、明るい髪の爪の長い女で、しょうもないヒットチャートで涙を流せる人。

その純粋さを、君は屈託のない笑顔でかわいいって褒めるんだろうね。

私は君が何この暗い歌って鼻で笑った、あの音楽に救われたのに。

君よりもっと人生とか哲学とか難しい話ができる人なんて、この世界に幾らでもいるのに。


 大人になってしまったから、恋の始め方とか分からない。

限りある美しい時代を、君に無駄に捧げるわけにはいかないのに。

好きって言えないことが、こんなに苦しいなんて知らなかった。

君と世界でふたりきりだったらな、余計なこと、考えずに済むのに。なんて。


 気怠い昼下がり、ぬるくなったミルクティーにひとつ、角砂糖を落とした。

君の好きな、甘党の女の子を演じてる。





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